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 2022年5月にデビューした日産サクラ。軽自動車の枠組みのなかで純電動化をするならばどうするか? という命題に正面から取り組んで、日産が示した回答がSAKURAそのものだ。

 1日の走行距離は50~60㎞以下がほとんどだという軽自動車の使用条件を前提に、バッテリー容量をあえて20kWhと小さくした。これによりバッテリーの軽量、小型化を実現するとともに、価格を低く抑えることを優先した。

 果たしてそのコンセプトは狙い通り。発売直後から受注は好調。発表から3週間後には受注が1万1000台を超える勢いで、あっという間に大ヒット!! 納車も進み、街中を走るSAKURAの姿を多く見かけるようになってきた。

 また、2022~2023「日本カー・オブ・ザ・イヤー」を獲得するとともに「K CARオブ・ザ・イヤー」も獲得。市場からのみならず、専門家からも高く評価されていることがよくわかる。

 そんなサクラの魅力と、高く評価される理由を自動車評論家のお二人に語っていただきました!

日産サクラの人気の秘密を飯田裕子(左)と鈴木直也(右)が徹底解説する

文/飯田裕子、鈴木直也 写真/池之平昌信、平野学、ベストカー編集部

【画像ギャラリー】祝・日本カー・オブ・ザ・イヤー獲得!! 日産SAKURAがプロにも一般の皆さんにもめっちゃ高評価な理由(20枚)画像ギャラリー

毎日の通勤でホッとできるスッキリ、快適な室内空間と使い勝手のよさに癒される……飯田裕子

 日産が行ったユーザー調査によると、半数以上の人の一日の走行距離が30km以下であり、30~100km未満では8割を超える。サクラの航続距離180km、20kwhのバッテリー搭載量はこのような移動形態をもとに算出されているという。日産にはリーフやアリアというより長い航続距離を持つEVもある。サクラは日常の移動にフォーカスした軽自動車EVだ。ガソリンスタンドも減少傾向にある郊外で充電設備を整えやすい家庭の日常の足がサクラに変わったら、日々の移動の快適さがアップデートされるに違いない。洗練されたデザインと質感、室内のパッケージングにも優れ、EVのメリットを確かに持ち合わせた走りや居心地のよさが、この軽自動車サイズのEVには凝縮されている。

 そんな風に私が思うのは、私が会社務めをしていた頃、毎日片道約20kmを小一時間かけて車通勤をしていたから。ちなみに最も最寄りのスーパーやドラッグストアまでなら片道8km。自然豊かな田舎に実家があることに感謝だ。

 ただクルマがないととても不便な生活環境下では特別な性能やこだわりをクルマに求める以前に、クルマは自由な「個の移動」を叶える大切なライフラインとなる。

ベストカー45周年記念イベントでサクラについて話をする飯田裕子氏と鈴木直也氏

 あの当時、そんなクルマ生活を、単なる軽自動車EVという枠を超えたサクラと過ごせたら移動の価値観はもっと質の高いものになっていたに違いない。

 サクラはそのデザイン性と高い質感を乗って、触れて、見てとトータルで仕上げているからこそ、軽自動車であることを忘れ洗練された「小さなEV」と表現したくなる。

 デザインは黄色のナンバープレートで軽自動車であることを認識するくらい、コンパクトだけど佇まいは力強く、しかし厳つくはなく柔らかな印象だ。質感高く滑らかに仕上げられた面が創り出すフォルム。フロントマスクや前後のライトは革新的なイメージを与えてくれる。とりわけ電動化を象徴する光るVモーショングリルやエンブレム、薄型ながら白くて強い光を発するLEDライトにアリアとの共通性、日産のEV=先進性を抱かせてくれる。そんななかに近年の日産のデザインDNA「タイムレスジャパニーズ フューチャーリズム」をさり気なく装う「格子」から着想を得ているというリアライトまわりのアクセント、「水引」という伝統的なモチーフを採用したホイール、車内にはカップホルダーの隅に「桜の花」があしらわれていたりする。四季の彩りをテーマとした配色を含む15色のボディカラーにもぜひこだわりたい。

 インテリアはボディサイズを最大限に活かした開放感のあるスペースに単なる近距離移動モデルである以上の実用性を持ち合わせているだけでなく、そのクオリティも軽自動車のイメージを超えてきた。インストルメントパネルは全面撥水加工されたファブリックを採用し、モダンなソファーを思わせるシートとの質感、デザイン・トーンのコーディネイトにも高い満足感と心地よさを抱くことができる。マットなカッパー色のアクセントも上質さを一層引き立てているようだった。そこに「モノリス」と呼ぶタブレットを2つ並べたようなディスプレイがシンプルに、しかしさまざまな機能をここから得ることができる。一方で運転中に必要なスイッチ類は直観的に操作できるように配置されている点が良い。駐車の際の画像のグラフィックの高精彩さ、ナビ画面、またはスマホと連動させた際のグラフィックの見やすさもクラスレス。全面フラットフロアの後席の広さも特筆もの。スライド機能も付いてアレンジ性も持ち合わせている。

一般的な軽自動車のクオリティを大きく超えるサクラのインテリアを飯田裕子氏は高く評価。光沢を抑えた、マットな質感のカッパー色のラインがアクセントとなる

 このような居住空間を持つ軽自動車の走りが電動化に洗練度も圧倒的に増している。EVだから静かと決めつけるのは乱暴、エンジン車だから打ち消すことの出来た音や振動もある。サクラの静粛性はタイヤの存在こそ認識はできるものの、EVのメリットを活かした静粛さと、それを心地良く味わえる乗り心地の良さもしっかりと保たれている。

 ドライバビリティの印象は軽さと滑らかさに集約できる。モータードライブの加速の俊敏さと軽快さ、ステアリングの操舵感も軽く滑らか、走行フィールも軽快でありつつシットリと路面を捉えて走る。床下にバッテリーを搭載した安定感はもちろん、コーナーリングではそれをボディ上部まで一塊で動かし、スイスイと走らせることができるのだ。軽自動車の一般的なエンジン音や振動、シフトの繋がりやラグが無い動力の洗練と操作、室内の居心地などのトータルで軽自動車の枠を超えた「小さなEV」の洗練ぶりがうかがえるから「日常の移動をアップデートできそう」と言いたくなる。

 自宅で手軽に充電をして乗ることが想像しやすいサクラながら、バッテリーの温度コントロール機能も備わり、出先での充電効率も考えられている。この機能はバッテリー保護対策にも繋がる。さらにこれは有料となるが「NISSANコネクト」の繋がるサポートも採用すれば充電プランも考慮したルートプランの作成や車内Wi-Fiの利用の他、さまざまなサービスが用意されている点も含めこれまでの軽自動車の価値観が変わりそうではないか。

 エンジン車に比べてまだまだ価格は割高感のあるEV。サクラが小さな高級EVだったらこの登場をここまで喜べなかっただろう。サクラは軽自動車の上級モデルほどの価格と手が届きやすい。日産がこのサクラで提唱する「毎日の生活の質を高めてくれる手の届きやすいEV」は間違いない。

サクラこそ日本の電気自動車のあるべき姿。それが市場で評価されたということ!………鈴木直也

 最近SNSを見ていると、バッテリー電気自動車(BEV)についての論争をよく見かける。

 典型的なのは「日本はもっと積極的にBEVシフトせよ!」と誰かが言い出して、それに対して「バランスよく電動化へ移行しないといろいろ問題が出るよ!」と誰かが反論するパターン。BEV推しの人は、カーボンニュートラル政策の後押しもあって「正義は我にあり」と威勢がいいから、議論が熱を帯びすぎて炎上したりする。

11月20日に開催された「ベストカー創刊45周年記念イベント」でサクラの魅力を来場者に解説する鈴木直也氏

 こういう論争を見て思うのは「やっぱりテスラの影響は大きいなぁ!」ってこと。世界初の量産BEVは三菱i-MiEVと日産リーフだったけど、みんなそんなことはすっかり忘れて「テスラを見習え!」って持論を語る。

 テスラモデルSの成功がロールモデルとなって、世界中でそのライバルが登場したのはまぎれもない事実だ。しかし、EVが本格的普及期に入った段階で、いまさらテスラを見習っても遅いと思いません?

 本当にCO2を減らしたいのであれば、なるべくたくさんのエンジン車をBEVで置き換える必要がある。ところが、現在主流となっているBEVは、おおむね500万円前後。真面目に自動車のカーボンニュートラル化を推進するには多くの人が無理せず買える実用的なBEVが必要なのに、まだまだ普通のサラリーマンにとっちゃ高嶺の花と言わざるを得ない。

 じゃぁどうするか? ぼくは日産サクラこそBEVが抱えるジレンマへの答えだと思うのだ。

 ご存知のとおり、サクラは日産デイズをベースとしたBEV。スペック的には、電池容量20kWh、モーター64ps/195Nm(19.9kgm)、車重1080kg。航続距離はBEVでもっとも注目される性能指標だけど、サクラはWLTCモードで180km。おおむね400km以上を目指してる最近のBEVの中では、かなり割り切ったスペックといえる。

サクラに搭載されるリチウムイオンバッテリーは容量20kWh。あえて小さくしたことで、軽量、小型、さらに低価格を可能とした。それでもWLTCモードでの航続距離は180㎞を確保する

 ただし、そのかわりサクラの価格は約250万円〜304万円。補助金を利用すれば、上級モデルでも200万円ちょっとで購入できるのが最大の魅力。世界的に見てもきわめて革命的な価格を実現しているのだ(45万円EVとして話題になった中国製BEVなどは、安全基準などの点でそのまま先進国市場に持ってくるのは無理)。

 このコスパのよさを一番よくわかっているのは消費者のみなさんで、アッという間にサクラの受注は3万台を突破。半導体不足もあって11月には一時受注を停止せざるを得ないというくらい引っ張りだこになっているが、ようやく昨日12月22日より受注が再開された模様だ。。

 一部マニア層を除いてBEVには慎重だった日本のユーザーが、なぜサクラにはこんなに熱く反応したのかといえば、普通のユーザーに「あ、こういう使い方ならBEVの方が便利!」というメッセージが明確に届いたからだと思う。

 従来のBEVはほとんどが在来エンジン車の置き換えを目指していた。そうなると、航続距離は400〜500kmくらい欲しいから搭載電池は60〜80kWhが必要。必然的に重量と価格がかさむというジレンマに陥る。

 これに対し、サクラのユーザーはその割り切ったスペックをよく理解していて、使い方がハッキリしている人が購入しているんじゃないかな?

 典型的なのが、車庫スペースに余裕のある地方在住の方が、これまでセカンドカーとして使っていた軽自動車をサクラで置き換えるパターンだろう。

 もともとご近所の用足しがメインだから航続距離は100kmもあればOK。充電は基本自宅の200Vチャージで、ガソリンスタンドへ行く手間がなくなってハッピー。ついでに、屋根にソーラーパネルが乗ってたら、V2Hで家庭用蓄電池としても利用できる。

 500万円オーバーじゃ話にならないけど、この利便性が200万円で手に入るならぜひ購入してみたい。そういうユーザーがたくさんいたってことじゃないでしょうか。

 で、実際に乗ってみると、走りも予想以上にイイんですよ。

 いちおうカテゴリーとしては軽自動車だけれども、エクステリア・インテリアの質感はコンパクトカーすら超えてCセグに迫るレベル。

 ガソリン仕様に比べて200kgほど増えた重量は、そのほとんど床下に集中しているから、ロードホールディングは安定感抜群。ついでに、バッテリーパックがフレーム剛性に寄与していて、乗り心地にもビシッと引き締まった剛性感がある。

重量物のバッテリーをホイールベース内の床下に搭載しているため、重心が低く安定感の高い操縦性を味わうことができる。また、バッテリーを搭載するフレームがフロア剛性を高めることに寄与していることで、乗り心地もしっとりとしなやか

 ドライバビリティも、これまた軽自動車ばなれしたイイ感じだ。

 自主規制で馬力は64psに抑えているけど、195Nm(19.9kgm)のトルクは平均的な軽ガソリンターボの約2倍。しかも、アクセルに瞬時に反応するから、じつに小気味よくスイスイ加速してくれる。

 BEVだからパワートレーン系からの騒音が極小なのは当然だが、ロードノイズの低減も軽自動車という制約を考えるときわめて優秀。高速道路の100km/hクルージングは軽自動車中ベストの快適性を誇るから、出先でのこまめな充電を厭わなければ、ロングドライブだってぜんぜんOKだ。

 BEVでカーボンニュートラルに貢献するには、ライフライクルアセスメント(LCA)でCO2排出量を減らし、走行時の電費効率を高め、電力を供給するグリッドへの負荷を減らすことが肝心。そのためには、小さいこと、軽いこと、そして廉価なこと、エンジン車以上にこの3つの要素が重要となる。

 つまり、サクラこそカーボンニュートラル時代のBEVのあるべき姿。大ヒットして当然ってことですね。納得です!!

日産SAKURA価格(2022年12月22日改訂)

・S:249万3700円

・X:254万8700円

・G:304万0400円

(※編集部注/電気自動車である日産サクラは購入の際に国、自治体からさまざまな補助金を受け取ることができます。たとえば東京都小金井市にお住まいの場合、2022年度実績で国から55万円、東京都から45万円(再エネ導入しない場合)、小金井市から10万円(2022年度予算)の、計110万円を購入後に受け取ることができます。詳しくは各販売店へお尋ねください)

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