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 2022スーパーGT最終戦もてぎへ、ランキングトップ2で挑んだのは2021年と同じ顔ぶれだった。王者奪還を目指す2020年王者のリアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rと、GT300史上初となる同一チームでの連覇を狙うSUBARU BRZ R&D SPORT。ただし、“追う側”と“追われる側”という立場は入れ替わっていた。2台の差は、わずか2.5ポイント。だが、その僅差が大きな意味を持っていた。

 12月22日(木)発売のauto sport臨時増刊『2022-2023 スーパーGT公式ガイドブック総集編』では、最後の最後まで結末の行方が動き続けたGT300クラスの2022年シーズンを振り返る。ここでは、その一部を抜粋してお届けする。

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 毎年、熾烈なチャンピオン争いが繰り広げられているGT300クラス。2022年もさまざまなハプニングやドラマ、名シーンや新たなヒーローが誕生したシーズンとなった。

 シーズン開幕の舞台は、毎年恒例となっている岡山国際サーキット。週末をとおして晴天に恵まれ、ドライコンディションで激しいバトルが展開された。まず、予選で速さを見せたのが、2021年王者の61号車SUBARU BRZ R&D SPORTだった。特にQ2では山内英輝がコースレコードを大幅に更新するタイムを叩き出し、ライバルを圧倒してポールポジションを獲得。シーズン前のテストではクラッシュを喫するなど流れが悪いところもあり、連覇に向けたシーズンスタートが不安視された部分もあったが、開幕戦の大一番で見事に帳尻を合わせてきた。

 決勝も、このまま61号車が先行するかと思われたが、それに待ったをかけたのが2020年のチャンピオンで、2021年は最終戦まで61号車と激しい王座争いを繰り広げた56号車リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rだった。スタートスティントの藤波清斗が5番グリッドから積極的にポジションを上げていくと、25周目には61号車を捕らえてトップに浮上。その後、ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラにバトンをつなぎ、2年連続でノーウエイト勝負となる開幕戦を制した。

「開幕戦で勝ってしまうと、(サクセスウエイト/SWが)重くなって大変だけど、目の前にある1戦1戦を獲りにいってがんばりたいと思います」と近藤真彦監督。幸先の良いスタートを切り、藤波とオリベイラも笑顔を見せていた。

 一方の61号車はレースペースで苦しみ9位フィニッシュとなったが、予選一発での速さが健在だということは充分に証明された。“速い”61号車と“強い”56号車。振り返れば、ここから彼らの王座争いはスタートしていたのだ。

■運命の最終決着

 第7戦オートポリスを終えて、チャンピオン争いの主役に残ったのは2021年と同様、56号車と61号車だった。最終戦に52ポイントでランキングトップとして臨んだのは、開幕戦での優勝以降、ほぼ毎戦でポイントを積み重ねてきた56号車。それを2.5ポイント差で追いかけるのが、第4戦富士での優勝を皮切りに後半戦でポイントを稼いだ61号車だ。

 しかし、この2台の直接対決になるかと思われた最終戦には、予選から思わぬ波乱が待っていた。ポールポジションを目指してアタックをしていた61号車の山内が、最終ビクトリーコーナーを立ち上がった直後に挙動を乱し、ピットウォールにクラッシュ。セッション中断となった。

 大事な一戦でマシンを壊してしまっただけでなく、赤旗の原因を作ったとしてQ2のタイムも抹消され、16番手と後方グリッドからのスタートが決まった。山内をはじめ、チーム全員が天を仰いだ。

 サーキットに衝撃が走った光景だったが、これを見て“ある意味で動揺していた”のが56号車陣営だった。「61号車のクラッシュは本当に残念だったし、『明日は我が身だな』と思ってまったく喜べなかった」と近藤監督。それが、まさに現実となってしまう。

 決勝も序盤から大荒れの展開が待っていた。GT500とGT300が絡む多重クラッシュが発生してセーフティカーが導入されると、その隊列走行中のホームストレートで31号車apr GR SPORT PRIUS GTの中山友貴が、5号車マッハ車検 エアバスター MC86 マッハ号の冨林勇佑に追突するというアクシデントも発生。いつもとは違う最終戦といった雰囲気が漂っていた。

 そのような状況下で、7番グリッドからスタートした56号車は着々とポジションを上げ、40周終了時点で4番手まで浮上。このままいけば表彰台フィニッシュの可能性も出てきており、2年ぶりの王座奪還に向けて不安要素はないように思われた。ところが、残り20周を切り“まさかの事態”が起きる。4コーナーを通過中に右フロントタイヤが外れてしまったのだ。

「これまで3年間、走行中にタイヤが外れたことは一度も起きなかったのに、なぜここで出てしまうんだろう、と思いました」と藤波。後半スティント担当のオリベイラはなんとかピットまでマシンを戻し、タイヤを装着してコースに復帰したが、ポイント圏外まで後退。61号車もペースが上がらず、後方に沈んでいる状況だ。最終戦のレース終盤にきて、“次なる候補”が名乗りを上げることとなった。

 まずはトップから6ポイント差で最終戦を迎えた10号車TANAX GAINER GT-Rの大草りき。相方の富田竜一郎が第7戦オートポリスを欠場したため、ひとりで初タイトルのチャンスをつかんでいた。この時点で富田が駆る10号車は3番手を走行。このままいけば逆転でルーキーチャンピオンの誕生となる。

 だが、富田はタイヤのグリップダウンに苦しんでおり、後方からライバルたちが迫っていた。残り10周を切ったところで87号車Bamboo Airways ランボルギーニGT3に抜かれて4番手に後退すると、今度は18号車UPGARAGE NSX GT3が接近。このままポジションを落とし続けると大草のチャンピオンの可能性がなくなるということも分かっており、富田は必死に応戦する。18号車の太田格之進と、約1周半にわたるサイド・バイ・サイドのバトルを演じた。

 しかし、ペースで勝る18号車が先行。残り7周で、2番手走行の52号車埼玉トヨペットGB GR Supra GTの川合孝汰(吉田広樹は第2戦富士を欠場)、5番手の10号車大草、21番手の56号車藤波/オリベイラが52ポイントで並ぶという前代未聞の事態となった。

 3台がこのままの順位でフィニッシュすれば、2位の獲得回数で上回る大草が王座に着くことになる。だが、最後の最後で“大どんでん返し”が起きる。残り4周で87号車が52号車を抜いて2番手に浮上すると、最終ラップには88号車Weibo Primez ランボルギーニGT3が10号車を抜いて5番手を手にした。これで52ポイントのラインに残ったのは56号車のみとなり、大逆転に次ぐ大逆転で、56号車が王座を奪還した。

「まるでジェットコースターに乗っているような感じだった。突然トラブルが起きたけど、とにかくピットに戻ることを目指した。その後、セーフティカーとかが出るような展開になれば、また僕たちにチャンスが巡ってくると思って……」と、後半スティントを振り返ったオリベイラ。終盤はチームとほとんど無線交信せず、走りに集中していたという。

「チェッカーを受けた後、エンジニアから『僕たちがチャンピオンだよ!』と言われたときは、どう反応すればいいか分からなかったけど、涙が出ていた」と、オリベイラにとっても1年間王座を目指して戦ってきた苦労が実った瞬間だった。

 最後は運も味方したような決着となったが、振り返ると56号車がチャンピオンになれた大きな要因は、開幕戦からコツコツとポイントを積み重ねてきたことにほかならない。勝敗を分けた“52ポイント”というラインにいち早く到達していたのも彼らだった。それが、最終戦での不測の事態が起きても、チャンスを失わずに済んだ大きな要素となったのは間違いない。

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『2022-2023 スーパーGT公式ガイドブック総集編』では、このほかにも、GT300チャンピオンに輝いた藤波とオリベイラのインタビューや、“重くても速い”GT300チャンピオンカー、リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rのメカニズムなども収録されている。

※この記事は『2022-2023スーパーGT公式ガイドブック総集編(auto sport臨時増刊)』(2022年12月22日発売)内の企画からの一部抜粋・転載です。

『2022-2023 スーパーGT公式ガイドブック総集編』GT300シーズンレビュー
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『2022-2023 スーパーGT公式ガイドブック総集編』GT300テクニカルレビュー
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