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<p>ゲームのアイテムじゃない 競技も誕生した「リアル棍棒」の魅力</p><p>ゲームのアイテムじゃない 競技も誕生した「リアル棍棒」の魅力 棍棒を手にしたとき、多くの人がなぜか野生の喜びと魅力を感じるようなのだ</p><p>狩猟道具や武器、工具などとして古くから使われてきた棍棒(こんぼう)。農業や山仕事をきっかけに、間伐材を使って棍棒を作り始めた奈良県宇陀市の男性が「全日本棍棒協…</p><p>狩猟道具や武器、工具などとして古くから使われてきた棍棒(こんぼう)。農業や山仕事をきっかけに、間伐材を使って棍棒を作り始めた奈良県宇陀市の男性が「全日本棍棒協会」を立ち上げ、棍棒を飛ばす新競技も生み出した。棍棒の材料を求めて山に入れば、人はおのずと人工林や環境問題について考え始め、「美しい里山を取り戻すことにつながる」。何よりも棍棒を手にしたとき、多くの人がなぜか野生の喜びと魅力を感じるようなのだ。 棍棒飛ばし選手権大会 昨年10月、宇陀市内のグラウンドで初めての「全日本棍棒飛ばし選手権大会」が開かれた。5人1組のチームで対戦し、飛距離などを競う。直径6センチ程度、長さ約50センチの棍棒を台に載せ、台からはみ出した部分を別の大きな棍棒で上から力いっぱい叩く。クルクルと回転しながら跳ね上がった棍棒が遠くの地点に落下すれば高得点となるが、守備側の相手チームに棍棒で打ち返されたり手で受け止められたりすれば減点される。 大会には奈良県内をはじめ大阪府、愛媛県、鳥取県などから約60人が参加した。あいにく雨だったが、木を打つ音が響き、熱い戦いが繰り広げられた。 棍棒は冒険などがテーマのゲームに武器などとして登場することもあり、若い世代にとっては「実はなじみのあるアイテム」と全日本棍棒協会の東祥平会長(31)。「今回、バーチャルではなくリアルに手にすることで、より身近に感じられたと思う。魅力を知った人も多かったのではないか」。さらに参加者を増やしたいと意気込む。 きっかけは山の整備 東さんが棍棒に出会うまでには曲折があった。大学生のころ将来を思い悩んで休学し、その後退学。さまざまな職種を経て、出身地の大阪府富田林市で畑を借りた。野菜を作ってみると面白く、張り合いも感じた。自給自足ができる場所を探し、たどり着いたのが宇陀市。平成27年に古民家と田畑を借りて生活を始めた。 ところが本格的に農業を始めてみると、食べ物を求めて山から下りてくるイノシシやシカによる獣害がひどく、作物の収穫どころか栽培もままならない。動物たちをもといた場所に帰し、「豊かな里山を取り戻すためには山林の整備が必要」と、近隣の山仕事も手伝うようになった。 山では密集した木を間引き、下草に光が差し込むようにするなどの管理が必要だ。だが切り倒された間伐材は、板にするには不十分で、薪(まき)にするにはもったいない太さ。処分に困った。そのとき目についたのが、木を切り倒す際、切り込みに入れたくさびを打つための小さな棍棒だった。 東さんは、なたやグラインダー(砥石を回転させ研削する電動工具)を用いて間伐材を削り、大きめの棍棒を作ってみた。大阪市内の友人にプレゼントしたところ、予想外に喜ばれた。「棍棒に魅力を感じる人はもしかしたらたくさんいるのでは」と気づいた。 「大棍棒展」100本売り上げ 「試し殴り」ができるとあって好評を得た「大棍棒展」=令和4年2月、大阪市(全日本棍棒協会提供) 本格的に棍棒の制作を開始し、昨年2月には大阪市内のギャラリーで、棍棒を展示販売する「大棍棒展」を開いた。クヌギやカシ、アオダモ、ミズナラ、サンショウなど約60種の木を使った約200本の棍棒を展示。木材に振り下ろす「試し殴り」もできるとあって反響を呼び、約100本を売り上げた。 工房で棍棒を制作する東祥平さん=奈良県宇陀市(全日本棍棒協会提供) 現在、東さんのもとには棍棒の制作依頼が次々と舞い込む。ただ、東さんは「作れる環境にある人には、ぜひ自作してもらいたい」と話す。山などに入って棍棒に適した木を探すことで、「人工林や環境問題、地域活性化を考えてほしい」というのだ。 人工林の多くは、戦後の木材需要を満たすため国内各地に植林されたが、安価な輸入材に押されて採算性が悪化した。林業の担い手も減少し、十分に整備されないまま放置されているのが現状だ。東さんは、棍棒作りが人工林を多様性のある雑木林へと転換し、山の恵みや豊かな里山の風景を取り戻すきっかけになると考えている。 「都心から離れた地方なら材料も調達しやすい。『棍棒飛ばし』の参加チームを全国に増やせば、練習場所を確保しやすい地方に注目が集まることは間違いない。過疎化が進む地域に住む人こそ、棍棒を手に取り大会に参加してもらいたい」と意気込む。 宇陀市内のグラウンドで月に2回練習を行っており、体験も可能だ。問い合わせは全日本棍棒協会greatkonbou@gmail.com(木村郁子)</p>