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読売新聞が22日付朝刊で、「岸田首相はウクライナの首都キーウを訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と首脳会談を行う方向で本格的な検討に入った」と一面トップで報じたが、ネット上で物議を醸している。

読売新聞朝刊(1/22)=編集部撮影

ウクライナのメディア「ウクルインフォルム通信」日本語版編集者の平野高志氏がツイッターで「『複数の日本政府関係者』はどういうセキュリティ認識で話したのだろう」と疑問を呈するように、読売側に情報を漏らした関係者の軍事的なセンスが疑われているからだ。

読売の記事では、「日本政府は首相のウクライナ入りに際し、安全が確保できるのか、ぎりぎりまで戦況を見極めていく方針」と伝えるが、国際政治学者の篠田英朗氏も「戦争はお天気ではない。 多分、そのことがわかっていない人が、日本では権力機構にまでいるのが、我々の国の現実」と唖然とした上で、「日本の常識を振り回してウクライナ側に迷惑をかけないことを、まず望む」と皮肉気味に評した。

筆者は先日、首相のウクライナ訪問の問題点を書いたが、仮に実現するにしても、これまで訪れたG7の他国の首脳の多くがそうだったように、戦争真っ只中の国の死地に現職首相が赴く異例の事態である以上、安全確保を考えて、事前予告なしの電撃訪問しかないと想定していた。その際、事前に報道があるとしても、出発の直前直後のギリギリまで伏せるのではと思っていたが、通常の政策決定の話題と同じく、岸田首相お得意の「検討」段階で話が出てしまった。

平野氏、篠田氏、お二方の意見を待つまでもなく、リークした人間は岸田首相を危険に晒す可能性に無思慮だったのか、それともむしろこの話を頓挫させるために敢えて話したのかと穿ってみたくもなる。

産経に恥をかかせた格好

あるいは、週明けの通常国会に向けた話題作りを意識し、時事通信の調査では政権発足後最低にまで落ちた支持率(26.5%)を少しでも浮揚させようという国内政局の都合があったとしても、メディア広報戦術としては全くの「大失敗」としか言えない。

首相のウクライナ訪問を評価するとすれば、自民党の支持層の中でも、ロシアに強硬なスタンスを取る保守層であろう。実際、5大紙でいち早く首相のウクライナ訪問を論説で支持してきたのが産経新聞だった。

ところが肝心の訪問段階のニュースをリークした先は産経ではなく読売だった。読売が特ダネ競争で産経を上回ったと言えば、それまでだが、産経としては肝心要のところでメンツを致命的に失うことになる。いわば「恥をかかせた」格好だ。今後、産経サイドの官邸への心理的な距離が広がることはあれ、縮まることは難しいのではなかろうか。産経にシンパシーのある保守論客、保守層の心象も決していいとは言えまい。

こういうことの積み重ねは、支持率低下に喘ぐ政権が今後、たとえば統一地方選で負けが込むなどしてさらなる窮地に立った時、支える世論の柱が細くなっていたりすることになる。

どちらにせよ、官邸もメディアも戦地にいく事の重大性を平時モードでしか認識できていないように思え、先行きが不安になる今朝の報道だった。

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