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 自動運転バスが噂されている今だが、注目されるのは、変わった形をした自動運転バス本体のみとなることがほとんど。バス業界人及び業界に近い関係者ならば、「運行管理はどうするのかな?」と疑問が浮かぶに違いない。

 それを解消するのが、自動運転車両運行プラットフォームとなるBOLDLYの“Dispather”。遠隔からの走行指示、状態監視、緊急対応などを行うのだが、その開発に際しては運行現場の声を十分聞き、運行現場での扱いやすさが十分考慮されたシステムとなっている。

(記事の内容は、2022年7月現在のものです)
取材・文/小林敦志、写真/編集部
※2022年7月発売《バスマガジンvol.114》『バス用品探訪』より

実際に活用されている強みは大きい!

茨城県境町で定常運行している自動運転バス。メディアの取材がいまもひっきりなしとのことだ

 今回取り上げる用品は、自動運転車両運行プラットフォームとなる、“Dispather(以下ディスパッチャー)”。

 開発したBOLDLY株式会社(以下ボードリー)に話を聞くとともに、すでにディスパッチャーを活用し、当時、自治体として初めて一般公道での自動運転バスの定常運行、つまり実用化を行った茨城県境町を訪れ、実際に自動運転バスへの乗車も行っている。

 ボードリーはソフトバンクのグループ会社となっている。

 今回取り上げるディスパッチャーについては、「自動運転バスだけではなく、例えば自動運転タクシー、自動運転トラックなど、自動運転で走行するものの運行管理全般にディスパッチャーは対応しております」(BOLDLY株式会社 クリエイティブディレクター 兼 企画部 部長 改發 壮氏)。

 改發氏は自動運転バスについて、“横に動くエレベーター”と例えて説明してくれた。近代の動力を用いたエレベーターが登場したころには、その操作がドアの開閉にいたるまで完全手動式で、専門の操作員が同乗していることが多かった。

 その後、“エレベーターガール”が操作するような簡易なものとなり、いまや利用者個々が行先階ボタンを押すだけとなり、エレベーター内の様子は遠隔操作でモニタリングできるなど、遠隔監視での自動タイプが当たり前となっている。

 確かにディスパッチャーを活用した自動運転バス運行の遠隔操作はエレベーターがたどった歴史に似ている。

 改發氏の説明を聞いていて、ディスパッチャーの最大の特徴はバスなど交通事業者の“現場意見”が反映されているところだろう。

 例えば、車内安全機能(走行中移動、着座前発進)、整備点検機能、標準的なバスフォーマットからの車両設定(現状使っている運行ダイヤのデータをそのまま活用できる)、車種が変わっても同じ操作方法(25車種に対応)となるなど、運行現場でスムーズにディスパッチャーへ対応できるようになっている。

 また、国交省(国土交通省)の自動運行ガイドラインを準拠しており、「ディスパッチャーを採用するだけでOK」(改發氏)となっている。

 さらに、なんといっても今回訪れた境町や、東京羽田空港に隣接する“羽田イノベーションシティ”において、交通事業者が実際に活用して運行管理していることはインパクトが強い。

境町町内にある、“スペシャル運行管理室”。取材時には境町社会福祉協議会建物内にあった

 ディスパッチャーはいわゆる“つるし”的なものではなく、それぞれの事業者、そして自動運転で走行する路線によってオーダーメイドでシステム構築が行われる。

 例えば、自動運転させるための“道しるべ”ともいうべき、道路内でどこを走らせるかという線(パス)を引くわけだが、それぞれの道路の特性をもとに過去の事例を参考にしながら担当者が作業を進めることになる。

 多数の実証実験、そして境町や羽田イノベーションシティでの実用化などを経たいまでは、まさに“職人”のように修正をそれほど必要とせずに線を引くことができるとのことであった。

 改發氏は最後に、「車内を無人にしたいわけではありません(実際オペレーターが乗車している)。ドライバー不足解消が自動運転バス導入の目標です。運転スキルへの依存を極力なくせば人材採用は容易になります。それだけで地域交通の維持ができるのです」と話してくれた。

 「走らせたい(自動運転バス)自治体様がいて、運行したい事業者様がいて、その間に弊社がおります」(改發氏)。運行現場の声に耳を傾け、運行現場でより使いやすいシステムを構築するディスパッチャーは、“関連業界に寄り添った”システムなのだという印象を強く受けた。

一元管理によりひとりで複数のバスを同時監視できるのが魅力的

境町のように、すでに運行実務でディスパッチャーは活用されており、それに対する信頼性も高まっている
カメラで車内の状況をモニターできたり、地図上でどこを走っているのかなどを確認できる
インジケーターにより、走行している車両の状態をモニタリングすることも可能

 遠隔地で車両の状態監視や走行指示を行うのだが、管理者ひとりが1台というのではなく、複数の台数を同時監視できるのが特徴のひとつ。

 ずっとバスの運行をウォッチしているのではなく、車両からアラート情報が入った時に何が起こったのか確認し対処するので、管理者ひとりで複数の車両を同時監視することができるのである。

多くの車種に共通フォーマットで対応することで現場負担も軽減

バス・乗用車・トラックなど全25車種と接続済みとなっている

 旅客車両では出庫時の車両点検も重要な業務のひとつ。毎朝オペレーターがスマートフォンにあるチェック項目をチェックし、そのデータが運行管理センターでもモニターすることで、ダブルチェックを可能としている。

 システムについては、車両ごとに操作や画面内容などが異なることなく多くの車種で共通化されている。

バス周囲走る一般車両が穏やかな運転になった?

シンバシーホールバス停近くにある、公用バスの車庫に自動運転バスの車庫もある。ここで充電を行い、出庫時のチェックも行われる

 利根川沿いにあり、かつては河川舟運で栄えたのが茨城県境町。人口は約2・4万人となるが、手厚い住民サービスが充実し、その一部として2020年11月26日より、自動運転バスが“日常の足”として街なかを走る国内初の自治体となった。

 境町には鉄道の駅がなく、路線バスが町民の生活移動手段として欠かせない存在。しかし、運転士の確保がままならず路線廃止も目立つのは境町だけの問題ではないのがいまの日本の実状。そこで、全国各地で実証実験を行っていたボードリーに“白羽の矢”が立ち、国内初の定常運行実現となった。

 バス停で待っていると、想像していたよりも速い印象でバスが到着した。定員は11名だがオペレーターが乗車するので、乗客は10名となり立ち席乗車はできず全員着席することになる。

 バスは時刻通りに発車、信号はすべて停車するようになっており、オペレーターが青を確認するとマニュアル操作でそのまま進行するとのこと(本年度中に信号機と通信をして灯色に応じて走行や停止も自動化されるとのこと)。

 しばらく交通量の少ないのどかな風景のなかを走るのだが、やがて境町のメインストリートともいうべき、両脇に住宅が立ち並ぶやや狭い市街地の道路を走りだす。当然自動運転バスより速度の速い一般車両が自動運転バスに合わせて後続することもあるのだが、無理な追い越しもせず後をついてきていた。

 「何か裏付けがあるわけではないですが、地元の人からはこの自動運転バスが走り出してから、一般車両の運転が穏やかになったという話も聞いております」(改發氏)というから、思わぬ“副産物”ともいえるだろう。

 基本は町民の町内移動手段という位置づけのようだが、道の駅にも停車するので、道の駅に立ち寄った町外からの観光客が自動運転バスを利用して町内観光するといったニーズもあるとのことだった。その様子はいまのバス業界の抱えるさまざまな閉塞感に風穴を開ける存在のように見えた。

複雑な市街地道路を走るところに旺盛なチャレンジ精神を感じた

乗車定員はオペレーター1名合わせて計11名。立ち席乗車はできない

 実際境町にくるまでは、「おそらくひとも少ない道路環境の良い場所を走るのだろう」と思っていたが、実際乗車してみると古い街並みが両側に広がる狭い市街地道路を自動運転バスが走り出した。

 なかなかチャレンジングだなあと思うとともに、システムに自信があるのだろうと感じた。

“碁盤の目”のように整備されたわけでもなく、どこにでもある市街地道路を走りだした時には正直驚いた

投稿 バスも自動運転の時代!? 運転士不足の解決こそが開発目的?自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。