2023年1月13日、東京オートサロンの会場で、GT-R 2024年モデルとGT-R NISMO 2024年モデルが先行公開された。
すでに一報をお伝えしたが続報として新たに配信された資料や開発責任者・川口隆志氏にインタビューした模様をお伝えしていこう。
はたして、GT-Rはいつまで作るのか? このGT-R2024年モデルが、純ガソリン車の最後となるのか?
文/ベストカーWeb編集部
写真/ベストカーWeb編集部、中里慎一、日産自動車
■これでGT-Rは当分存続確定!?
2007年12月の登場以来、15年以上生産され続けている日産GT-R。生産終了するのではという噂をはねのけ、日産はGT-R 2024年モデルを先行公開した。正式な発表・発売は2023年春と予定している。
今回東京オートサロン会場当日発表された内容とともに、開発責任者の川口隆志氏のインタビューもお届けしたい。
GT-R 2024年モデルの狙いとして、「人の感性に気持ちよく。それでいて速い。またトータル性能を高い次元へ」を目指して開発。
GT-R NISMO 2024年モデルについては「R35史上最高の“トラクションマスター”」を目指して、より接地させ駆動を極めるとキーワードに開発。
スタンダードのGT-R 2024年モデルは「R35史上最高の“洗練された乗り味”」を目指してしなやかに路面を捉えることを目指した。
2024年モデルの変更点をダイジェストでお伝えすると、両グレードともにハンドリング性能の向上を目指して、フロント、リアバンパー、リアウイングといった外装のデザイン変更し、これによって空力性能、特にダウンフォースを向上させた。
GT-R NISMO 2024年モデルはさらにコーナリング性能を向上させるためにフロントメカニカルLSDのほか電制サスペンション、4WDの制御を変更、専用のRECARO社製シートを採用している。
■どこが変わったのか深堀り解説「GT-R NISMO 2024年モデル」
GT-R 2024 年モデルを見て、目に飛び込んでくるのは、フロントマスクの激変ぶりだろう。
まずGT-R NISMO 2024年モデルについて。2022年モデルはVモーショングリルとその下にブラックアウトしたバーがあり、左右にはボディ同色のバンパーがあったが、2024年モデルは、水平基調を軸としたデザインに変更し、新しいシグネチャーとして、バンパー左右にハニカム形状のデイタイムラニングライト(DTRL)を新設した。
基本的にGT-Rのデザインは、性能の進化を目的にデザインを変えている。もちろん、今回のマイナーチェンジにおいてもデザイン変更は、性能の進化を目的としており、すべてにおいて意味があるという。
例えばフロントグリルの開口部においては、2022年モデルに対して開口を小さくしている。しかし、中に入る風の量は変えていないという。冷却性能をキープしつつ、フロントの風の抵抗を下げることによって空気抵抗を抑えている。
ヘッドライトのキャラクターライン、あるいはデイタイミングライトの上下のフロアガイドにより、風が横に流れることによってさらに空気抵抗を抑えている。
またカナード形状をより深くしたことによってタイヤの横に渦を発生させ、この渦によってホイールハウス内の圧力を吸い出す効果があり、これによってダウンフォースを強めている。
リア回りのデザインも大きな変更を遂げている。バンパーサイドの大きなエッジのほか、トランクリッドの上面にもエッジを付け、このエッジによってクルマの周りに流れてくる風が後ろに巻き込む風を切って少なくし、空気抵抗を下げている。
クルマは走らせるとどうしても後ろの巻き込む風が大きくなる。その巻き込む風は後ろに引っ張ろうとする。今回はこの空気抵抗を削減したという。
さらに今回もう一つ大きな特徴は、リアウイングの形状。GT-R NISMO 2024年モデルは、GTマシンに使われているスワンネックタイプのウイングを新たに採用しています。
このスワンネックタイプのウイングは、上から支えるタイプのウイングでダウンフォースをさらに大きくする。具体的には下の面に負圧を発生させることによってクルマを下にしっかり抑えつけるようにしている。
またスワンネックによって支えている柱が下にないので、より下の面積を大きく使えるということからこのリアウイングを採用。こうしてクルマトータルで約13%、ダウンフォースを強めることに成功した。
■カーボンフレーム剥き出しのGT-R NISMOのRECARO社製バケットシート
GT-R NISMO 2024年モデルに新採用されたRECARO社シートは、前モデルに対して質量を一切増やすことなく、シートの横剛性を50%向上。
また人を支える腰や背中、肩の部分を最高の状態でサポートするために、シートのパッドを分割構造とした。
新型RECARO社製シートについて川口氏は、
「実はクルマを速く走らせる、安全に走らせるためには、シートが非常に重要です。例えばドライバーがブレーキを踏んだ時、シートの横剛性が高いとその分、ペダルを踏む力が強くなって、しっかりと減速することができます。
またシートの横剛性が高いと、特にコーナリング中の操作が人をしっかり支えることができます。無駄にドライバーが体を保たせようとする無駄な力が不要になって、よりハンドリング操作に集中できるんです。そうすることによってスムーズで適切なステアリング操作ができることになります」。
■スタンダード仕様のGT-R 2024年モデルの進化は?
GT-R 2024年モデルに関しても、NISMOと同様、水平基調のスタンスのいいデザインに変えている。
新しいデイタイミングライトによって新たな顔つきとなった。また形状の最適化により、フロントバンパー周辺に起こる風をしっかり制御することによって空気抵抗を削減。
ヘッドライト下のキャラクター、DTRL部分のエアガイドによって流れる風を整流。最後にカナードの形状によって、スタンダード仕様もタイヤのホイールハウス内の圧力を抜いてあげる効果によってダウンフォースを増している。
スタンダード仕様のリアデザインもバンパーサイドにエッジを立て、新しくしたフューザー形状も下から流れてくる風に対しても断面を最適化し、クルマの後ろに巻き込む風を非常に少なくすることによって空気抵抗を削減している。
もう1つの最大のトピックスは2017年以来、一度も変えていなかったリアウイングを今回初めて性能進化を目的に進化させたこと。
前モデルに対してウイングの長くし、幅を広くしている。これによってダウンフォースを大きくするとともに、ウイングの搭載位置も後ろに下げている。わかずかだがトランクリッドに働いていたクルマを持ち上げようとするわずかな負圧を削減することができたという。
スタンダード仕様は、こうした改良によってトータルで約10%ダウンフォースを強めることができたという。
■車外騒音規制により2022年モデルで生産終了と噂されていたが秘策で延命
国連欧州経済委員会自動車基準調和世界フォーラム(以下「UN-ECE/WP29」という)において策定された国際基準であるUNRegulation No.51-03Series(以下「R51-03」)という、50㎞/h走行時の騒音規制が2016年10月からフェーズ1、フェーズ2、フェーズ3と段階的に規制が強められていったのだが、いよいよ2022年9月1日から継続生産車にも順次導入されることになった。
この車外騒音規制がクリアできないのではないかと言われ、R35GT-Rは生産終了となると、囁かれていた。
日産自動車商品企画部ブランドアンバサダーの田村宏志氏は、まず「GT-R 2022年モデルを発売した後、もっと作れないかと、多くのお叱りに近い言葉をいただきました。そこで開発チームにもっと作ろうと指示を出しました(日本仕様のみ)」。
この車外騒音規制は、車検時にも行われる近接排気騒音をはじめ、加速走行騒音、マフラーの近接排気音、タイヤ走行音などとても厳しい規制。
この車外騒音規制をクリアするためには、容量を3倍にしたマフラーによってトランクスペースを半分にし、255のフロントタイヤを履かなければクリアできないことがわかったそうだ。
むろんそれではユーザーは納得してくれないと判断。そこで田村氏は川口隆志氏をはじめとする開発チームに「1馬力も下げず、タイヤのそのまま、トランク容量も変えないでGT-Rを継続させるよう指示したという。
その秘策は、新消音室を持つ新構造マフラーを新開発することで解決。なんと、ヒントにしたのは航空機のジェットエンジン。動力性能を犠牲にすることなく、車外騒音規制に対応。さらに迫力のある新たなGT-Rサウンドを実現したからというから驚きだ。
ジェットエンジンの騒音低減技術を応用したこの技術のハイライトは、まず新消音室。2022年モデルの消音室は図の通り、小型だったが、2024年モデルではY字型のマフラー分岐部分に大型の新型消音室が設けられているのがわかるだろうか。この密閉された消音室に低音騒音を導くことで低減。
そして、ジェットサウンドジェネレータと呼ばれるY字型の部分は、排気抵抗はキープしつつ、2024年モデルの魅力的なサウンド=ジェットサウンドを奏でるという、一挙両得の源になっている。
具体的には、ジェットエンジンのタービンブレードを参考にした小さな渦を派生させる排気管形状となっており、排気ガスの気流の渦を細かく分割させ、そのエネルギーを低音域から高音域までまんべんなく分散させることができたという。
一般的に排気音を下げようとすると排気管を長くしたり、あるいはマフラー容量を大きくして音を静かにするが、これをやってしまうと排気ガスの流れを悪くしてしまい、出力が落ちてしまう。
また単純に排気音のボリュームを下げてしまうと、スポーツカーならではの加速時のエキゾーストノートを失いかねないので、それがGT-Rにとって課題だったという。
車外騒音法規対応、動力性能の維持、魅力的な音、この3つをクリアするために新構造のマフラーを開発。
GT-R 2024年モデルの新構造マフラーは排気管の途中に分岐を行っており、分岐の目的は左側の赤い方向の先にある赤いボックスは密閉された空間になっており、そこは消音室になっている。この消音室をデゾネーターを呼ぶそうだが、この消音室を設定することが大きな目的だったという。
上のほうからエンジンの音が伝わってきて、分岐の右にも左にも音は伝わるが、左に伝わった音はこの消音器によって低音域のみピンポイントで音を消音。これによって非常に厳しい車外騒音規制をクリアできたという。
一方で排気ガスは上から流れてきても右側には流れない。左側は密閉されているので排気ガスは右側にしか流れないという。
こうした対策によって今までと変わらず排気ガスの流れは一切変えることなく動力性能を犠牲にすることなく達成できたという。
ジェットサウンドジェネレータに関して川口氏は、
「この分岐のところに排気管をうまく工夫して新しいジェットサウンドを構築しました。ジャンボジェット機のような大きなジェットエンジンは10万馬力もありますが、600馬力のGT-R NISMOに比べ160倍も出力があるのにもかかわらず、相対的にそんなにうるさくない。それはなぜか? 我々エンジニアが一生懸命分析しました。
ジェットエンジンのタービン回りの風の流れ、圧力分布をみると実はそんなに大きな渦が発生していませんでした、小さな渦がいくつも発生していることがわかりました。
低音域から高音域までいろんな音に分散させていました。音というエネルギーをきれいに分散させることによって、音のボリュームを下げていることがわかりました。
それらを我々は参考にして分岐構造、排管の形状を工夫し、中に流れる排気ガスの渦と小さな渦をいくつも発生させることによって、特に加速して高回転になればなるほど、迫力のあるジェットサウンドを構築しました」。
■開発責任者の川口隆志氏に直撃インタビュー
――補足でお聞きしますが、2022年モデルに対してどれくらい速くなったのですか?
川口氏:今回のGT-R2024年モデルは、圧倒的にフロントのトラクションが生まれました。もっとトルク出せるけど、これ以上出しても、空転してしまうよねと。だったらフロントに機械式LSD。ただ通常ガチガチのLSDではありません。あまりギクシャクせずスムーズ。ただしコーナーのトラクションをかけています。ブリッピングポイントを超えたところからアクセルを踏んでいけるんです。3m、0.6台分くらい早くなりました。
これまではメインに後輪に伝えないと、フロントがちょっと荷重が抜けて空転した瞬間トルクがなくなるので、まず全体のダウンフォースを強め、接地荷重を上げました。
さらにそれだけポテンシャルが上げるとフロントの空転さえなければもっと前にトルクかけられるということで、LSDを少し入れることで、フロントの空転を抑えてもう少し前にトルクかけられるようになり、クルマが前に出せるようになりました。
電制の前後トルク配分ぬついてもまるっきり見直しています。それはNISIMOですが、スタンダード仕様はまだトルクがそこまでないので、フロントLSDは入れていません。
■これだけ外観を変えたのにエンジン手をつけなかったのはなぜ?
――今回はエンジンに手を付けていません。もう変えるところがなかったのでしょうか?
今回はエンジンに手を付けていません。前回のスペシャルエディションで出力は600ps、より高回転でバランスをとったエンジンで入れています。
正直いうと、あれだけのポテンシャルを持たせたエンジンをそう簡単に、あれ以上エンジンだけ出力を上げても、仕方ありません。トータルバランスなんです。
――意外だったのですが2007年12月の登場以来、リアウイングの形状を初めて変えました。これまでなぜ変えなかったのでしょうか?
川口氏:基準車のリアウイングを新しくしたのは2007年登場以来の初めてのことです。
2022年Tスペックはクルマが軽くなって足が動くようになりました。そうすると操安性能が昇華したんです。もう少しダウンフォースが欲しいなとなったので、今回、バンパー、バンパー、リアウイングも変えたのです。
――GT-Rといえばニュルブルクリンクサーキットのテストタイムに力を入れてきたことで有名です。最近は聞かれませんがテストはしていないのでしょうか?
川口氏:ニュルが昔と違って変わりました。今、我々がR35GT-Rが速いでしょっと言っても、だいぶコーナーの舗装がきれいになっていますので、比較はおかしくなってしまうので、あまり意味はないと思っています。
■いつまでGT-Rを作るんですか?
――今回、存続か生産終了か、と最大のネックとなっていた車外騒音規制法規に対応しました。技術的な問題が当面なくなったわけです。これが最後の純ガソリン車のR35GT-Rになるのでしょうか?
川口氏:わかりません。お客さんが望まなくなったら終わるのです。我々が作りたくても買ってくれなくなったら終わりなのです。
前回は生産台数のキャパが足りませんでした。これが最後であるかどうかはお客さんが決めるのです。我々は最後かどうかを決めちゃいけないんです。
だから今回も新しい技術を開発して法規に対応しました。技術の日産と自分でいうのもお恥ずかしいですが、そうした自負があって、なんとしても新しい法規に対応するように作りました。なんとしても待っていただいているお客様に届ける、それが我々の使命です。
※ ※ ※ ※
新車外騒音規制はGT-Rが属するM1クラス(継続生産車)では、2022年9月からのフェーズ2では74db、2026年7月から運用が開始されるフェーズ3は72dbと一段と厳しくなっていき、もはや純ガソリン車のスポーツカーはフェーズ3をクリアできないといわれている。
推測の域を出ないが、純ガソリン車の現行R35GT-Rはフェーズ3の2026年モデルをもって生産終了するのではないかだろうか。もちろん、予想でしかないが……。
はたして、川口氏の言うように、純ガソリン車のR35GT-Rの需要がある限り作り続けるのか、それともハイブリッドもしくはBEVのGT-Rを欲する時代が来るのだろうか?
【画像ギャラリー】これが最後のGT-Rになるのか? ジェットエンジンのタービンを参考にしたジェットサウンドとは(18枚)画像ギャラリー
投稿 GT-R 2024年モデルの進化を深堀り解説! 秘策の新型マフラーで2026年まで延命? 純ガソリン車最後のGT-Rになるのか? は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。