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有人月面探査で人の居住空間に電力供給を行う 「循環型再生エネルギーシステム」の共同研究協定から研究開発契約へ進展

ホンダは「国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)」と、月面探査車両の居住スペースとシステム維持に電力を供給するための「循環型再生エネルギーシステム」について、研究開発契約※1 を締結したと発表した。今回の契約締結により、ホンダはJAXAから委託を受ける形でまず概念検討を行い、2023年度末までに初期段階の試作機である「ブレッドボードモデル ※2」を製作する。

循環型再生エネルギーシステムとは、ホンダ独自の「高圧水電解システム」と「燃料電池システム」を組み合わせたもので、太陽エネルギーと水から継続的に酸素・水素・電気を製造することを想定。ホンダは2020年11月にJAXAと循環型再生エネルギーシステムの共同研究協定を締結し、月面での活用に向けた研究を進めてきた。

※1 「有人与圧ローバー再生型燃料電池システムの概念検討および機能要素試作」についての契約。再生型燃料電池システムとは、水を電気分解して「水素」と「酸素」を作る「水電解システム」と、水素と酸素から電気を作り出す「燃料電池システム」を合わせたもの。ホンダのシステムは独自の「高圧水電解システム」を採用しているため、「循環型再生エネルギーシステム」と呼んでいる。
※2 宇宙で使用するシステムは、開発段階に応じて「ブレッドボードモデル」→「エンジニアリングモデル」→「フライトモデル」等と段階を踏んで試作機を製作し、開発を進めていく。
参考情報: https://humans-in-space.jaxa.jp/faq/detail/000491.html 

循環型再生エネルギーシステム活用検討の背景
米国が提案し、日本も参加する国際宇宙探査プロジェクト「アルテミス計画」では、2020年代後半に長期の有人月面探査が計画されている。長期探査のために人が月に滞在する場合、
 ①月面探査車両を走らせる電力
 ②車両内で人が生活するための電力」
が必要となる。

月面で最も日照割合が少ない地域では、14日間の昼と14日間の夜が繰り返し訪れる。車両内で人が生活するための電力については、太陽が出ている昼の間は太陽光発電で発電し、居住スペースに電力を供給できるが、太陽が出ない夜の間は、別の方法で電力を確保する必要がある。そのために蓄電池を月面に持ち込み、太陽光発電で作った電気を貯めておくという方法もあるが、そのために必要な大量の蓄電池を地球から月へ持ち込むには輸送コストがかかりすぎる、という問題がある。そこで電力を賄う方法として、蓄電池よりコンパクト・軽量なホンダの循環型再生エネルギーシステムに白羽の矢が立った。

循環型再生エネルギーシステムの仕組みと、その特長
循環型再生エネルギーシステムは、ホンダ独自の高圧水電解システムと燃料電池システムを組み合わせたシステムで、太陽エネルギーと水から継続的に酸素・水素・電気を製造する。月面で使用する場合、昼の間に太陽光発電で発電した電気を使って高圧水電解システムで水を電気分解し、酸素と水素を製造してタンクに貯める。夜になったら、その酸素と水素を使って発電し、居住スペースに電力を供給する。

ホンダの高圧水電解システムは、通常必要とされる水素を圧縮するためのコンプレッサーが不要なため、コンパクト。また、循環型再生エネルギーシステムは蓄電池よりも質量あたりのエネルギー密度が高い ※3ため、同じ量のエネルギーを蓄えておくために必要な質量が蓄電池より小さくて済む。これらにより、循環型再生エネルギーシステムは宇宙輸送において大きな課題である積載容量・質量の低減化にも貢献できる。

ホンダは長年、水素技術の研究開発に取り組んでおり、2002年には世界で初めて燃料電池自動車のリース販売を開始。また高圧水電解システムを使ったスマート水素ステーションの開発・設置も行ってきた。循環型再生エネルギーシステムは、これらの技術を活用して実現を目指すという。

※3 エネルギー密度
再生型燃料電池(循環型再生エネルギーシステムの一般呼称)は480Wh/kg以上、リチウムイオン電池は約200Wh/kg以上。
出展:宇宙航空研究開発機構 内藤 均「宇宙探査用電力供給技術」、2016年、GS Yuasa Technical Report (Web)
https://www.gs-yuasa.com/jp/technology/technical_report/pdf/vol13_2/13_02_001.pdf

循環型再生エネルギーシステム利活用のさらなる可能性
循環型再生エネルギーシステムが作り出すのは電気だけではない。水と太陽エネルギーさえあれば酸素と水素を作ることができるため、酸素は有人拠点で活動する人の呼吸用として、水素は月面を離発着する輸送機の燃料としてそれぞれ活用することを想定している。

一方、地球上で使用する場合は、地上に降り注ぐ太陽エネルギーと、豊富な水資源を活用して発電する、カーボンニュートラルなエネルギー供給手段にもなり得る。まずは宇宙での活用を目指して循環型再生エネルギーシステムの研究開発を進めるとともに、2050年のカーボンニュートラル実現を目指して、その技術を地上へもフィードバックしていきたいと、ホンダは考えているという。

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