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あの「穴」本当の本当に効果あるの? ミニバンに急増中「エアカーテン」の実力と効果

 燃費(CO2)低減が至上命題となっている昨今、エンジン車であれ電動車であれ、注目されているのが空力改善。「空力性能」は、F1マシンや高性能モデルに限った話ではなく、一般の市販車でも燃費や走行安定性などを左右する重要な性能であり、空力性能を少しでも改善するため、タイヤで発生する空気の乱れを抑制するエアカーテンを装備しているクルマが、高性能モデルだけでなくミニバンやコンパクトカーでも増えています。

 ちょっとしたブームとなり普及が進んでいるエアカーテン、どのようなメカニズムで、どのような効果があるのか、ご紹介します。

文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
写真:HONDA、NISSAN、Audi、TOYOTA、MAZDA

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タイヤで発生する渦による損失は、空気抵抗の30%にも

 今後さらなる普及が期待されるBEV(バッテリー電気自動車)においても、課題である航続距離延長のキーテクノジーとして注目されている空力性能。クルマが走行しているときには、空気の流れはボディの凹凸部で剥離して乱れや渦が生成され、これによって空気とボディ表面に摩擦力や圧力低下が起こり、進行を妨げる空気抵抗が発生します。空気抵抗を減らすには、極力ボディの凹凸を減らし、ボディ表面の空気流れの乖離や渦の発生を抑えて、スムーズな空気の流れを生成することがポイントです。

 一般にクルマ全体の走行抵抗のうち、空気抵抗が占める割合は、比較的車速の高い市街地走行で20%程度です。その空気抵抗のうち、ボディ全体のフォルムが40%、タイヤとホイールアーチで発生する渦による損失が30%、クルマのフロア下部の流れによる損失が20%、クルマの開口部での損失が10%とされており、タイヤで発生する渦による損失は大きいのです。

ホンダ「シビック・タイプR」に装備されているエアロパーツ。高性能を極めるスポーツモデルには、エアカーテン以外にも、多くのエアロパーツが装備されている

走行のために回転するタイヤが、空気抵抗を増やす

 走行中に回転するタイヤは、ボディ側面に沿った空気の流れを遮り、スムーズな流れを阻害します。タイヤに衝突した流れは押し広げられてホイールハウスから噴き出し、後方に渦流となって流れます。このとき、回転しているタイヤ接地面前側の圧力が高く、後ろ側が低くなるので、タイヤ前方の高い圧力はクルマを後ろに押し戻す方向に働き、タイヤによる空気抵抗を増やすことになります。

 また後輪タイヤは、前輪タイヤで乱れた流れを受けて、さらに乱れを増強することになり、その渦はクルマの後端まで到達します。そうなると、後端に強い負圧が発生してクルマを後方に引っ張る力が働き、空気抵抗を増大させます。

 以上のように、走行中に回転しているタイヤは、空気抵抗を増やす一大要因。空力性能に優れているように思われるF1マシンは、軽量化のためにタイヤがむき出しのため、Cd値は実は一般のクルマよりも高く、タイヤがなければ(クルマは動きませんが)、空気抵抗係数Cd値は約20%低減するというシミュレーション結果も。このタイヤ周りから放出される渦の発生を抑えるのが、エアカーテンという考え方です。

タイヤで発生する渦を空気のカーテンで整流してブロック

 エアカーテンは、フロントエプロンの左右両端に設置されたエアインテークから取り込まれた空気を、フロントインナーフェンダーのスリットに導き、ホイールアーチへ放出する手法です。この空気の流れによって、フロントホイールの側面をカーテンのようにブロックして流れを整流、タイヤで発生する乱れを抑えて空気抵抗を低減させます。

 同様の効果は後輪タイヤでも発生するので、クルマの後輪側にもエアカーテンと同じ機能を持たせたものもあります。「レクサスLC」やホンダ「クラリティPHEV」では、ロッカーサイドグリルを設定して、ボディ側面を通過する気流をリアのタイヤアーチへ放出して、乱れを抑えています。

 空気抵抗が低減できれば、高速走行での燃費と走行性能の向上につながります。具体的な燃費向上効果は明らかではありませんが、通常の走行では1%に満たないと推察されるものの、空気抵抗は車速の2乗に比例して大きくなるので、高速巡行では明確な燃費向上が期待できます。

燃費向上だけでなく、走行安定性のためにも採用が加速

 また、車体表面の渦は周期的に発生し、不規則に車体を揺するので、渦を抑制できれば走行安定性や旋回性能を改善する効果があります。日産の新型「セレナ」では、エアカーテンによって、横風等によるふらつきを抑えて、先代と比べてヨーモーメントが20%低減できたとしています。

新型「セレナ」に装備されたエアカーテンのエアインテーク(空気導入口)。セレナでは、ヨーモーメントを低減して横風等によるふらつきを抑える効果があるとされている

 エアカーテンを最初に採用したクルマは定かではありませんが、2012年頃にはBMWが採用しており、このあたりが最初の採用ではないでしょうか。

 以降、高速走行の頻度の高い欧州車は、空力性能向上の有効な手段のひとつとして、ほとんどのメーカーが高性能モデルに限らず、大衆車の一部でも採用しています。BEVについても、アウディの「e-tronモデルS」が、エアカーテンを採用してCd値0.26を実現したことが話題になりました。また米国では、フォードのピックアップトラック「F-150」も採用しており、欧米ではエアカーテンがBEVやトラックまで広く普及しているのが分かります。

 日本では、欧州よりやや遅れて、数年ほど前から採用が始まりました。代表的なところでは、ホンダの高性能モデル5代目「シビック・タイプR」、コンパクトSUVの「ヴェゼル」、FCV「クラリティ・FUEL CELLおよびPHEV」。トヨタでは、フラグシップクーペ「レクサスLC」、スポーツモデル「GRスープラ」、レーシングマシン「TOYOTA GAZOO Racing TS050ハイブリッド」、日産ではコンパクトミニバンの新型「セレナ」、スポーツモデルの新型「フェアレディZ」、コンパクトカー「ノート/ノートオーラ」、クロスオーバーBEV「アリア」、そしてマツダでは「CX-30」と、高性能モデルからSUV、ミニバン、コンパクトカー、BEVとすべてのジャンルのクルマに採用されています。

 これだけエアカーテンの採用が加速している理由は、燃費向上だけでなく、走行安定性や旋回性能の向上にも有効だからだと考えます。今後も、さらにデザインとバランスさせながら普及するのではないでしょうか。

アウディのBEV「e-tron」で、エアカーテンを採用し、高い空力性能を実現。電気自動車では、空気抵抗の寄与度が大きいので、今後は必須装備になることも考えられる

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 エアカーテン自体の効果は、決して大きくはありませんが、「チリも積もれば」で、他のエアロ技術と組み合わせるなどして、少しずつ成果を積み上げていくことになるでしょう。今後、エンジン車からBEVへとシフトしていくと、空力性能の寄与度がさらに高まるため、空力性能が電費向上や性能向上の切り札になる可能性も。次はどんな空力改善アイテムが登場するのか、今後も非常に楽しみです。

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