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<ドラマ『星降る夜に』第1話レビュー 文:横川良明>

昔からどうして1人で死んだら「可哀想」と言われるのかよくわからなかった。

そりゃ家族に囲まれ、みんなに看取られながらこの世を旅立つのは幸せな最期だろう。だけど、だからと言って誰にも知られないまま、ひっそりと息を引き取ることが可哀想だとは思わない。

どう死んだかで、人の人生は決まらない。死の直前まで、その人がどう生きたのか。そっちの方がよっぽど大事だし、尊ばれるべきことだと思っていた。

だから柊一星(北村匠海)が、亡くなった母・愛子(岸本加世子)に何もしてやれなかったと悔やむ雪宮鈴(吉高由里子)に「寂しかったと決めつけるのも違うんじゃないでしょうか」と伝えてくれたことがすごくうれしかった。

遺品整理の仕事をしている一星は、いつもいろんな死と向き合っている。

孤独死したおじいちゃんなんて、みんなが可哀想がる存在だ。でも、一星はそんなおじいちゃんのことを意外に楽しく生きていたのかもしれないと想像し、「こういうジジイになりて〜!!」と羨んだ。

一星は、他人のことを決して偏見や決めつけで見ない。その人が何を大切にしていたのか。その人が何を喜びにしていたのか。遺されたものから一生懸命想像を膨らませる。

そんな一星がとても魅力的だし、そういう価値観で描かれていくこのドラマのこれからを信じられる気持ちになった。

『星降る夜に』は、人が生きることと死ぬことに真摯に寄り添うドラマだ。

◆母を失った人生を、鈴はこれからどう生きていくのか

産婦人科医の鈴と、遺品整理士の一星。命がはじまる場所と、命が終わる場所に立つ2人は、いつも命と向き合っている。

第1話で特に印象的だったのは、鈴の母・愛子の死だ。

娘に心配をかけたくないと、病気のことは何も告げず、きちんと終い支度をして人生を終えた愛子。最初は愛子の孤独な死を悲しんでいた鈴だが、一星から届けられた遺品の数々を見て、そうではないことに気づく。

予定がびっしり書き込まれたカレンダー。やたら不倫ものばかりのドラマのDVD。思い出のぬいぐるみ。

母は母の人生を思い切り楽しんで生き抜いたこと。娘の自分を心の底から愛してくれていたこと。一星が届けてくれた「お客様ボックス」が、鈴の悲しみを少しやわらげてくれた。

死とは悲しいことだけじゃない。そうこのドラマは教えてくれる。

そして、死は新しい生へとつながっていく。

お産の激痛の中、亡くなった母のことを呼び続ける妊婦の芝里子(近藤春菜)。その「お母さん!」という呼び声が、母を亡くしたばかりの鈴の寂しさに共鳴する。

「娘が大変なときに、なんでいないんだ」

あれは里子の母だけじゃなく、自分の母に向けた言葉だったと思う。

大人になると、無条件で自分の味方をしてくれる存在なんて親以外にいない。自分の命を投げ打ってでも守ってくれるのは、世界中が敵に回っても信じてくれるのは、親だけ。その親を亡くしたら、大人はどうやって生きていけばいいんだろう。

子どものときは、「お母さん!」と呼べば迎えに来てくれた。でももう何度呼んでも、迎えには来てくれない。この先、誰も迎えに来ない孤独な一本道を、どうやって生きていけばいいんだろう。

訴訟問題を抱えた鈴を、「鈴ちゃんは間違ってない」と言ってくれたのは愛子だった。きっと鈴が大学病院を去ったのも、この訴訟がきっかけなんだろう。あのときの傷はまだ癒えていない。

そんな中で母を亡くした鈴の寂しさが、不安が、行き場のなさが、あの出産シーンから伝わってきて、ぽろぽろと泣いてしまった。大人って、たぶん自分で思っている以上に孤独なんだと思う。

でも、「お母さん!」と名を呼び続けた里子は無事に子を産み、今度は自分が“お母さん”になった。そうやって生と死はめぐっていく。その事実に、心が勇気づけられる。

そして朝起きた鈴が母の遺影に見守られながら出かけ支度をしたように、死んだからといって、いなくなったわけじゃない。

消えた命も、見えないところで、自分たちを見守ってくれている。だから、またなんとか歩いていこうという気持ちになれる。果てなく続く孤独な一本道を。

『星降る夜に』は、ささやかな人生を懸命に生きるすべての人への讃歌のような物語だ。

◆あのファインダーの景色が暗示する、鈴の決意

そして、誰もいないと思っていた一本道が、誰かと交差することもある。鈴にとっては、それが一星なのかもしれない。

出会いの夜は強引に向けられたレンズに、今度は鈴が自分から入り込んでくる。一星が何度手を払ってもいとわず、まっすぐ一星のもとへ突き進む。

あのファインダーから見える景色は、あなたの世界に踏み込んでいくという鈴の決意だ。無理矢理レンズを向けられたからじゃない。自分の意志で関わっていく。そう鈴が言ってる気がした。トップシーンとラストシーンの鮮やかな対比に胸が躍る。

最初に覚えた手話が「ありがとう」と「でも、お前のキス大したことなかったけどな」なのが、このドラマらしくて。一気にこの2人のラブストーリーを見ていきたい気持ちになった。

「でも、お前のキス大したことなかったけどな」と手話で告げたあと、得意げな顔をする吉高由里子がチャーミングで。凛とした美しさも、等身大の無邪気さも、吉高由里子のいいところが全部この鈴という役につまっている。

吉高由里子のはにかみ顔は見ているだけでこちらの頬まで緩んでくるし、子どものように泣きじゃくる場面は、あまりにも無防備すぎて、思わず心の真ん中に直球を投げ込まれた気持ちになる。

そして、どちらかと言うと内気な役を振られることの多い北村匠海が、本作では感情丸出しの男の子で。はしゃいだり、むくれたり、意地を張ったり。楽しく生きたいという一星の信条をそのまま体現するような多彩な表情に、突風が吹いたみたいに心がさらわれていく。

あの高速手話はドラマでは新鮮だったけど、手話を第一言語としている人にとっては「普通」なんだろうし、それをしっかりマスターして臨んできた北村匠海の準備にも敬意を表したい。また、佐藤春役の千葉雄大が、手話をするときに発声しないのも個人的には好ましかった。

吉高由里子と北村匠海の相性の良さは、1話を見ればもう十分理解できたので、あとはもうここからの展開を思い切り楽しむだけ。

きっとただの恋愛だけじゃない、いろんな愛がこれから描かれていくことになるのだろう。

生きること、死ぬこと、そして愛することを、『星降る夜に』と共に考えていきたい。(文:横川良明)