もっと詳しく

 陸災防がトレーラの逸走による死亡事故を紹介している。ベテランドライバーであっても、トレーラが無人で走り出すという緊急時に、とっさの判断で正しい行動ができるとは限らない。日頃から教育や訓練を行なうことも重要だ。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部(陸災防機関紙『陸運と安全衛生 No.645』より)、写真/フルロード編集部

荷役作業5大災害の一つ「無人暴走」

フェリーのスロープから下りてくるトレーラ
フェリーのスロープから下りてくるトレーラ

 厚生労働省ではトラックの逸走(いわゆる「無人暴走」)による災害を、荷役作業5大災害の一つとして防止対策の啓発を行っている(ちなみに他の4つは、「墜落・転落」「荷崩れ」「フォークリフト使用時の事故」「後退時の事故」だ)。

 しかし、逸走防止のためのパーキングブレーキ→エンジン停止→ギアロック→輪止めという4段階の措置が正しく行なわれないことを原因とする無人暴走による災害は後を絶たない。

 トラック運送における労働災害防止団体(労働災害防止団体法に基づき設置された特別民間法人)である陸上貨物運送事業労働災害防止協会(略称:陸災防)では、トレーラ逸走による死亡事故の事例を紹介し、無人暴走の防止を呼び掛けている。

 実際に起きた事故から学ぶことは多い。日頃から緊急時に備え、逸走による事故を無くすために、以下、陸災防機関紙「陸運と安全衛生」(No.645/2023年1月号)より、経験30年のベテランドライバーがトレーラの連結作業中に死亡した災害事例を紹介する。

エア供給だけではないエマージェンシーライン

 トレーラの連結作業では、エアの供給やエアサスの操作、連結確認等小刻みな移動が行なわれるため、エンジンをかけたまま運転席から降りて作業するドライバーも多く見受けられる。

 この災害は、フェリーターミナルの駐車場で起きたもので、トレーラの連結作業をデッキ上で行なっていたところ、緩い傾斜によりトレーラ全体が動き出し、慌てて運転席に戻ろうとした被災者が、自車と別のトレーラ(駐車中)との間に挟まれ死亡したものだ。

 トラクタ(ヘッド)とトレーラ(シャーシ)は、連結時に2本のエアホースで接続されており、ヘッドで作られたエアをシャーシへ供給するエマージェンシーライン(サプライライン)と、ドライバーのブレーキ操作などをシャーシへ伝えるためのサービスライン(コントロールライン)がある。

 このうちエマージェンシーラインは、単にエアを供給するだけでなく、走行中にヘッドとシャーシが切り離されるなど、ホースが切れてヘッドからのエアの供給が途切れた時には、シャーシのスプリング式のブレーキが自動的に作動してエマージェンシーブレーキがかかるようになっている。

 ここで、エマージェンシーラインのエアが復旧するとシャーシのブレーキは開放される。

 災害発生後のクルマの状態だが、ヘッドとシャーシはカプラでしっかり連結されていた。電気ケーブルと2本のエアホースも接続されていたが、運転席のパーキングブレーキがOFFになっていた。

 発生場所はフェリーターミナルの駐車場でアスファルト舗装されており、排水のための「水勾配」が設けられているため、トレーラの前側に向かって緩やかな下り傾斜になっていた。

事故の発生状況

 以上のことから、災害は次のような状況で発生したものと推定された。

  1. 被災者はヘッドをバックでシャーシの前へ移動させ、ヘッドとシャーシを連結した。
  2. 連結の確認のため、エアサスペンションを作動させて車高を少し上げ、シャーシの脚を地面から浮かせた状態で軽く前進し、抵抗があることを確かめて確実に連結されていることを確認した。
  3. 電源ケーブルとエアホースの接続のため、運転席から降りた。このとき、シャーシ側はエマージェンシーブレーキが効いているので、ヘッドのパーキングブレーキを作動させなくてもクルマが動くことはなかった。
  4. ヘッドのキャビンの後ろにあるデッキに上がり、電源ケーブルを接続した。
  5. エアーホースのうち、サービスラインを接続し、次いでエマージェンシーラインを接続したところ、トレーラ全体が前方へゆっくりと動き出した。
  6. クルマを停めるためブレーキを掛けようと、慌てて運転席へ乗り込もうとしたところ、自車の運転席のドアと、右前方に停まっていた別のトレーラのシャーシの間に挟まれた。

トレーラの逸走という緊急事態

 整理すると災害発生の原因として次のようなことが挙げられる。

  1. 連結確認のために軽くクルマを動かしたときに動かなかったため、パーキングブレーキを掛けずに運転席から降りたこと。
  2. エマージェンシーラインを接続したことによりシャーシのスプリングブレーキが開放され、下り傾斜によりトレーラ全体が動き出したこと。
  3. エマージェンシーラインを取り外すとシャーシのスプリングブレーキが効きクルマは停まるが、慌てていたためヘッド(運転席)に乗り込んで停めようとしたこと。

 運転席から離れる時にはパーキングブレーキを確実にかけ、エンジンを停止し、輪止めをすることがなにより重要だ。

 被災者は30年の経験を持つベテランなので、落ち着いて考えればエマージェンシーラインを外してトレーラを停めるということができたはずだ。しかし思わずクルマが動き出したときに、慌てずに行動するのは難しい。

 トレーラの構造は普通のトラックとは異なり特殊であることから、運転操作以外のことについても必要な作業手順を定め、繰り返し教育を行なうことが必要だ。

 また、経験の長いドライバーで、頭ではわかっていることであっても、緊急時など慌てていると、適切な措置がとれないことがある。とっさの判断ができるよう緊急時を想定した訓練を行なうことも有効だ。

投稿 トレーラが無人で走り出す恐怖! 無人暴走を防ぐため日頃から緊急時に備えた教育・訓練を!!自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。