<ドラマ『星降る夜に』第1話放送直前レビュー 文:横川良明>
ドラマ『星降る夜に』が、本日1月17日(火)よりスタートする。
本作は、恋愛ドラマの名手・大石静脚本による大人のピュア・ラブストーリー。
主演は吉高由里子。10歳年下の遺品整理士役に北村匠海。さらに10歳年上の新米産婦人科医役にディーン・フジオカ。それぞれ確かな実績を持ちながらも、どこかイノセントな雰囲気をたたえ続けるキャストが集結した。
そこに、千葉雄大、光石研、水野美紀ら硬軟自在の演技力を備えた顔ぶれが揃い、布陣は盤石。そんな本作の魅力を、第1話放送に先駆け紹介したい。
◆弱さを見せられなくなった大人にこそ観てほしい
初回からいきなりじんわり泣かされてしまった。
というのも、このドラマは確かに、産婦人科医の雪宮鈴(吉高由里子)と遺品整理士の柊一星(北村匠海)のラブストーリーだ。実際に冒頭からロマンティックなシーンも待っている。
でも、ただ胸がキュンとなるようなシチュエーションを集めただけの恋愛ドラマではなくて。
もっと胸の奥深く、普段は何でもない顔をして隠しているけど、実は今も化膿したまま癒せていない心の傷を、優しく包み込むようなタッチで描いた物語だ。
放送前なので詳細は明かさないが、第1話で鈴にある出来事が訪れる。それは、私たちが生きている限り決して避けられないもので、特に35歳という鈴の年齢を考えると、いずれやってくる現実として、心のどこかで意識している類のものだ。
でも、実際にはまだまだ自分には遠い出来事だと決めつけて、見て見ぬふりをしてやり過ごしている。そんな甘えも全部自覚しているからこそ、鈴が直面した出来事がまるで自分ごとのように思えてくる。
そもそも、この鈴という女性自身、いわゆる天真爛漫なヒロインというタイプではない。
産婦人科医としては非常に優秀。どんな状況でも的確な判断をくだし、妊婦へのケアも温かい。
一方、今でこそのどかな海辺の街にある「マロニエ産婦人科医院」で働いているが、かつては大学病院で勤務していた経験があり、どうして大学病院を辞めたのかと尋ねられても理由は明かさない。
如才なく渡り歩いているように見えて、周囲に分厚い壁をつくっているような女性だ。
でもきっと鈴くらいの年齢になると、みんな大なり小なりそういうところはあるだろう。仕事はそつなくこなせるだけのスキルも経験も身につけた。でもその分、他人に簡単に弱さをさらけ出せなくなった。
鈴はソロキャンプが趣味。そこには誰にも干渉されず、ただのんびり自分だけの時間を過ごしたいという気持ちが見え隠れして、そんなところも無性に共感してしまう。
弱さを見せられる相手というのは限られているわけで。気兼ねなくワガママになれる相手なんて本当にひと握りで。
その心理を思えば思うほど、第1話で鈴に降りかかる出来事につい肩の力が入る。
だからまずは恋愛に限らず、いろんなことに揺れる大人たちの日々を描いたドラマとして、他人に本音を見せられなくなってしまった人、大人という鎧の重さに少し疲れてしまった人、いつも心のどこかに喪失感や孤独を抱えている人に観てほしい。
うまく言葉にできないまま、澱(おり)のように固まって張りついてしまった寂しさや苦しさを洗い流してくれるドラマになっていると思う。
◆枠におさまらない一星の魅力
その上で、ラブストーリーとしての魅力を語るなら、やっぱりヒロインの相手役となる柊一星だろう。
一星は生まれつき耳が聴こえない。でも第1話を見る限り、それ自体は2人の恋路に立ちはだかる障害という感じではない。
なぜかと言うと、このドラマが、耳が聴こえないことを可哀想なこととして描いていないから。
一星は、世の中のしがらみに囚われていない。「障害に負けず健気に頑張る聖者」なんてステレオタイプに自分をおさめるつもりは毛頭ない。
自分の好きな仕事に打ち込み、時には上司の命令に背いてでもやりたいことを貫き通す。そして、プライベートは気ままにキャンプをし、心の赴くままに趣味のカメラのシャッターを切る。
一星は、出会って間もない鈴に突然キスをする。この令和の時代に「同意のないキス」なんてラブストーリーでは御法度だと眉をひそめる人もいるかもしれない。だけど、一星というキャラクターを理解すると、そういうことじゃないんだなと妙に納得してしまう。
ただキスをしたから、しただけ。まるで猫みたいな男の子だ。
でもだからと言って、マイペースで他人に興味がないかと言ったらそんなことはなくて、むしろその逆。人の想いというものを誰よりも強く信じていて、大切な人を失った遺族の悲しみに一生懸命寄り添おうとする。
名前も知らない鈴に「バーカ」と言ってしまう口の悪さや、レアなアダルトビデオを発見して興奮する男の子っぽさと、仕事のときのまっすぐな目のギャップに、ついドキッとさせられる。
ふとした瞬間に崩れ落ちそうな弱さを抱えた鈴と、自分らしく生きる強さを持った一星。そんな2人を吉高由里子と北村匠海がチャーミングに演じているから、つい惹きこまれてしまう。
さらに、そこに加わる佐々木深夜(ディーン・フジオカ)も、「おディーンさま」のパブリックイメージを覆すポンコツギャラでギャップが楽しい。
それだけでなく、なぜ45歳にして医師となったのか、背景には悲しい過去が秘められていて、同じく辛い喪失の経験を抱えているであろう一星も含めて、みんなが隠し持っている傷に、心が静かに共鳴する。
鈴と一星は、星降る夜に出会った。
思えば、人はなぜ星空を尊く思うのだろう。美しいものを見たいという人もいれば、その壮大な景色に癒される人もいる。あるいは、手の届かないものに愛しさを感じる人、何億光年離れた場所から届く繊細な輝きに胸震える人もいるに違いない。
そんな星空に似た想いが、このドラマにはある。しんと空気が冷えた夜。耳が痛くなるほど寒い中、見上げた夜空に心が浄化されるように、これから始まるラブストーリーが目まぐるしい1週間の中で特別なひとときになりそうだ。(文:横川良明)