F1技術レギュレーションが大幅に変更された2022年に主要チームが導入したマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが評価、それぞれの長所・短所、勝因・敗因について分析した。レッドブルRB18技術レビュー(1) と(2)、フェラーリF1-75 に続く今回は、メルセデスW13に焦点を当てる。
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過去には2017年、2019年の車体規約変更にも見事な適応力を示し、王座を守り続けたメルセデス。しかし2022年には、技術的な転換をうまく行うことができなかった。
シーズン序盤、メルセデスの2台のうち先にチェッカーを受けた方のレースタイムは、平均すると勝者から30秒遅れだった。ブラックレーのエンジニアたちは、ポーパシング(高速での激しい縦揺れ現象)を抑えるのに苦労していたのだ。それがシーズン終盤のブラジルGPでは、ジョージ・ラッセルとルイス・ハミルトンが1位と2位を独占した。
その意味では間違いなく、メルセデスW13は2022年のF1選手権で最も伸び代の大きかったマシンと言えるだろう。
それを可能にするために技術陣は、新しい改良パーツを矢継ぎ早に導入する方法は取らなかった。代わりに問題の根本的な原因を徹底的に分析し、既存の枠組みの中でそれを軽減する方法を探したいと考えた。
ポンピングやバウンシングの原因となる多くの特徴は、W13の思想(フロア上面の大きな露出面積、限られたサスペンションストロークなど)に固有のもので、変更することは不可能だった。そのため、この制限の中で、できるだけ振動をニュートラルにする方法を見つける必要があった。
そこでまず、地上高を当初の予定より大幅に上げることにした。しかし危惧した以上にパフォーマンスは低下し、レッドブルとフェラーリに大きく遅れを取った。だがスペインで新たに切り込みを入れたフロアを採用したことで、車高を少し下げることに成功した(下写真の黄色矢印参照)。
しかしこの改良ではダンパーをかなり硬くする必要があり、空力以上にメカニカルな問題、つまりバウンシングが発生することが判明した。サスペンションが非常に硬く、バンピーな路面や縁石で跳ねまくったのだ。
「ポーパシングを修正した後、車がジャンプしすぎていることに気づいた。外から見るとこのふたつの現象は似ているように見えるが、実際には違う」と、当時メルセデスの戦略ディレクターを務めたジェームズ・ボウルズは総括した。
「ポーパシングが解消されてマシンが低い車高で走れるようになると、今度はかなり強く路面にぶつかって急激に持ち上げられる、バウンシング現象が発生するようになった」
設計段階で求めた理想的な車高にすることができなかったため、フロア下で期待したダウンフォースは発生できなかった。そこでW13には急角度のリヤウイングが装着された。これでダウンフォースは出るようになったが、同時にレッドブルと比較するとはるかに大きなドラッグが発生した。
バンプや長いストレートのないコースでは、W13は高速コーナーでフェラーリと互角のダウンフォースを発生させた。しかし激しい縦Gのかかるオー・ルージュを有するスパや、高速かつ高い縁石のあるモンツァでは、車高を上げざるを得なかった。車高の高さがほんの少し変化するだけで、ダウンフォース量が大幅に変わる。それがメルセデスW13の最大の欠点だった。
とはいえ彼らは、中団トップのアルピーヌやマクラーレンを大きく引き離し、2022年に3番目に速いマシンとなることには何とか成功した。特にシーズン終盤は、アメリカで導入された減量とアップデート、そして良好な路面コンディションのおかげで、アメリカ、メキシコ、ブラジルと高い競争力を発揮し続けた。
一方で現場のレースエンジニアたちは、低速コーナーよりも高速コーナー性能を優先するセットアップを選択することが多かった。そのことで確かにW13の走行性能は上がったが、同時にドライビングも著しく難しくなった。
たとえばブレーキング時、W13の重心はダイブやロールの量に応じて大きく変化し、挙動はしばしば予測不可能になる。それにもかかわらず、ハミルトンはシーズン終盤、ラッセル以上の鋭い走りを見せていた。結果的に未勝利に終わったものの、ラッセルよりも本能的なスタイルを持つ7度の世界チャンピオンが、その非凡な才能の一端を証明したということではないだろうか。