ダカールラリー2023は、サウジアラビア・ダマムへの最終ゴールで15日間の競技がすべて終了した。
日野チームスガワラは、日野自動車の認証不正問題という逆風の中での32回目の参戦となった。さまざまなトラブルやアクシデントに直面してもチーム一丸となって対処し克服した姿勢には、信頼回復に向けた道を歩む日野自動車にも多くの示唆を与えるとともに、勇気づけられるものとなったことだろう。
文/トラックマガジン「フルロード」(日野チームスガワラSNSより)
写真/日野チームスガワラ・ASO
燃料漏れと水温上昇に見舞われながらも無事ゴール
日野チームスガワラの日野600は、最後のSS(競技区間)で燃料漏れや水温上昇などのトラブルに見舞われるも、なんとかトラック部門総合21位で走り切った。
その結果、累積ではトラック部門総合10位の順位が確定。苦闘を共にしたチーフスタッフは喜びに沸いた。
ダカールラリー2023は最終日の1月15日、サウジアラビアのホフフ~ダマム間で138kmの最終SSを実施。その後ダマム市郊外のキングアブドラカルチャーセンター(ITHRA)にゴールして15日間の大会が閉幕した。
ハイブリッドシステムを搭載した日野600シリーズを駆った日野チームスガワラの菅原照仁/染宮弘和/望月裕司組は、アルホフフのビバークからリエゾン(移動区間)で167km移動したカタールとの国境付近からこの日のSSをスタート。
ダマムに向かってペルシャ湾沿いの海岸を北上するルートを辿った。路面のほとんどが砂地で、序盤のツイスティな区間に始まり、オフロードやナビゲーションが複雑な区間も登場した。
日野600は途中で燃料配管からの燃料漏れのためストップ。応急修理に約20分を要したほか、その後水温が上昇して冷却水を補給したため約30分のロスタイムに。それ以外は順調で、ハイブリッドシステムも機能させながらゴールに到着した。
チーム一丸となってトラック部門総合10位を獲得!
その後、日野チームは100kmのリエゾンでダマム市内に移動し、午後17時頃にゴールセレモニー会場に到着。大きな鯉のぼりを掲げてポディウムに登壇した日野チームは観客の声援に手を振って応え、今大会の15日間の競技が終了した。
サウジアラビアに舞台を移して4年目の今大会は会期中を通じて天候が安定せず、コースの冠水によるキャンセルや短縮があったほか、ビバーク地では降雨や泥濘化がチームスタッフを苦しめた。
また、近年のコース設定は多数を占める軽量バギー車への配慮なのか難易度が高まり、とりわけエンプティクオーターの砂丘など、トラック部門の車両には過酷な状況も見られた。
こうした状況下で日野チームスガワラの日野600シリーズはサスペンションの熟成によって走行ペースが向上。より排気量の大きい車両に交じって、しばしばSSのシングルフィニッシュ(一桁順位)を記録したが、中盤以降エンジンの水温上昇やハイブリッドシステムなどのトラブルが頻発した。
12日には砂丘で転倒も喫したが 、そのたびに経験豊かな乗員や毎日徹夜作業を続けるメカニック陣が活躍。チームの努力と総合力で無事トラック部門総合10位の成績でゴールに到着した。
なお、トラック部門の総合優勝はイヴェコ・パワースターを駆るボス・マシーナリー・チーム・デルーイ・イヴェコのカステレン/ロデワルド/スナイデルス組だった。
総合順位とSS累積タイムは次の通りだ。カマズが不在の今大会、イヴェコ車が1~4位を占めるなど上位を独占した。
順位(タイム)/ナンバー/ドライバー(チーム)
1位(54時間03分33秒)/ 502 Kasteren J. (Boss Machinery Team de Rooy Iveco)
2位(55時間18分07秒)/ 501 Macik M. (MM Technology)
3位(56時間43分55秒)/ 506 Vandenbrink Ma. (Eurol Team de Rooy Iveco)
4位(58時間06分02秒)/ 511 Vandenbrink Mi. (Eurol Team de Rooy Iveco)
5位(59時間09分42秒)/ 505 Valtr J. (Tatra Buggyra ZM Racing)
10位(72時間58分33秒)/ 519 Sugawara T. (Hino Team Sugawara)
チームメンバーのコメント
菅原照仁
今日最後のSSでも燃料漏れでストップ。序盤から小さなものを含めてトラブルが続き、水温上昇が出てからは毎朝エンジンがちゃんと掛かるか心配でした。コース(の難易度)もすごくて、今までで一番大変な年になったと思います。10位の成績はまずまずでしょうか。
染宮弘和
トラブルは色々とありましたが、ナビゲーションは順調。今日は後半オフロードの中でGPSポイントが沢山出てきてカバーしきれませんでした。乗車メカニックの望月裕司さんが活躍した大会となりました。
望月裕司
今大会の参戦にあたっては会社の不祥事があり、出られて良かったと思います。出場するからには結果を出したかったのですが、色々ありすぎましたね。
土屋拓麻
エンジンに問題が出たときはどうなるかと思いましたが完走できてほっとしています。日本に帰ったら次回大会に向けて、今回の経験を活かしたいと考えています。
濱井抄太郎
転倒した際にハーネスを傷めたキャパシタは最終日には直りました。ハイブリッドは今回信頼性に問題が色々と出たように思います
鈴木誠一
今回は色々なものが壊れて作業時間が長く、リヤドに居た記憶が全くありません。成績は久しぶりに本来というか、良かったのではないですか。
佐藤龍晴
夜の冷え込みは厳しかった。でもこうして完走したのを見ると良かったと思います。作業は多かったですが良い経験でした。
佐藤雅紀
サウジに来てこんなに寒いとは思いませんでした。寒い中での作業はやはり大変です。最後までクルマがビバークにちゃんと帰ってきてくれて安心していました。
森田淳平
南米大会以来久しぶりに来てみたらこちらも寒くて参りました。仕事は楽しく頑張りました。
多田圭吾
海外に行くのもラリーも初めてで、最初はリズムが掴みにくかったです。今は大分慣れました。来年にこの経験を活かしたいと思います。
佐藤忠章
例年と同じくメカニックとして帯同しました。今回はトラブルとの戦いで自分も疲れましたが、クルマを走らせている人たちはもっと大変だと思います。
良川幸司
今年はオートマチックギアボックスの交換を担当したり、エンジン分解をサポートしたり……。大事な仕事を任せられて良い経験になりました。
近内舜
チームの人数が増えて体制が強化される中で、上手くビバークを運営できたように思います。雨も多く大変な大会でした。
毛塚麻由美
アシスタンストラックのドライバー担当は今年も楽しく頑張りました。もっと運転が上手くなりたいです。
安藤瑠美
メカニックや管理側の体制が大きくなって大変な面もありましたが、みなさんの協力もあってスムーズにできたと思います。ゴールできて良かった。
日野チームスガワラ以外の話題を振り返る
ダカールラリー2023では、エンジン認証不正問題から出場辞退も危惧されていた日野チームスガワラが見事完走、総合10位という好成績を収めた。それ以外にも話題の多い大会となったので少しだけ振り返ってみたい。
ロシアの不在
2023年のダカールラリー・トラック部門は、ウクライナにおける戦争の影響でロシアとベラルーシ勢が不在となる中で開催された。特にロシアのカマズ・マスター・チームはダカールラリーの絶対王者であった。
ロシアによるウクライナ侵攻はFIAのポリシーに対するコンプライアンス違反とされ、カマズ・マスターがダカールラリーへ参加する条件として、軍事侵攻(ロシアでは「特別軍事作戦」)を非難するFIAのドライバー・コミットメントへ署名する必要があった。
しかし、チームは署名を拒否し、そのまま9月のダカール参加のデッドラインを過ぎたため、ロシアおよびベラルーシのチームはダカール2023に参加できないことが確定した。トラックのほかに軍用車も製造するカマズにはロシア政府が出資している。
なお、カマズ・マスターはダカールへの不参加に際して次のようなコメントを出している。
「ロシア人アスリートのラリー・ダカールへの参加は、ウクライナにおける特別軍事作戦を非難するFIAのドライバー・コミットメントへ署名することが条件となっている。我々の意見として、この文書は政治的であり、またアスリートの平等という原則を侵害するものである。このような条件のもと、このような文書に署名することは、我々には不可能であると考える。従って、我々の選択は明確だ。『私たちはいつでも祖国と共にある。とりわけ困難な状況においては猶更である』」。
トラック部門で悲劇
カマズの不在という状況で総合優勝を目指して気を吐いたのがチェコのベテランドライバー、アレス・ロプレイスだった。しかし、トップを独走していたロプレイスが完走することはなかった。
悲劇が起きたのは12日目の第9ステージだ。
ロプレイスは競技中にイタリア人男性と接触する人身事故を起こした。砂丘の影で写真を撮っていた男性の姿はトラックからは全く見えず、ロプレイスは事故があったことにも気づいていなかった。
男性は病院に運ばれたが数時間後に亡くなった。当局による調査のため累積順位でトップに立つロプレイスの競技続行は不可能となった。
ロプレイスはチームのフェイスブックを通じて次のようにコメントしている。
「ダカールラリーのトラック部門で人命が失われた。それはハンドルを握っていた私の過失によるものだ。言わなければならないのは、私やクルーたちはこの事故に全く気付いていなかったということだ。しかし事故をとらえた映像があり、人命が失われたという事実を変えることはできない。亡くなられた方の家族と友人、彼を愛する人たちに心よりお悔やみ申し上げます」。
水素燃料トラック
いっぽう、「チャレンジ・ニュー・エナジー」クラスのトラックも話題になった。
経験豊富なスペイン人ドライバー、ジョルディ・ジュバンテニー(KH-7エプシロンチーム)が、ダカールラリー初の水素燃料トラックで参戦したことだ。終盤の第12ステージでの転倒を立て直せず、完走はできなかったが、ダカールラリーの歴史に新しい1ページが刻まれた。
車両はMANのTGA26.480をベースとする6×6駆動のトラックで、ダカールラリーでも重量級の12トンクラスの車両となる。
合計420リットルの水素タンクを搭載し、燃料電池ではなくスペインの代替燃料の専門企業であるEVARM社が開発したシステムにより、ディーゼル燃料と水素の混合燃料をエンジンで燃焼する。エンジンは直6の800 hpとのこと。
燃料となる水素は移動式水素ジェネレータで生成し、各ステージごとに充填した。世界一過酷なレースといわれるダカールラリーを通じて水素燃料の可能性を実証するほか、今大会は燃料とCO2の削減効果を測定することも目的としており、その意味では充分な成果を得たという。
2024年大会では、より水素の比重を高めた車両での参戦を目指している。
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