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 2022年も最終戦まで目が離せないバトルが繰り広げられたスーパーGT。GT500クラスではTEAM IMPULが27年ぶりにチャンピオンを獲得し、GT300クラスでは王座の行方が決勝レース中に二転三転する波乱の展開となったが、最終的にKONDO RACINGの56号車が2年ぶりにチャンピオンを獲得した。

 両クラスとも、一喜一憂するレース展開となったのだが、その時ピットで見守っていたレースクイーンたちはどんな心境で、それぞれが応援する車両を見守っていたのか。

■宮瀬七海/予選日のチームの雰囲気を見て『いける!』と思いました!

 27年ぶりにGT500チャンピオンに輝いたTEAM IMPUL。「Mobil1レーシングサポーターズ2022」を務める宮瀬七海さんにとっても、一生忘れることができないほど貴重な経験をしたレースウイークとなったと語る。

 第5戦鈴鹿での優勝をはじめ、シーズンを通して安定した走りを見せ、トップから2.5ポイント差のランキング2番手で迎えたカルソニックIMPUL Z。ただ、最終戦に関しては『今季2勝を飾っているCRAFTSPORTS MOTUL Zが優勢なのではないか?』という見方が強く、宮瀬さんも期待と不安が入り混じった心境で、舞台となるモビリティリゾートもてぎに入ったようだ。

Mobil1レーシングサポーターズ2022を務めた宮瀬七海さん
Mobil1レーシングサポーターズ2022を務めた宮瀬七海さん

「事前の情報とかで『3号車の方が有利なんじゃないか?』とか、周りの人からも言われたので……土曜日にサーキットに行くまでは、緊張感もあったし、不安もあったし、『勝ってほしい!』という気持ちも入り混じった、初めての感情を抱きながらサーキット入りしました」

「シーズンを通して、Q1を突破することがあまりなかったので、予選を観ているときは正直不安でしたけど、Q1も突破してくれましたし、Q2ではチャンピオンを争うライバルよりも前の順位を獲れて『いける!』という雰囲気になりました」と予選日のことを振り返る宮瀬さん。12号車を応援し続けて3年目だが、その時に“今までにない変化”がチームに起きていたことに気づいた。

「ひとつ言えたのが、チームの雰囲気が予選日からすごく良かったんですよ。みんなが勝ちを狙いにいっている感じはあるんですけど、私が思っているような不安がなくて、皆さんから『今週はいける!』という雰囲気が出ていたから、私も『いける!』という気持ちに、気がついたらなっていました」

「それこそ『勝てる時って……もしかしたら、こういう時なのかな?』という感じでした。最初は不安もありながらサーキット入りしましたけど、予選が終わったら、不安は一切なくなって、決勝まで“楽しみ”という気持ちが強くなりました」

「日曜日も私たちレースクイーンは『チームについていけば、絶対に獲れる!』みたいな感じでした。チームを信じて、ピットウォークとか、イベントとかの仕事をして、会いにきてくれたファンの皆さんとも『絶対に獲ろうね!』という話をしていましたね」

 もちろん、ライバルの追い上げや不測の事態も十分に考えられるため、一瞬も気が抜ける状態ではなかったのだが、その緊張感のなかで、チームの前向きな雰囲気と同様に笑顔も増えていた宮瀬さん。荒れ模様となった決勝レースでも“チームを信じれば大丈夫”という、自信にも似た心境があったという。

「決勝は、すごく荒れたレースでしたし、抜かされたり抜き返したりで……ピットで叫びながら、悲鳴をあげながら、手に汗握りながら応援していました(笑)」

「だけど、心の底には信じられている気持ちがありました。本当はハラハラして、モニターとかも見ていられないくらいになるのかなと思ったのですが、12号車が強かったから、自分の気持ちまで強くなって、レースを応援できました」

 3番グリッドからスタートした12号車は、序盤のベルトラン・バケットのスティントで2番手にポジションアップすると、後半担当の平峰は約40周にわたって、接近戦のバトルを展開。ひとつでもミスをすればライバルに抜かれて、チャンピオンが手からこぼれ落ちる可能性もあったのだが、極限のプレッシャーの中で、平峰はひとつのミスもせず2位でフィニッシュ。念願のシリーズチャンピオンを決めた。

「(ゴール後は)めちゃくちゃ泣きました。チームの皆さんの嬉しそうな表情が見られたのが嬉しかったですし、チームのマネージャーの高杉さんとも抱き合って喜んでいました!」

「個人的には高杉さんには凄くお世話になっていて、私がインパルに入ってからすごく『勝利の女神だね!』とか『来年も絶対よろしくね!』と言ってくださって……やっぱりチームの方からそういうふうに言ってもらえるというのは嬉しいですし、チャンピオンが決まった時もハグをしてもらって、嬉しかったです」

「『ありがとう』と言ってもらえることは、レースクイーンとしても嬉しいことなので……いろいろな気持ちが込み上げてきて、泣けましたね」

 チームスタッフと共に喜びを分かち合っていた宮瀬さん。普段からスーパーGTの現場で、主に星野一義監督に傘をさすことが多のだが、最終戦のチェッカー後は、“いつもと違う星野監督の姿”を近くで見ていたという。

「星野監督の喜んでいる姿を間近で見て、込み上げてくるものがありました。普段は感情を前面に出す方だと思うんですけど、チャンピオンが決まった時は違いましたね」

「喜び方も普段とは違った感じがしましたし、感謝の言葉を周りの方たちに述べていらっしゃったのが素敵だなと……改めて、たくさんの方々の支えがあって、チャンピオンが獲れたものなんだなと思いました」

「普段は『やったー!』と言って、いつもの監督の喜び方になるんですけど……今回は違いました。いろいろな人に感謝を伝え、握手をしていました。チャンピオン獲得を噛み締めているんだなと……『これがレースだな』と感じました」

 もともとニッサンが好きな父の影響でレースに興味を持ったのがきっかけで、今はレースクイーンとして活躍している宮瀬さん。父も応戦するニッサン勢のレースクイーンとして、GT500チャンピオンの瞬間に関われたことに、どこか誇りに思っているようだ。

「(お父さんからの)LINEがすごかったです(笑)。めちゃくちゃ喜んでくれていました。最初はニッサンのレースクイーンになれたことにもすごく喜んでくれていたのに、チャンピオンチームのレースクイーンになったと思うと……感慨深いですね」

「インパルのGT500王座も27年ぶりとかって……もし、私がもっと早く生まれていたり、(レースクイーンをやるタイミングが)もっと後とかだったら、この瞬間を見られなかったと思うので、すごく特別な年に携わらせていただいていることに、私も感謝しています。すごく素敵なチームでシリーズチャンピオンを獲った1年だと感じていました」

「チームからの活気とか、勝てる時の雰囲気や強さをみて、自分もいけるという私自身もパワーをいただけた最終戦でした

 TEAM IMPULの力強い戦いぶりに、自分自身も勇気をもらったという宮瀬さん。今後の彼女自身の活動にも、間違いなくプラスになる経験になったことだろう。

■織田真実那・原あゆみ/「こんなレース、たぶん2度と経験することはないと思います」

 一方、GT300クラスはチャンピオン争いの行方が二転三転する波乱の展開となった。そんな中、リアライズ日産メカニックチャレンジGT-Rを応援するリアライズガールズも様々な感情が駆け巡った週末となった。

リアライズガールズを務めた織田真実那さん、原あゆみさん、水瀬琴音さん、宇佐美なおさん
リアライズガールズを務めた織田真実那さん、原あゆみさん、水瀬琴音さん、宇佐美なおさん

「(最終戦のサーキットに入る前は)けっこう自分たちのなかでは、チャンピオンが絶対に獲れるというくらいのモチベーションで来ていましたね」と織田真実那さん。「今年はレースクイーンのメンバーがみんな仲良くて、普段から遊んでいる時も56号車の話になって本当に一体感がありました」と最終戦前もリアライズガールズ4人の間でチャンピオン争いの話は盛り上がっていたようだ。

 そんな中、GT300クラスの予選では、対抗馬として注目を集めていたSUBARU BRZ R&D SPORTがQ2でまさかのクラッシュを喫してしまった。これにより、56号車陣営にとっては有利な展開になったように見えたのだが、近藤真彦監督をはじめ同チームのドライバーたちに一切笑顔はなく、それを見守るレースクイーンたちも複雑な心境だったという。

「(61号車のクラッシュを見て)そこで喜んだりとか、騒いじゃいけないなと思いました。何か、そういうことをしたら、今度は私たちのチームにも不運が来そうな気がしたから……。とにかく、静かに見守っていようと思いました」

「でも、僅差で争っていて、せっかく面白いレースが観られるはずだったのに、競り合っていた61号車がスピンをしてしまったことは残念でしたね。ちゃんとした勝負を見たかったです」と織田さん。

 その隣でモニターを見つめていた原あゆみさんも、不安にも似た気持ちになっていた。

「なんか衝撃を受けた感じでした。『やったー!』という感じにはならなかったです。逆に『56号車もこうなったら、どうしよう?』という気持ちになっていました。何があるか本当にわからないなと思いましたね」

 そして始まった日曜日の決勝レース。序盤からアクシデントが立て続けに起きるなど、近年稀に見る荒れ模様となった。その中でも、GT300クラス7番手からスタートした56号車は、順調に周回を重ね、ドライバー交代を済ませたレース後半には4番手に浮上。

 このまま行けば、表彰台圏内でのフィニッシュも見えていたのだが、残り20周を切ったところで、突然タイヤが外れるトラブルに見舞われ、一気にチャンピオン争いの行方と56号車ピットの状況が一変した。

「何も起きなければチャンピオンを獲れる状況だったので、とにかく『何も起きないで』と祈っていました。ただ、序盤から多重クラッシュとか、いろいろトラブルがあって、お願いだから56号車は巻き込まれないでほしい……」

「ちょうどそんな話をレースクイーン同士で話をしていた時に、タイヤが取れてしまって……。『本当にこんなことがあるのか?』『何を悪いことをしたんだ?』って、そんなことを考えていました」と織田さん。

 原さんも「その時、私たちはパドック側のテントのなかで見ていたんですけど、みんな何も言葉も出ない感じで……泣いていました。場内実況でも『チャンピオンは厳しい』みたいなことを言われていたので、そこで『(チャンピオンは)ないな』という感じになっていたから、みんな泣いていました」と振り返る。

 一時はチャンピオン獲得が絶望的かと思われた56号車だったが、ピットで応援するリアライズガールズたちは最後まで応援を諦めることはなかった。

「可能性は低くなったなと思ったのですが、タイヤが取れても、ピットまで戻ってこようとしていたから『最後までちゃんと応援しなきゃ』という感じで、ずっと応援していました。そこからは『奇跡よ起これ!』みたいな感じで祈っていました。本当にどこかで何かがないかなというのを、みんなでずっと祈っていました」と織田さん

「その時は一瞬『もうダメなんだ』と思いましたけど……でも、どうにかして『何か方法はないのか?』『どうにかして56号車がチャンピオンになれないのか?』というのを、みんなで考え始めていました」

「実はファンの方が作ってくださったポイント表があって、それを見て、みんなで計算していました。それで『他のチームの順位次第では、もしかしたら……』ということに気づいてからは、みんなで祈るように応援していました」と原さん。

 織田さんは「あんなに他のチームを応援したことはなかったですね(苦笑)」とコメント。原さんも「残り10周くらいになって、私たちもピットに行ったんですけど、ちょうど可能性が出始めた時だったんですけど、チャンピオンの可能性が少しずつ近づくたびに、みんなで喜んでいました。でも、ギリギリまでわからなかったので、ずっと祈っていました」とレース終盤を振り返る。

「本当に祈りすぎて……私たちもお互いに手を握りすぎて、手汗がヤバかった(笑)。チャンピオンが決まった瞬間は、全員が大泣きでしたね。あんな経験をレースクイーンですることは、今後ないだろうなと思います」と織田さん。

 ライバルチームのポジションダウンもあって、最終的にチャンピオンを手にすることができた56号車。王座が確定した瞬間は、リアライズガールズたちも、大泣きしながら喜んだようだ。

 なかでも、リアライズガールズ3年目となる織田さんにとっては、2020年の56号車以来となるチャンピオン決定の瞬間を間近で見ることになったのだが、その時とは心境がまるで違うという。

「2020年のチャンピオンの時は、現場に来れなくて、ニッサンの本社で開催されたパブリックビューイングで観ていたのですが、正直あまり臨場感がなくて、ただ『嬉しい!』みたいな感じはありました。だけど……今回は、自分のことのようにという感じで、全然違いましたね」

「今年はスーパーフォーミュラでもリアライズガールズとしてKONDO RACINGを応援させていただいていて、よりチームの皆さんとご一緒する機会も増えましたし、ここまで良いチームはさすがにないと思ってレースクイーンを務めていたので、本当に嬉しかったですね。私のレースクイーン史上に残るいちばんの思い出になりました」と織田さん。

 一方の原さんは、2021年に別のチームで最終戦にチャンピオン決定間近というところから、不運なアクシデントに見舞われ、悔しい結果を味わったメンバーのひとり。今回は歓喜の瞬間を味わうことができ、改めてレースの魅力に触れることができたという。

「正直、タイヤが取れた時は……昨年の最終戦、別のチームで経験したことが頭によぎりました。昨年のチームもこのまま行けばチャンピオンという、安定的な感じてきていて、今回も同じような流れでした。だから『今年も最後は喜べないのか』という感じで思いました」

「けれど最後は笑顔で終わることができて嬉しいですし、改めて『レースは面白いし、奥が深いな』と思いました」と思いを語る。

 年々、劇的な展開でチャンピオンが決まることが多くなっているスーパーGT。今年もいろいろなドラマが生まれたのだが、各チームを応援するレースクイーンたちにとっても、思い出に残るシーズンになったことは間違いないだろう。