ここ最近、発売前の予約受注を開始する車種が増えた。この販売方法には、大きなリスクが伴う。そのひとつが、試乗できないことだ。
そこで、本稿ではクルマの試乗と乗り心地を確認する重要性について解説する。
文/渡辺陽一郎、写真/NISSAN、SUBARU、ベストカーWeb編集部
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高額商品である「クルマ」発売数カ月前に予約受注する販売はリスク多すぎ!?
クルマは高額商品で、一度登録(軽自動車は届け出)すると、中古車になって価値が下がる。クーリングオフ制度の対象にも含まれず、返品は行えない。しかもクルマは不動産に次ぐ高額商品だから、必ず試乗して、購入するか否かを正確に判断する必要がある。
それなのに最近は、メーカーの生産効率を高める目的で、発売の数カ月前に予約受注を開始する車種が増えた。この販売方法では、試乗だけでなく実車を見ることもできずに契約するから、ユーザーに大きなリスクを強いる。自動車メーカーが、誤った売り方をしている。
そこで試乗チェックは必ず行うが、忘れがちなのが乗り心地だ。一般的に試乗はドライバー目線で行われ、加速性能やカーブを曲がるときの車両の反応などに関心が向きやすい。
これらの運転感覚も大切だが、乗り心地が悪いと、疲労が増えたり、腰痛の原因になる。しかも乗り心地は、助手席や後席の同乗者にとって、特に重要な性能だ。その感じ方は、それぞれの同乗者によっても異なる。
クルマ酔いの問題もある。乗り心地に不満があってクルマ酔いを発生させると、当事者はとても辛い。楽しいドライブが苦痛に変わる。しかも同乗者の気持ちが悪くなり、ドライバーがクルマを慌てて停車させようとすれば、危険も生じる。
今のクルマでは、走行安定性には不安を感じない車種が増えた。動力性能も同様だ。全高が1700mmを超える軽自動車などは、高速道路や峠道の走りは苦手だが、街中で使うなら不満のない走行性能を得ている。
ところが乗り心地は違う。フルモデルチェンジを行って新型車になり、乗り心地が従来型に比べて悪化することもある。燃費を重視して従来型よりも転がり抵抗の小さなタイヤを装着したり、景気の悪化によって足まわりのコストを下げるからだ。
例えば2010年に発売された3代目ヴィッツは、バランスの良かった2代目に比べて乗り心地を悪化させた。販売店から「これでは先代型(2代目)のお客様に、新型(3代目)への乗り替えを提案できない」という話が聞かれたほどだ。2008年に発生したリーマンショックによる世界的な不況で、厳しいコスト低減を強いられ、タイヤも低燃費指向を強めたから、乗り心地が犠牲になった。
この後、ヴィッツは改良を受けて乗り心地を改善させ、今はヤリスに発展したが、それでも14インチタイヤ装着車の乗り心地は相変わらず悪い。14インチタイヤは指定空気圧が前輪:250kPa、後輪:240kPaと高いことも災いした。このように乗り心地は、今日の新車で、最も不満が生じやすい要注意点になる。
その意味でも、乗り心地は入念に確認したい。ファミリーカーとして使う場合は、家族全員で乗車する。例えばお父さんが試乗車を運転していると、後席の乗り心地は分からない。座る人によって感じ方が異なるから、いつも家族でドライブに出かけるときと同じ座り方をして、全員に乗り心地をチェックしてもらう。
販売店での試乗のときに覚えておきたい!! 乗り心地のチェックの仕方
そして乗り心地は、販売店の周辺をひとまわりする程度でも、正確に把握できる。路面の荒れた速度の低い道路ほど、乗り心地の良し悪しが明確に分かるためだ。販売店の周辺にある舗装の悪い場所を時速50km以下で走ると、デコボコの吸収性を確認できる。
試乗するとき、「試乗開始後の3分間」は、ドライバーは特に運転に神経を集中させたい。試乗開始の直後は、試乗車に慣れておらず、違和感が明確に分かるからだ。そこから5分程度を経過すると、無意識にクルマに合わせた運転を行って、違和感が薄れてくる。逆に腰の痛みなど、長時間運転で見えてくる欠点もある。
乗り心地のチェックでは、体を使って、振動やあおられる感覚を検知する。ステアリングホイールを握る掌、シートと接している腰、AT車ならフットレストに置いている左足だ。路面の荒れた場所を時速50km以下で走ると、掌や腰を通じて細かなデコボコの伝わり方が分かる。
マンホールのふたを乗り越えたり、段差を通過したときは、腰からヒップに神経を集中させる。角の立った粗い突き上げ感なのか、それとも角の丸い穏やかなショックなのか、乗り心地の質を把握したい。
可能であれば、速度を高められるバイパスや高速道路でも試乗する。街中で感じた細かなデコボコの吸収性や突き上げ感とは違う乗り心地が分かるからだ。路面がうねっている場所では、車両にも大きな上下左右の動きが生じて、あおられるような不快感が生じることもある。
この主に上下方向のあおられ感は、なるべく短時間で収束させたい。上下動が収まらずに続くと、乗員に不快感を与え、走行安定性も悪化させるからだ。その代わり、この性能を高めると、低速域の乗り心地が硬くなる場合もある。ボディやサスペンションの設定が難しいところだ。
以上のように乗り心地は、街中を中心にした販売店の試乗でも確認できるが、可能であれば高い速度域でも走り、前述のあおられ方や走行音なども確認したい。
クルマ酔いを生じにくいクルマを選ぶときに確認すべき点は?
乗り心地と長距離移動時の疲労には、シートも大きな影響を与える。最も悪いシートは、腰の支え方が曖昧で、着座姿勢が安定しないタイプだ。このようなシートは、今の日本車の前席では大幅に減ったが、後席には残っている。腰が落ち着かないから、乗員の姿勢が走行中に乱れやすい。また上半身の重さを腰(骨盤)で確実に支えられないと、疲労や腰痛の原因にもなりやすい。
さらに同乗者の上半身と頭部が不規則に動くと、クルマ酔いを誘発する心配もある。シートは、着座姿勢を安定させて上半身や頭部のムダな動きを抑え、腰からヒップ、大腿部を確実に支えて疲労を防がねばならない。
ドライバーや同乗者の座り方も重要だ。同乗者は、移動の最中に着座姿勢を変えたくなる気分は分かるが、浅く腰掛けるのは避けたい。体を確実にサポートできず、腰の支え方が曖昧なシートに座っている状態に近付くからだ。
シートを正しく機能させるには、前席であればリクライニングを使って背もたれの角度を適度に立てて、体を背もたれと座面に密着させる。このように座ると、体の中でも特に重い頭部と上半身が骨盤で支えられ、着座姿勢も乱れにくい。
試乗するときも、後席を含めて深く座り、腰がしっかりと支えられて体が安定するシートを選ぶ。そこに先に述べた粗さや突き上げ感を抑えた乗り心地が加わると、快適な移動が行える。
乗り心地に準じた機能として、同乗者から見たときの視界も大切だ。特に後席は閉鎖感が強まりやすく、クルマ酔いを発生させる原因にもなる。今は日本車、輸入車を問わず、外観に躍動感を与えるため、サイドウィンドウの下端を後ろに向けて持ち上げる車種が増えた。後退時にドライバーの視界を悪化させ、バックモニターに頼った運転になりやすい。言い換えれば危険を伴うボディスタイルだ。
しかもこのボディ形状は、乗員にとっても周囲が見にくく、穴蔵に入ったような不快な感覚に陥る。特に座高の低い子供は、チャイルドシートに座っても風景が見えず、不機嫌になったりクルマ酔いを誘発する。
従って後席に座っても前方や側方が見やすく、クルマ酔いを生じにくい車種を選びたい。後席に座る同乗者にとっては、視界も乗り心地の構成要素に含まれる。
乗り心地のほかにチェックしておきたい点は?
乗降性も大切だ。子供や高齢者を後席に乗せる用途では、体を捩らず、腰の移動量を小さく抑えて乗り降りできることが好ましい。試乗車を使って、同乗者に実際に乗り降りしてもらい、乗降性の優劣を確認する。
以上のように、後席に座る同乗者にとって大切な機能は、乗り心地、シートの座り心地、後席からの視界、乗降性だ。ファミリーカーを購入するときは、これらを同乗する家族にチェックしてもらう。
できれば購入の候補に挙げているライバル車を家族と一緒に試乗する。1~2日を掛けて時間を置かずに販売店をまわると、ライバル車との違いも分かりやすい。
そしてひと通りの試乗が終わったら、家族会議を開いて、購入する車種を皆で決める。クルマを選ぶときから、家族全員で試乗を楽しんで欲しい。このように選んだクルマなら、家族の一員として、長く大切に使えるだろう。それは愛車や環境に対しても、一番優しいカーライフだと思う。
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