ここへきて、路線バスの減便がマスコミでも取り上げられるほど目立ってきている。長引くコロナ禍の影響は、バス事業の収益構造を大きく変化させ、このままでは事業が立ち行かなくなるところまで追いつめられている現実が背景にある。
今後も引き続き公共交通を維持するためには、一定の事業性の確保が不可欠であり、減量化は苦渋の選択ともいえる。もちろんコロナ禍だけではなく、他の要素も絡み合った動きではあるが、これを機に整理することで、今後のあり方を考えてみたい。
(記事の内容は、2021年11月現在のものです)
文、写真/鈴木文彦
※2021年11月発売《バスマガジンvol.110》『鈴木文彦が斬る! バスのいま』より
■コロナ禍で変わった人の動き
コロナ禍の影響は、多くの事業者で「会社始まって以来の経営危機」と称するほど、著しい減収減益を生んだ。
2020年5~6月の最初の全国規模の緊急事態宣言の時期を底に、一般乗合バスの場合、一旦20年秋ぐらいから19年度比80%ぐらいまで利用が戻ったのち、21年に入って再び第3~5波の感染拡大とそれに伴う緊急事態宣言等の措置によって60~70%位を上下し、その後は70~80%あたりで推移している状況だ。
おそらくこれ以上元には戻らないであろう、というのが大方の観測だ。筆者もそう感じている。なぜなら、コロナ禍を経て人の行動パターンが明らかに変わったからだ。
高校生以下の通学は元に戻ったが、通勤や大学生の通学はリモートの拡大により一定程度減ったままだし、経済活動の停滞によるパートやアルバイトの減少、外出自粛期間を経て通院や買物の回数の減少から、人の動き自体が減少傾向のままとなっている。
加えてまだ公共交通に「密」のイメージを持ち、バス利用を避けている人も一定数存在する。
さらに夜間の行動が大きく変わった。鉄道が夜間の減便や最終列車繰り上げを行ったのも道理と実感できるぐらい、20時を過ぎると鉄道やバスの利用者が減少する。
首都圏の鉄道などでもかつて最も混んでいた21~23時台の電車は空間が目立ち、飲食店の制限が順次解除されても、大きく増える気配はない。23時以降の深夜バスの多くは運休したままで、それに対する苦情もないという。
■危機感募る自主運営路線
80%位までしか戻らないとなると、乗合バスは厳しい。もともと乗合バスの運賃は公共料金の意味合いから利益率はせいぜい1割程度に抑えられているから、2割収入が減ったら単純に赤字になる。
そしてそうなったときに最も厳しいのは、補助金を受けずに事業者が自主運営している路線だ。
国・県・市町村など何らかの補助対象になっている路線は(100%欠損が埋まらないにしても)、制度に乗っている以上は一定の補填がなされる。
しかし自主路線は本来、収益が見込まれるだけ補助対象路線より利用者も多く、したがってより地域にも役立ってきたからこそ自主運営だったわけであり、それが確実に赤字になるということは、より利用が少ないがために守られる路線よりも維持が難しくなるという矛盾を生じさせることを意味する。
減便は地方バスの問題とイメージする人もいると思うが、今回の減便傾向は東京都内などを含む大都市圏でも顕著に出ており、それこそが上記の自主運営路線の問題なのである。
■内部補助の限界が顕在化
これまで、自主路線を含む一般乗合バスはもともと欠損が発生しているケースが多く、これを高速バスや貸切バスの利益で補填するいわゆる「内部補助」でまかなってきた事業者が大半だ。
そのいわば“頼みの綱”である高速バス、貸切バスがコロナ禍で大きな打撃を受けた。
人流抑制が謳われて、都道府県間をまたぐ移動が自粛され、高速バスは鉄道(新幹線・特急)や航空などとともに利用が激減、一般乗合がある程度戻っている今も、オンライン化にともなう出張頻度や人数の減少、観光の様子見などにより、都市間流動や観光の戻りは鈍い。
貸切バスは2020年夏ごろまでのほぼ稼働0の時期に比べれば学校中心に動くようになったが、20年秋に予約ベースではかなり戻ったものの、感染状況の変化で再びキャンセルが続いたように、見えない部分が大きい。
前号で紹介した長電バスの場合、2020年度の売上は、通年平常営業だった18年度と比較し、一般乗合で67.6%、高速バスで40.2%、貸切バスで23.5%、全事業で54.0%と大きく減少している。
アフターコロナを見据えて持続可能な事業構造にするためには、利用実態や収支を勘案しつつ、総合的に乗合バスの見直しをせざるを得ない状況にある。
■どんな路線を減便するのか
では、減便と言ってもどのような路線が減便されるのか。もちろん利用が少ない路線が筆頭に上がるが、先にも述べたように、補助対象となる閑散路線よりも自主運営の幹線的な系統の方がかかる経費も大きいため傷が深いことを考えると、自主路線に手を付けざるを得ない。
かつては既得権益を守る体質が強かったバス業界だが、今は事業の健全な継続を主眼とする時代に入っている。このため、たとえば自治体のコミュニティバスが近くを走り、影響が多少なりとも出ている路線などは、今回の減便や撤退の対象となりやすい。
コミュニティバスやデマンド交通などの計画に対しても、かつての反対姿勢よりはむしろそちらに任せて縮小または撤退という傾向になりつつある。
中にはコミュニティバスと既存路線の機能を、時間帯によって分担させる計画もある。コロナ禍がいずれ議論しなければならなかった地域のネットワークの再構築を後押ししたともいえる。
■落ち着いたら再浮上するドライバー不足
減便もただ一律に全体を、とか日中の何便かを抜くといったことをしてもあまり意味はない。まずは仕業数をどれだけ減らせるかが一つの判断基準となろう。
コロナ禍の今、ドライバー不足の危機感は多少薄まった感がある。運休している高速バスや稼働しない貸切バスのドライバーが一般路線のハンドルを握れるからだ。
貸切バスを別会社にしている場合も、乗合に出向させてカバーする事業者もある。しかし現状に甘んじていると、アフターコロナでドライバー不足は再燃する。
人流が戻り、高速バスや貸切バスが動くようになれば、乗合バスのマンパワーは従前に戻る。それだけでなく、この2年ほどの間にも年齢層が上がり、退職者も増えているのが実態だ。確実に以前よりドライバー不足は深刻になるため、仕業のスリム化は急務である。
そして今後の人手の確保に向けては待遇改善のための原資の確保も重要で、そのためにも利益幅をこれまで以上に拡大しなければならない。
首都圏では交通系ICカード「PASMO」のポイント割引“バス特”を大半の事業者で中止、それだけで大手事業者では数億円規模の収入確保となったが、支払金額を気にせずに済むICカードの特性で利用者の苦情もほとんどない。
利用者の理解を得つつ、運賃や制度のあり方も見直す時期かもしれない。
■普通に人々が移動でき健全な事業展開ができる時代へ
一部には補助金を増額すればよいという論調もある。ただ、現状の路線バスの補助制度は標準原価から、過去の実績ベースで算出される仕組みゆえ、支給されるときにさらに状況が悪化していると欠損額を埋めることすらできず、車両購入など一時的に高額な投資を行う原資の捻出は困難となる。
ありがたいことに多くの自治体でコロナ対応の一時金をバス事業に拠出してくれたが、利益の出せる事業を活かし、内部補助を気にせずに展開ができるよう、地域にとって必要なバスサービスの確保に向けて自主運営路線の維持も含めた“包括補助”を自治体が検討する時期に来ているのではないだろうか。
人が動かなければバス利用も伸びない。人流抑制の考え方にはさまざまな意見があろうが、2020年秋の「GoTo」のように急激に人が拡散するような状況でなければ、むしろ早く普通に人が移動できる環境が必要であろう。
幸い“第5波”後の落ち着きと、選挙などもあって結果的には緊急事態宣言解除~飲食店の制限解除~今後「GoTo」と段階的にゆっくりと進んでいる。
ワクチン接種の進行や人々の基本的な感染対策の常態化などにより、感染リスクはかなり低減しているはずなので、感染対策はこれまで通り徹底した上で、人を動かし経済を回す方向への転換の時期ではないだろうか。
投稿 スケールダウンしつつも持続的な経営体質を模索するバス事業 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。