今年2022年も12月23日(金)~29日(木)に開催される「SoftBank ウインターカップ2022」(令和4年度 第75回全国高等学校バスケットボール選手権大会)。
高校バスケ最大のイベントであるこのウインターカップ開幕を前に、一躍注目度を高めている高校がある。長野県代表の東海大学付属諏訪高校だ。
これまで、同校の最高成績はインターハイ3位、ウインターカップではベスト8だが、今年2022年は優勝候補の一角とも言われる注目ぶり。
その強さの秘訣となっているのが、“諏訪メンタリティ”という考え方だ。
◆選手が自ら考え、選手が自分たちのバスケをつくる
ルーズボールやリバウンド、そして粘り強いディフェンスなど、泥臭いバスケへの姿勢が特徴の“諏訪メンタリティ”。さらにもうひとつ、重要な要素がある。それは、選手たちの「自主性」だ。
「こういう場合はお前が動けばスペースできるんじゃない?」
「こう動いてみる?」
「いいね!」
体育館に飛び交う選手たちの声。
練習では、コーチの指導もあるが、ただ“やらされる”のではなく、自分たちで考え自分たちで話し合い、自分たちのバスケをつくっている。
何か気づいたことがあれば、選手同士すぐに話し合い、指摘もし合う。そこには先輩後輩の遠慮はなく、後輩も先輩へ堂々と意見。時には、マネージャーが練習を止めて檄を飛ばすこともある。
しかもそれが行われるのは、練習後のミーティングなどではなく練習中。ちょっとした隙間で濃い指摘をし合い、選手たち自身で問題や課題を解決している姿があった。
「試合中だともう時間がないじゃないですか。フリースローやタイムアウトのときしかないってなると、自分たちで解決するのが一番早い。先生の戦術に頼って、それで勝つっていうのもいいんですけど、やっぱり自分たちの力でやりたいっていうのが、今年のチームのいいところかなって思います」(石口直キャプテン)
そして、入野貴幸コーチは次のように話す。
「直接私から何でもかんでも指示をするのではなくて、選手に“こう思うんだけれど”というような形で伝え、選手間で話し合う間接教育を手法としては取っています。
近視眼的に、目先の勝ちのことでみれば、答えを与えたほうが多分効果はあると思うんですけれども、学び合いは一生続く。そう考えると、自主自立で自ら気づいて、その中で自分なりの答えにたどり着いてほしいなと思っています」
そんなチームの中心にいるのが、キャプテンの石口直選手(3年生)。“諏訪メンタリティ”の申し子ともいえる、チームのエースだ。
◆「24時間バスケの子。24時間努力の子」キャプテン、石口直
石口選手は、中学校までは全国大会に出ることもなく、最近まではいわゆる“無名”の選手だった。高校入学後もBチームで、ベンチにすら入れない状況もあったという。
そんな石口選手が、現在ではU16・17の日本代表に選出され、そこでキャプテンまで任されるようになった。さらにU16アジア選手権では、全体の2位に入る平均5.2アシストという好記録で大会ベスト5にまで選ばれている。
得意のドライブからキックアウトパス。ディフェンスが来なければジャンプシュート。3ポイントもお手の物で、シュートセンスは抜群だ。しかし、中学生の頃までは、3ポイントはリングの手前に当たっていたという。
石口選手は、なぜ驚きの成長を遂げることが出来たのか? 入野コーチはこれについて端的に「(石口は)24時間バスケの子。24時間努力の子」と話し、さらにこのように語っている。
「彼はBチームでやっていた時期もあり、昨年のインターハイは1回戦でしかプレータイムをもらっていなかったにもかかわらず、毎日コツコツ努力して、自分で24時間をデザインしている。準備の天才です。
そして、努力が全部報われなくても、99%が無駄になってしまうかもしれないとしても、惜しみなく努力できる。そこが本当に“諏訪メンタリティ”の申し子なのだと思います」
石口選手の1日。それは、朝5時から仲間と自主的早朝練習に励み、夜も21時半の点呼前まで練習に明け暮れ、食事中もNBAの動画を見て勉強したり、寮に帰ってもマネージャーと2人でライバル校の動画を見て研究したり…。そんな、本当にバスケ漬けの24時間だ。
「自分は、2年生の前半までほとんど試合に出られなくて、ベンチメンバーに入るのも本当にギリギリの崖っぷちで…。悔しい思いをして、インターハイのときはベンチに入ってたんですけど、大事な試合で1分も出られませんでした。もう本当に悔しくて、そこから自主練習とかスキルトレーニングとか誰よりも残ってやって、誰よりもバスケのことを考えてきました」(石口選手)
こうした努力の継続と、自ら考えて動く自主性の“諏訪メンタリティ”がマッチし、3年生になりようやく花が咲いた。
石口選手は話す。「バスケを知れば知るほど楽しくなるし、バスケを知ろうとするほど、もっと努力をするきっかけになる」。
◆キャプテンとして大事にしている「聞く」姿勢
そして、キャプテンとしてチームを引っ張る石口選手の“人間力”も、東海大諏訪の強さを語るうえでは欠かせない要素だ。
練習を見ていると、熱を帯びてきたところで石口選手を含めた選手同士が強い口調で意見を言い合う場面があった。
そこで石口選手はすかさず、「そうか!俺が悪いな!今度はこうしてみよう!でも、もっとディフェンスを引き寄せていこう!」と素直に謝り、修正を提案していた。
強い口調で指摘されても苛立つようなことはなく、素直に話を聞く。このような対応について、石口選手は次のように話す。
「人の話を聞くというのが、すごく大事だと思っています。言うことよりも、聞くことのほうが大事。自分はキャプテンであるとか日本代表であるとかは関係なく、仲間から言われたことは素直に聞くことが大事です。
熱くなるときもあるんですけど、試合中でも悪いときに感情的にならず、冷静に受け止めてこの後どうするのかっていうのをすぐ考える。そしてすぐ話し合うということが練習中からチームで出来ています」
石口選手の仲間からの意見を“聞く”姿勢は、マネージャーとの関係にも表れている。
石口選手と同じく3年生の屋代和希マネージャー。彼はもともとプレーヤーだったが、大怪我をして練習から長い期間離れ、チームから浮いてしまった時期があったという。
そんなとき、ただひとり変わらぬ態度でずっとそばにいてくれたのが石口選手だった。「直は、バスケが上手い下手は関係なく、普通に接してくれて、横にいてくれた」と屋代マネージャーは振り返る。
そして、1年生の頃から「直には絶対光るものがある」と思っていたという屋代マネージャーは、マネージャーになりたての頃、石口選手にNBAの練習ドリルの映像を見せてワークアウトを一緒にやったり、シューティングに付き合ったり、映像を夜遅くまで見ては勉強し合ったり…。
時には、「ダイエットをしてキレ出してみよう」と食事コントロールをすすめたこともあった。その結果、石口選手は1年生の頃から約10kgもの減量に成功し、現在の高校最高峰レベルのキレが生まれたという。
石口選手は屋代マネージャーの存在について、「自分がこうして活躍できるようになったのは、和希のおかげ。和希がいなかったら、今の自分はいない」と断言している。
ただ、そのような強い味方がいたとしても、チームに髙山鈴琉選手や中川知定真選手など全国区でもすでに有名な選手が同世代にいた中で“Bチーム”や“ベンチ外”でも努力を続けていくことは簡単なことではない。
嫉妬や悔しさはなかったのか? 心が折れることはなかったのか? 石口選手は、次のように話す。
「“なんで自分じゃなくてあいつが!”って思った時点で、負けだと思うんですよ。そう思っているということは、もうベクトルが他の人に向いてしまってるってことじゃないですか。
そうじゃなくて、まず自分にベクトルを向けて、“おれはどうだろうな”っていうことを考えることがやっぱり大事だなと思います。(他人に対して)悔しいというより、自分に対する悔しさというのがすごくありました」
そうして、名前の通りまさに“真っ直ぐ”努力してきた石口直選手にとって、高校最後となる12月のウインターカップ。
「“諏訪メンタリティ”が自分たちの強さだと思うので、そこを見失わず、いま自分ができることを100%しようとすれば、多分力はあるので、絶対日本一になれると思います!」と意気込む石口キャプテン率いる東海大諏訪の躍動から目が離せない。
(取材:青木美詠子)