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映画『パッチギ!LOVE&PEACE』(井筒和幸監督)のヒロイン役で注目を集め、日本生命のCM「笑顔が大好き」篇、『今夜はコの字で』(BSテレ東)、『クロサギ』(TBS系)、映画『窓辺にて』(今泉力哉監督)、映画『母性』(廣木隆一監督)など多くの出演作が続いている中村ゆりさん。

2023年も公開中の映画『嘘八百 なにわ夢の陣』(武正晴監督)をはじめ、2月3日(金)には映画『仕掛人・藤枝梅安』(河毛俊作監督)の公開、2月9日(木)からは舞台『歌うシャイロック』(京都南座)の公演も控え、勢いが止まらない。

 

◆監督も「湯気が出るんじゃないか」というほど興奮状態の現場

2021年、中村さんは戦慄展開の不倫サスペンス『ただ離婚してないだけ』(テレビ東京系)に出演。

中村さんは、北山宏光(Kis-My-Ft2)さん演じる主人公・柿野正隆の妻で小学校教師の雪映役。結婚7年目の2人は、正隆の遊び心の浮気がきっかけで血みどろの最悪の事態に…という展開。

-衝撃的な展開でしたが、最初から知らされていたのですか?-

「はい。お話をいただいたときにはもう12話までざっくりしたものができていました。監督が映画監督なので、台本が揃っていないとやりたくないというこだわりがあって、先々の展開も全部聞いていました。

原作漫画もあるんですけど、漫画とはちょっと変えているんです。あのドラマは本当に出会えて良かったと思っています」

-中村さんは、可憐な人妻から怖いくらいに強い女に変わっていって…。人は変わるものなんだなということがよくわかるドラマでした-

「そうですね。すごく強い女性だなって思います。最初は弱々しいけど、子どもを自分の中に宿し、そのことを確実に思い描いたときのあの執念と強さみたいなものは、やっていておもしろかったです」

-前半と後半ではまったく顔つきも変わっていて驚きました-

「役に取り組むときというのは、こうしようとかああしよう、こう見せたほうがいいかなという感じで組み立てていくじゃないですか。

でも、あの役に関しては、自分の中で途中から邪念がなくなっていったんですね。もうこれしかないみたいなものが全部見つかっていった感じだったので、本当におもしろかったです。

監督も湯気が出るんじゃないかというくらい興奮状態で作品に向かっていて、現場が全員そうだったので、あんなに志気の高い現場に出会えたのはとても幸福なことでしたね」

-見ているほうも、手に汗握って見ていました-

「すごい話ですからね。よくドラマになったなあって思います(笑)」

-ご自分でご覧になっていかがでした?-

「自分では、雪映さんが覚醒してからがすごく好きです(笑)。最初のモヤモヤしているときは、イラッとなるけど、覚醒してからの彼女の強さみたいなのは好きです。あと包丁を振り回してバイオレンスみたいなこともやったので、『どうやって刺してやろうかな』とか。ワクワクしました(笑)」

-包丁を持って追いかけ回しますからね-

「そうなんですよ。私は結構男っぽい作品が好きで、あの作品も結構バイオレンスなので楽しんでいましたね」

-すごい変貌ですよね。最初はさっさと別れちゃえばいいのにと思いましたが-

「そうそう。『この男のどこがいいの?』って思いますけど、あの人があそこまで子どもに執着するというのは、夫への執着もやっぱりすごい愛情深い人だと思うし、ダメな人(男)をサポートしちゃう人なんでしょうね。

でも、あの夫婦関係が、お互いに罪を背負って仲が深まっていくというのが、悲しいけれど物語としてはおもしろいですよね。

北山さんは、若い頃から芸能界でたくさんの経験をされてきたと思います。それがいい形で出せる方なので、一緒にお芝居をしていてとても楽しかったです。しかも回を増すごとにどんどん深く、鋭くなっていきましたよね」

-あのドラマの中では、アイドルじゃなかったですものね-

「本当にそうですよね。私は正直、それまでしばらくの間、役者として若干行き詰まっていたというか、自信の持てない時期があったんですね。でも、仕事が目の前にあるから一生懸命こなしていくという期間がちょっと続いちゃっていたんですけど、『ただ離婚してないだけ』に出会って、また欲が出たというか…。またこういう仕事がしたいなって思うような、あらためて向上心に火がついた作品でした」

-途切れることなく、いろいろな作品に出演されていらっしゃいますね-

「そうは言っていただけますけど、やっぱり自信のない時期がポコポコッと出てくるんですよね。すごく忙しくなると、幸福度が減っていくときがあるんです。

でも、すごくやりがいのある作品に出会えると、『これだ、これだ!もっと頑張ろう』っていう気持ちになるんです。『ただ離婚してないだけ』はそういう作品でした」

2022年の後半は、ドラマ『クロサギ』に謎めいた女・早瀬かの子役で出演し、流暢な中国語と美しいチャイナドレス姿も話題に。

「『中国語が堪能な役だよ』って言われたので、本当に必死に練習しました。日本語にはない発音がいっぱいあるから難しかったです。練習あるのみだったんですけど、スタッフの皆さんが拍手して喜んでくださって、それが励みになりました」

-チャイナドレスも似合って画になっていました-

「ありがとうございます。実際にはあのようなチャイナドレスを着ている人はいないんですけどね(笑)。楽しかったです」

©2023「嘘八百 なにわ夢の陣」製作委員会

※映画『嘘八百 なにわ夢の陣』
公開中
配給:ギャガ
監督:武正晴
出演:中井貴一 佐々木蔵之介 安田章大 中村ゆり 友近 森川葵/笹野高史

◆人気シリーズ映画でミステリアスな美女役に

2023年1月6日(金)には映画『嘘八百 なにわ夢の陣』が公開されたばかり。この映画は、目利き古美術商・小池則夫(中井貴一)と腕の立つ陶芸家・野田佐輔(佐々木蔵之介)のはずが、くすぶり続ける“骨董コンビ”の活躍を描く人気シリーズ第3弾。

今回は、太閤秀吉の縁起モノ「秀吉七品」の中で、唯一所在不明の幻のお宝「鳳凰」という一攫千金のお宝を巡り、騙し合いが…という展開。中村さんは“TAIKOH”と名乗るカリスマ波動アーティスト(安田章大)の財団を仕切る謎の美女・寧々を演じた。

「『普段やらない役をやらない?』ということだったんですけど、台本をいただいたときに、どんな役なのか理解できなくて、一度監督と話さないと簡単に『やります』とは言えないなと思って話す時間を作っていただきました。

武正晴監督は『パッチギ!LOVE&PEACE』のチーフ助監督で、それこそあのときの助監督さんたちは、みんな今立派な監督になっているんですね。

ありがたいことに皆さん、監督になっても声をかけてくださるんですけど、当時の自分を見られているし、あの厳しい現場にいた人たちだから、いまだに妙な緊張感が自分の中にあって(笑)。

武さんにも『難しい役ですね』って言ったら、『絶対大丈夫、大丈夫。できる!』って言ってくださって。役の背景とかもいろいろ聞いたなかで、キャラクターとして何か作っていかなきゃいけないんじゃないかというのがあったんですけど、武さんは『寧々の生い立ちみたいなものをしっかりと考えて、リアリティーのある人間として組み立ててほしい。だから異質であっていいんだ』とおっしゃってくださって。

シリーズ第3弾まで続いているというのもあって、何かお正月っぽい明るさとめでたい感がある中に、ハートウォーミングなお話も入っていて、より豊かな映画になったかなと思います」

©2023「嘘八百 なにわ夢の陣」製作委員会

-劇中の中村さんはミステリアスな雰囲気で、今までのイメージとはまた違いました-

「そうですね。衣装も結構派手ですしね。関西でお金を持っている女の人はあんな感じなのかなって(笑)。ウィッグも衣装も全部監督の意見で、ウィッグは子どもっぽくならないかなってちょっと心配していたんですけど、メイクさんが大人っぽいメイクをしてくださったのでミステリアスな大人という感じになりました」

-クールビューティーという感じで映えていました。凄みもあって-

「出自がとても複雑でサポートしてくれる体制もなかったなかで、一代で成功してあそこまで上り詰めたというのは、やっぱり鉄のような強さがあるんだと思うけど、その一方で脆(もろ)さも片側に絶対あるんだろうなあと思ってやっていました。

波動アーティストと、表向きの印象は怪しげだけど、TAIKOH自身はとても純粋なアーティストじゃないですか。だからサポートする寧々さんとしては、ビジネス面でのしたたかさがないと、あの2人は成功しなかったと思うんですよね」

-撮影はどんな感じだったのですか?-

「15歳まで住んでいた大阪のロケも楽しかったですけど、本当に愉快なおじさんたちが、ずーっと喋りかけてくださって、ものすごくおもしろかったです(笑)。

初日から中井貴一さんと佐々木蔵之介さんと一緒のシーンから始まって、しかも私の長セリフもあったので、めちゃめちゃ緊張していたんですね。

そのときに中井さんが『中村さん、緊張する?』って声をかけてくださって、『めっちゃ緊張します』って言ったら、『僕もいまだに緊張するよ』って、すごい気遣ってくださって。

中井さんは、そういうポイントポイントで誰にでも気遣ってくださる方なので、『真ん中に立つ方というのは、やっぱり人格者が多いなあ』って思いました。

最後の種明かしみたいなところでは、笹野(高史)さんがずっとふざけているのを中井さんがツッコんであげていて、それは見ているだけで楽しかったです。私はシリアスなシーンなのに、ずっとふざけているんですよ(笑)。でも、すごく楽しく、いい現場でした」

(本人提供)愛犬・天ちゃんと

◆癒しの存在は愛犬「毎日家に帰るのが楽しみに」

2023年に女優生活20年を迎えた中村さん。主演作、話題作出演が続いているが、自分では地道に歩んできた感じがするという。

-これまでに辞めたいと思ったことはありますか-

「辞めたいと思ったことはないですけど、ちょっと悲観的になったことはあります。誰だってありますよね。生きていると。いろんな幸せの形があるなかで、仕事ばかりしていると、『いつまで頑張るんだろうなあ』って考えちゃうことはあります。

でも、どの境遇にいてもそれぞれみんな何か抱えている。どんな人にも。だから悲観的になるよりも、今こうして自分に仕事がちゃんとあって、これだけで食べていけているということの貴重さのほうが本当にありがたいですし、自分もここまでよく続けてきたなあっていう思いのほうが大きいです」

-ご家族は中村さんのお仕事に関して何かおっしゃっていますか-

「母は一緒に暮らしているんですけど、私の仕事に興味がなくて(笑)。テレビで『ママ、これ私出てんで』って言うと、『ママは韓国ドラマが見たいから変えて』なんて言っています。

でも、仕事に関しては厳しかったんですよ。『あんたこれチャンスやねんから、ちゃんと行きなさい』とか。でも、全然ミーハーじゃないので楽です。メイクさんがきれいにしてくれた写真を見たりすると、『えらいこれ盛れてるなあ』とか言って喜んでいますけど(笑)。

ただ、『パッチギ!LOVE&PEACE』を初めて観たときは、『あんた、もうちょっと目で芝居せなあかんで』って言ってきて、イラッとしました(笑)」

愛犬家としても知られ、現在はポメラニアンの“天”ちゃんと暮らしている中村さん。インスタにもたびたび登場し、愛らしい姿で人気を集めている。

「溺愛しています。小さい頃から動物が大好きで、初めて犬を飼ったのは小学校1年だったんですけど、『飼ってくれないとご飯を食べない』って言って無理矢理。そこから家族全員が動物にハマッて、とても大事にしています」

-2022年には、真夏の炎天下に犬の散歩をしている人に声かけをしたことがネットニュースになりましたね-

「はい。悪意がなく、ただ炎天下の散歩が犬には危険だということを知らない人が多いんです。だから、相手が嫌な気持ちにならない言葉を選んで『おせっかいで申し訳ないんですけど』って声をかけるようにはしています」

-毎年、炎天下の散歩で肉球を火傷したり、熱中症で死んでしまうワンちゃんが結構多いんですよね-

「そうなんですよ。知らない方が結構多くて、声をかけると『気をつけます』って聞いてくださいました。うちは今の子で5匹目だから、ある程度の知識がありますが、動物は言葉が発せないので、人間がよく調べて観察して守ってあげないとって思います」

-天ちゃんが一番癒してくれる存在ですか?-

「はい。毎日家に帰るのが楽しみですからね。大げさかもしれないけど、命を預かっているし、自由のない子たちを勝手に親元から離して、人間のエゴで飼っているわけじゃないですか。だから、とびきり幸せに過ごさせてあげたいと思って溺愛しています。すごく健気な存在ですからね。みんな大事にしてあげてほしいです」

-2022年はどんな年でした?-

「本当にいいお仕事もたくさんさせていただいてありがたかったです。ただ、年齢なりのホルモンバランスの崩れみたいなものは、リアルにちょっと感じたので、そこはちょっと苦しかったかな。

でも、それも私だけじゃないんだって。年齢の近い女優さんと話したときに、みんな同じだということがわかってからは、サプリメントを試してみたりとか、そういうので乗り越えられたというのもありますし。本当に周りもいい方しかいないし、すごく恵まれていたなあと思います」

-趣味のスキューバダイビングには?-

「沖縄に行く予定だったんですけど、台風と重なっちゃったので、行き先を変えて湖でサップしたりしていました。私にはそういう時間がとても大事なんです。

そういうことが本当に人生の一番の楽しさなので、大人になってからは自分のメンタリティーの維持とかも、きちんと自分ですべきだと思うから、本当に自分が幸福だと思う時間も仕事と同じくらい大事にしたいと思っています」

チャーミングな笑顔が印象的。2023年も2月3日(金)には映画『仕掛人・藤枝梅安』(河毛俊作監督)の公開、2月9日(木)からは舞台『歌うシャイロック』の公演など多忙な日々が続く。美貌と実力を兼ね備えた女優としてさらなる活躍が楽しみ。(津島令子)

ヘアメイク:藤田響子
スタイリスト:道券芳恵