日本の車両盗難は減少傾向にあり、年間5000台程度まで減っているが(それでも多いが…)アメリカはなんと年間100万台もクルマが盗まれている!! しかも最近は古いホンダ車の盗難が増えているという。アメリカの車両盗難事情とホンダ車が狙われる理由を深掘り調査した。
文/加藤久美子、写真/加藤博人
■アメリカでは日本の200倍、クルマが盗まれている
日本における自動車盗難の認知件数は、2003年の6万4,223件をピークに年々減っており、2021年は5,182件とピーク時の1割以下にまで減少している。ちなみに「認知件数」とは被害届が受理された段階での台数で、その後発見された場合も含む。今年(2022年)の自動車盗難は2021年に比べて増加傾向にあり、現在発表されている2022年1-10月の『自動車盗認知件数』によると4750件となっていて、前年同期が4344件なので、406件増えている計算になる。約1割の増加だ。
特に近年は国産旧車スポーツカーの盗難が目立っている。理由は海外でスカイラインやスープラ、FD(RX-7)など1980‐90年代スポーツカーの価値(流通相場価格)が爆上がりしていることが大きく関わっている。
なぜ価値が上がっているか。それは北米における国産旧車人気はもちろんだが、来たる電動車時代に向かって、この先もう二度と生産されることはないであろう「高性能のガソリンエンジン」に世界中で注目が集まっているからだ。それらの高性能ガソリンエンジンを搭載したクルマの価値が急騰するのも、当然と言えば当然だろう。
もちろん、サプライチェーンの問題によって新車の納車に相変わらず時間がかかり、中古車全体の価格が上がっていることもある。
さらに円安の影響も大きい。日本で盗まれたクルマたちは、旧車スポーツカーはもちろん、CANインベーダーなどの最新手口でごっそり盗まれるレクサスやランドクルーザーなど新しめのSUVも、多くが海外に密輸されている。
対するアメリカはどうか。全米保険犯罪局(NICB)の調べによると、2021年の盗難台数は約100万台! 2020年は81万台だったのでプラス20万台という状況となっている。そして2022年は1-9月で74万5,000 台を超える車両が盗難に遭っている。この勢いで行くと2022年は100万台突破が確実だろう。実に日本の200倍近いという恐ろしい数字になっている。
では、そのアメリカではどんなクルマが盗まれているのだろうか。NICBが公表している最新データ「2021年米国で最も盗まれた車両トップ10」をご紹介しよう(表1)。
こうしてみると、トラック系(ピックアップ)とジープ以外はすべて日本車となっている。なかでもホンダは3位シビック、4位アコード、8位CR-Vと、3車種もランクインしている。そしてホンダ車に共通するのは最も多く盗まれた年式がいずれも20年以上前のものということだ。いっぽう、トヨタカローラや日産アルティマは最も多い年式が2020年前後と新しい。
古いホンダ車の盗難が多い、というのはいまに始まったことではない。NICBのデータから2010~2020年に盗まれたクルマのランキングと最も多い年式について紹介しておきたい(表2参照)。
なんと、1-2位はアコードとシビックである。2010‐2020の累計盗難台数は思わず二度見してしまうがアコードは51万3025台、シビックは47万1327台。この2車だけでも100万台近くが盗まれていることになる。
■古いホンダ車が数多く盗まれている理由
過去10年間(2010‐2020)においてアコードとシビックの盗まれやすい年式は、以下のデータが明らかにされている。
・アコード→1994年、1996年、1997年
・シビック→1995年、1998年、2000年
アコードもシビックも1990年代を中心とした年式が数多く盗まれているわけだ。なぜ古いホンダ車が数多く盗まれているのか。これにはいくつか明確な理由がある。
(1)ホンダ車はエンジンをはじめ、車種間での共用パーツが多い
古いホンダ車が盗まれる理由としては、これが最も大きな理由だろう。盗難の多くは「エンジン本体」および「エンジン回りの部品」を転売することを目的としている。窃盗団が狙うのはホンダの「B型エンジン」。1990年代前後のホンダ車にはB型エンジンがアメリカで人気のシビックやインテグラ、CR‐Xやアコードなど複数の車種に同じ型式、同系統のエンジンが搭載されている例も少なくない。
一例をあげてみると、
B16A→インテグラ DA6/8、シビックEF9/EG6/EK4、CR-X EF8等
B16B→シビックTYPE R EK9
B17A→インテグラ北米向けDB2
B20A→アコード/アコードエアロデッキ/ビガー CA3/プレリュード BA1/4/5
B20B→CR-V RD1/2、S-MX RH1/2
B21A→プレリュード (BA7)
上記のように、車種間でパーツを融通しやすいという理由がある。ホンダ車はエンジンに汎用性があるので人気が高い。1車種にしか使えないパーツよりも、複数車種に使えるパーツの方が当然付加価値も高くなり高値で流通される。
海外のホンダ車事情に詳しい技術者も以下のように話してくれた。
「1990年代のシビックはカナダでのEL(日本名ドマーニ,いすゞジェミニ),インテグラSJ,シビックと部品がほぼ同じの車は勿論,プレリュードと共有部品が多岐に渡っています。アコードも三極体制で共有部品も多い一方,独特の部品形状が多かったユーロアコードと共有も見られることが特筆すべき点です。
機関系の部品共有も多い車というと、日産のRB同様にスワップが利くなどの特徴があります。正回転エンジンが主流の中、逆回転だったのもホンダ車(直列5気筒などは除く)ですし、その点流用範囲が限られていますが、実際アコードにプレリュード譲りのH22Aを入れるとかもありました。メーカーレベルでも当たり前のようにやっていたのが1990年代の汎用性の良さであり……犯罪とも関わってくるのかもしれませんね。」
■ホンダ車は耐久性能が高いため、古い個体が多数残っている
部品の共用が多いという理由のほかに、古いホンダ車の盗難が非常に多い理由はほかにもある。
(2)ホンダ車は再販価値高い
アメリカではアコードやシビックの人気には長い歴史があり、中古車になっても信頼性も耐久性も高い。バラして部品単体で売る場合にも高く売れる、という事情がある。また、そもそもこれまで販売されてきた台数が多く車齢20年以上のクルマも多く現存する。アメリカにおけるホンダ車はその耐久性の面においても非常に評価が高く、100万マイル(160万km)を走るホンダ車も少なくない。
2021年には36,000台のアコードが盗まれたが、そのうちの5,000台が1997年モデルだった。
(3)古いクルマは盗みやすい
当然と言えば当然なのだが、1990年代のクルマにはメーカー純正のセキュリティ装置などほとんど存在しない。よほどのマニアでもない限り、古いクルマにアフターマーケットの高級セキュリティ装置を付ける人もそれほど多くはないだろう。ということで、セキュリティと言えばドアロックのみ…という90年代のクルマは窃盗団にとって非常に都合がよい状況がある。
また、アメリカではガレージは所有していても、「家の前の道路にクルマを駐車する」というスタイルもよくみられるため、夜間、人通りが少ない時間帯にわりと簡単に盗まれてしまうのだ。
このような背景から、耐久性の高いホンダ車は新車から20年以上経過しても多数が現役で活躍しており、さらに台数が多く、セキュリティもゆるいので盗みやすい…。そしてエンジン関連をはじめ部品の共有が多いので盗まれる。盗まれた車両はばらされて、パーツとしてジャンクヤードやネットフリマなどに流れていく。発売から20年以上経過し、メーカーからの純正部品供給が困難な状況になった場合でもオーナーにとって純正パーツが安価な価格で手に入るのはありがたいだろうが…。
日本でも、初代シビックタイプRやインテグラなどの盗難が増えつつある。注意喚起の意味も込めて実例を挙げておきたい。写真は筆者の友人M氏のシビックタイプR(EK9)である。2021年春に盗まれて約2か月後、アメリカの日本車専門店J-Spec Auto Sports Inc.で販売されていたことが分かった。
同社のSNSにおいて「日本から到着した、走行距離が少ないシビックタイプRのB16Bエンジンを販売します!」とお知らせを出している。
エンジン番号「B16B 1203718」はまさにM氏が所有していたEK9と同一である。しかし残念なことに、このエンジンも、搭載されていたシートも、M氏の元にいまだ戻ってきていない。
古いホンダ車、とくにタイプR系の高性能エンジン搭載車を所有の方はどうか気を付けて欲しい。海外に出ていくと日本に戻る可能性はほぼゼロだからだ。
【画像ギャラリー】1990年代後半のホンダ車が盗まれまくり!! …すこしわかるのは、この頃のホンダ車カッコいいんですよね…という画像(11枚)画像ギャラリー投稿 日本の200倍ってマジか!?? 年間100万台のクルマが盗まれる米国で特に古いホンダ車が狙われまくる理由 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。