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台湾有事の「最前線」に近い沖縄・石垣島の人々は、昨年から激変し始めた国防論議をどう受け止めているのか。ライターの西牟田靖氏による現地ルポ後編は、尖閣への上陸や漁業活動で知られる仲間均氏の近況を紹介する。港に係留中の船を訪ねると異変が…。

仲間氏が尖閣行きに使ってきた漁船「鶴丸」(2021年11月、撮影筆者)

「中国公船の動きが一変した」

12月16日に「国家安全保障戦略」など3文書が閣議決定され、「反撃能力」保有が明記された。ここでいう反撃能力とは、主に台湾有事を想定して、配備が想定されているトマホークミサイルのことだ。それらが置かれる可能性があるのが、今年春に開設予定の石垣島の陸上自衛隊の駐屯地だ。その基地予定地を訪れるのが、石垣島を訪れた第一の理由だった。

ほかに目的はふたつあった。台湾有事や自衛隊基地建設について語れる識者に話しを聞くこと、尖閣諸島の現状をよく知る方にお会いすることだった。3つ目の、尖閣の現状に関して、会うべき人は1人しかいない。それは中国の公船に接近されながらも尖閣での漁を続けている石垣市議会の議員で漁師でもある、仲間均さんだ。

30年近くに及ぶ、仲間さんの尖閣渡航歴をかいつまんで記してみよう。彼がはじめて尖閣に渡ったのは1995年。前年、市議選で初当選、調査等の目的で諸島を訪れた。これまでに上陸した回数は16回。書類送検された回数は13回、罰金1回(10万円)である。2014年以降、尖閣での漁に専念している仲間さんは中国海警局の公船を毎回見かけている。

昨年6月のSAKISIRUの取材で話を聞いたが、彼ほどつぶさに中国の尖閣侵略の様子をつぶさに観察している人はいるまい。まさに“尖閣諸島の番人”とも言える存在だ。

平成22年(2010年)の衝突事件のあったすこし後ぐらいから中国船が現れるようになりました。その頃は帰るときに追われる程度。領海に入るのをためらっている様子でした。ところが令和元年(2019)5月に行ったときもまだそんな動きでした

ところがだ。その後、中国公船の船の動きは変わった。

令和2年(2020)末に尖閣へ行ったとき、中国公船の動きはそれまでと一変しました。我々の船(鶴丸/9.1トン)を追って、何の躊躇もなく領海侵犯してくるんですよ

中国艦船はどのように躊躇がなかったのか。

午後4時すぎに鶴丸が領海内に入ると、海警局の艦船が現れて躊躇なく領海侵犯して追いかけてきたんです。鶴丸からの距離は200~250メートル。1隻は3000トン級もう1隻は4000トン級でした。それまでなら追いかけてくるにしても、せいぜい帰るときだけだったのに。このときは約7時間追尾されました

領海侵入を繰り返す中国海警局の船舶を監視する日本の海保船(撮影:海上保安庁)

中国公船の意外な行動

そしてその年の2月1日、中国海警法が施行された後、中国公船の動きはさらに大胆になった。

2月なかばに行ったとき、中国艦船の動きはさらにあからさまになりました。発砲こそなかった。だけど、実にしつこかったですよ。尖閣周辺に着くと海警局の艦船が2隻が待ちかまえていて、翌日まで約27時間ずっと追尾されたからね

そして昨年6月18、19日、仲間氏が現場海域での漁とライブ配信に臨んだ。中国側は当然警戒している。

中国公船が2隻、接続水域に待ち構えていました。3000~4000トンクラスの砲台を備えていない船でした。一方、海保の巡視船5隻(180トン型の高速巡視船)が鶴丸を包囲して警護してくれました。あとはそのまわりにPL(1000トン型)が3~4隻いました

5月9日に操業したときは、中国公船に約40メートルまで異常接近され、艦橋にいる乗組員2人によって撮影された。それはウクライナ軍事侵攻下の示威行為だったのかもしれない。ところが今回、全然近づいてこなかったのだ。

ユーチューブでのライブ配信をすると、事前にツイッターで告知をしていましたからね。中国側はライブ配信で撮られるのを警戒したんでしょう。一番近付いてきても500メートルは離れていました

その後、仲間さんは島に行き続けた。一番最近では2022年11月末にも漁のために出掛けたというのだ。

そんな彼に最近の尖閣のようすについて伺おうと思ったのだ。

ところがだ。

西牟田さん、ごめんね。その日は石垣にはいないんだよ

事前に仲間さんに訪問を伝えると、残念ながら予定が合わないことがわかった。

尖閣・魚釣島(内閣官房サイトより)

仲間氏の船に2枚の張り紙が…

前回の記事でも触れた、石垣市議会の長距離射程ミサイル配備反対決議の際、彼は議会を病欠していた。というのも、珍しいことに仲間さんはこのとき体調不良。病院の検査などために島を離れていたのだ。

そこで、彼の所有する漁船、鶴丸を登野城漁港まで見に行った。

差押えの張り紙がされていた「鶴丸」(筆者撮影)

すると、操舵室に入るドアに紙が2枚貼られているではないか。それは船の差し押さえを命じるもので、「船は使ってもいい。ただし紙は剥がさないようにしてください」と記されていた。

これはどういうことだろうか。後日(12月29日)、仲間氏に電話して問い合わせてみた。

すると彼は景気のいい話を始めたのだった。

やっと石垣も動き出しました。尖閣の魚をふるさと納税の返礼品にしようということで動き出したんです。魚はキロ5000円で。八重山漁協と石垣市は一応1万で契約をすると、そこまでもう来たんですよ

次に僕は差し押さえの件について伺った。

ある個人から資金を調達したんです。知人のA氏とともに400万円。金利がついて500万。忙しくて、差し押さえのことを忘れていました。でももう大丈夫。2022年の内には返済するということで、話つけてあります。あとは、資金持っていって渡すだけです。大丈夫です

差し押さえの原因となった直近の借金は12月30日に返済したというが、なぜそんなに赤字が膨らんだのか。

行くたびに赤字だからね。赤字が重なってこうなってしまってるわけよ

クラウドファンディングでも足りず…

仲間氏によると、2泊3日という1回の航海で、毎回、60万円ほどの費用がかかるという。その内訳は燃料代が40万、船長に10万、その他食料や餌代などを含めるとそれぐらいになるらしい。

一昨年おこなったクラウドファンディングで約3200万円集まったはずだが。

クラファン運営会社に42%、返礼品が400万円などもろもろ使って、残ったお金は300万だけでした」というからあっという間に消えたようだ。

最近の漁はどうなのか。

オーストラリアの国営放送に依頼され、11月24日から翌日にかけて、漁に出かけました。今回も、中国海警の公船に鶴丸(9.1トン)が追尾されました。30メートルまで接近してきたのを、海保の巡視船が割って入ってくれました。海警に拿捕をされないようにブロックしてくれたんです

この航海で海警の公船4隻が相次いで領海に侵入、うち1隻は、76ミリという過去最大の機関砲を搭載しているといわれる「海警2204」だった。仲間さんたち3人を乗せた鶴丸は、13時間にわたり海警に追い回された。それは尖閣と石垣島中間線を超えるほどの深追いぶりだったという。

76ミリという過去最大の機関砲の搭載といい、その深追いぶりといい、中国による尖閣侵略は、厳しさの度を増しているのだ。

石垣市が尖閣での設置をめざしている行政標柱(筆者撮影)

仲間さんには確固たるポリシーがある。尖閣海域への同行取材からは一切、ギャラを取らない。だからと言って漁の売り上げは、アカマチなどの高級魚がとれるといっても、毎回60万円もかかる経費を上回るほどではない。

結局、行けば行くほど赤字はかさんでいく。

もう返せないんだよ。行く度に60万かかるからね。だからといって放置しておくわけにもいかない。それで無理をしてもういってるわけですよ。それでもね。国を守るため、尖閣に行き続けることが大事なんだよ。志が同じで、お金を持ってる人が、5000万ぐらい出してくれるなら、八重山漁協所属の船の5隻ぐらいにお願いして、一緒に漁をしてきけるのだけどね…

体を張って、尖閣を中国から守っている仲間さんに、感謝しかない。