クルマ好きなら「ルノー エスパス」という名前を聞いたことがあるはず。40年近い歴史を持つ欧州ミニバンの元祖なのだが、その名車がフルモデルチェンジを果たし、なんとSUVに生まれ変わっちまった! いったいどうしたのエスパス? 姿を変えた最新モデルの情報をお届けしよう。
文/ベストカーWeb編集部、写真/ルノー
■バンといえば商用が当たり前だった時代に登場した革命的クルマ
事の起こりは1970年代末。F1にも参戦していたフランスのマトラが、アメリカの「バンカルチャー」を土台にした新しいファミリーカー「P-23」の構想をルノーに提案したことから始まる。
乗用車のモノコックボディをベースに、多くの人と荷物を運ぶことを想定したそのクルマは、一見商用バンのようでありながら、見晴らしのよい窓と優れた走行性能を備えている点が画期的だった。
結局、ルノーはこのP-23の提案を承認するとともに生産をマトラに委託する。こうして1984年に誕生した欧州初のミニバンが、フランス語で「空間(=espace)」を意味する「エスパス」だ。
初代エスパスはその発想もさることながら、そのモダンなデザインが世界に衝撃を与えた。たとえば日本では、エスパス誕生より早い1982年に日産プレーリーというピープルムーバーが誕生してはいたのだが、1988年に登場した2代目プレーリーはまるで「和製エスパス」とでもいうような造形に生まれ変わる始末。それほどまでにエスパスの魅力は絶大だったといえよう。
■エクストレイルと共通のCMF-CDプラットフォームを採用
以来、約40年に渡り、エスパスは欧州のバカンスカルチャーを支える足として高い人気を誇ってきたわけだが、2023年3月28日、画期的な転換が起きた。6代目として誕生したエスパスが、なんとモノスペースのシルエットを捨て、クロスオーバーSUVへと衣替えしたのだ。
世界的なクロスオーバーSUVの人気を考えれば、その「心変わり」もやむなしとは思うが、初代の近代建築のような造形にしびれたおじさん世代としては、ちと悲しくもある。
そんな新型エスパスの基本骨格は、ルノー・日産・三菱アライアンスが共有するCMF-CDプラットフォーム(第3世代)。つまり日産エクストレイルやルノー・カングー、オーストラルと同じなのだが、プラットフォーム刷新の効果は絶大で、なんと215kgもの軽量化に成功している。
そのルックスはまごうことなきSUVだが、3列シート仕様が存在するためルーフ長が長く、どこかライバルのプジョー5008に似たフォルム(そういえば5008自体がミニバンからSUVへと宗旨替えした先駆けなのであった)。
とはいえ全長は4722mmというから5008(4640mm)より80mmほど長く、2738mmというホイールベースは逆に5008(2840mm)より100mm短い。このあたりの違いは、両車の居住性やプロポーションにも微妙に影を落としているようだ。
■一度も正規輸入されていないのファンがいる異色のクルマ
パワートレインだが、日産のe-POWER……ではなくて、1.2L直3ターボにルノー自家製のフルハイブリッド「E-TECH」を組み合わせたもの。システムの合計出力は200psを誇るが、100kmあたりの燃料消費は4.6Lというから(日本流にいえば21.7km/L)たいしたものだ。その経済性やドグクラッチの制御の巧みさはアルカナでおなじみだから、期待を裏切ることはないだろう。
いっぽう室内に関しては、エスパスが長年培ってきたピープルムーバーとしての知見がしっかり受け継がれているようにみえる。ミニバン時代のような融通無碍な広さはないが、大ぶりなシートや長大なガラスルーフが居心地のいい空間を演出している。さらに3列シートにこだわらず2列シート仕様も用意した点も、ラゲッジの活用といった点でメリットを生んでいるはずだ。
ダッシュボード回りのしつらえは、基本的にルノーのCセグメントSUV「オーストラル」と共通だ。インパネは巨大なディスプレイを2つ組み合わせた衝立のような作りで、ルノーは「Open R」と呼んでいる。2つの合わせた画面の大きさは合計で24.3インチにもなり、自動車用途としては最大級のサイズだという。
一度も正規輸入されていないのに、日本にも多くのファンがいた不思議なクルマ「エスパス」。SUVに変身したとあってはその輸入の可能性は一段と低くなったと言わざるを得ないが、長い歴史を誇るルノーの名車であることに変わりはない。話題の復活を祈りたい。
【画像ギャラリー】7人乗りSUVとしても期待できそうなエスパスの詳細画像!(68枚)画像ギャラリー投稿 日産プレーリーもマネをした? 欧州ミニバンの元祖エスパスが6代目で突如SUVに! は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。