日産「セレナ」に新型が登場し、これでいよいよ国内3大メーカーのミドルクラスミニバンの新型が出そろった。ミドルクラスミニバンは、1996年に初代ステップワゴンによって人気に火がついて以降、ファミリーカーとして人気が定着。メーカーにとってドル箱的なカテゴリであり、各社が力を注いだ主力モデルがしのぎを削っている。
ここ10年ほどは、ステップワゴンが一歩後退し、セレナとノア/ヴォクシーの熾烈なトップ争いが続いている。3大メーカーのミドルクラスミニバンがすべて新型となったいま、はたして勢力図は変わるのか!?? 考察しよう。
編集部注:日産新型セレナはまだ発表のみで発売されておらず、車両価格も未公表でありますが(日産自動車によると「ガソリン車を今冬から、e-POWER車を来春発売」とあり、本誌が販売店に調査したところによると、ガソリン車が2022年12月22日に発売、続いてガソリン4WD車が2023年1月12日に発売、e-POWER車は2023年春頃に発売となる見込み)、なにしろ現在は注文してから納車まで半年以上は当たり前。すこしでも検討する時間を早めるため、勇み足を承知で比較検討してみました。
文:吉川賢一
写真:TOYOTA、NISSAN、HONDA
デザインは、王道のギラギラフェイスを継承したノアヴォクに軍配か
まずはエクステリアデザインに関して。面白いことに、ド派手顔をさらに極めたノア/ヴォクと、初代へ原点回帰しながらもおしゃれな雰囲気となったステップワゴン、そして、先進的イメージが強くなった新型セレナ、と、見事にそれぞれ方向性がばらける結果となった。
ノアは、先代ノアのグリルを継承し、横3本の太いラインに。アルファード程の壮大さはないが、特に、ラインがメッキとなる「S-G」と「S-Z」は、「ライトなギラギラフェイス」という印象だ。リアテールランプ形状を、縦型からL字型に変えたとこで、リアスタイルにアルファードのような壮大さが出たのは良い点だ。一方のヴォクシーは、プレデターやエイリアンのような、生き物が口を開いたようなフェイスに。フロントサイドに付いたウネリ模様は、人によっては苦手かも知れないが、ヴォクシーの強烈な個性を主張する重要な演出となっている。
また、ステップワゴンは、フロントフェイスやボディスタイル、テールランプなど、「原点回帰」したデザインを取り入れながらも、現代風のおしゃれな雰囲気に。新型セレナは、大冒険をせずに、まるでマイチェンのような改修に留めながらも、まとまりとスマートさが感じ取れ、かなり未来的なフロントマスクとなった。
デザインに関しては好みの問題でもあるため、筆者がどうこういえるものでもないが、ミニバンとしての現在の需要に的確に応えているのは、やはりノア/ヴォクシーだろう。ステップワゴンのデザインは、(筆者は悪くないと思うが)武器としては弱い。せめてスパーダ系は、よりギラギラ顔に向かったデザインであってもよかったのではないだろうか。新型セレナは、支持された先代を踏襲しつつ、先進性を増した、というのは、いい流れだと思う。
カテゴリ初のハンズオフ走行ができるセレナ、渋滞時ハンズオフを廉価に実現したノア/ヴォク
先進装備に関しては、ノア/ヴォクシーには、ACCやレーンキープアシストなどのトヨタセーフティセンスを全車標準装備、また、ドライバーが意識を失っても、一定条件のもと、クルマがドライバーの救命・救護の手助けをしてくれる「ドライバー異常時対応システム」も標準搭載となる。
さらに、オプションとなる「トヨタチームメイト」では、渋滞走行中に一定条件化でハンズオフ走行が可能となる「アドバンストドライブ(渋滞時支援)」、ドライバーのウィンカー操作で、周囲の安全確認の上、車線変更を手助けしてくれる「レーンチェンジアシスト」、車外からスマホの操作でクルマが駐車できる「アドバンストパーク(リモート機能付)」など、他メーカーのミドルサイズミニバンが搭載できていない先進支援技術を満載してきた。しかもオプション費用は10万円代という驚異のバリュープライスだ。
ステップワゴンも、ACCやレーンキープアシストを含むホンダセンシングは全車標準装備。渋滞時にステアリング操作をアシストするトラフィックジャムアシストや、歩行者と衝突のおそれがある場合に音とディスプレイ表示で警告、車道方向へのステアリング操作を支援する歩行者事故低減ステアリングなども備わる。ただハンズオフ機能は現時点備わっていない。現在ホンダでは、高速走行中のハンズオフを可能とする次世代のホンダセンシング360を開発中で、ステップワゴンなどの量販車への適用は、2024年以降の採用となるそうだ。
新型セレナは、最上級LUXIONに、プロパイロット2.0を搭載してきた。高速道路上の同一線内で、走行中のハンズオフが可能であり、ナビで目的地を設定し、高速道路の本線に合流するとナビ連動ルートを開始、車線変更をともなう追い越しや分岐なども含めて、ルート上にある高速道路の出口までの車線変更を支援する。
LUXION以外のグレードも、ACC、レーンキープアシストを含むプロパイロット1.0や、360度セーフティアシスト(全方位運転支援システム)は標準搭載。左右の死角や前後の死角にいるクルマも検知し、ドライバーへ通知する。ただしプロパイロット緊急停止支援システム(意識反応が得られない場合に自動停車)やSOSコール(自動で緊急通報)はメーカーオプションでの設定だ。
3モデルの先進装備のうち、最も高度な支援システムは、日産のプロパイロット2.0だ。ただ、搭載グレードの価格も最上級(LUXIONは479万8200円)。価格を考えると、10万円台のオプション価格で渋滞時のハンズオフが可能となるトヨタチームメイトでも十分、と思う人も多いだろう。ステップワゴンには、まだしばらくハンズオフの装備は期待できないため、ハンズオフも含めた先進ドライブを堪能したいという方は、ノア/ヴォクシーかセレナ、ということになる。
走行性能は、燃費重視のノアヴォクか、電動フィーリングの新型セレナか
ノア/ヴォクシーのパワートレインは、2.0L直4ガソリンエンジン(最高出力125kW、最大トルク202Nm)と、1.8Lガソリン+THS IIハイブリッド(72+70(モーター分)kW、142+185(モーター分)Nm)の2種類。WLTCモード燃費は、ガソリンが15.1km/L、ハイブリッドが23.4km/Lだ。
ステップワゴンには、1.5L直4 VTECターボエンジン(最高出力110kW、最大トルク203Nm)と、2.0Lハイブリッドのe:HEV(107+135(モーター分)kW、175+315(モーター分)Nm)の2種類。燃費はガソリンが13.9km/L、ハイブリッドが20.0km/Lだ。新型セレナは、2.0L直4ガソリンエンジン(最高出力110kW、最大トルク200Nm)と、1.4L直列3気筒ガソリンエンジン発電のe-POWER(最高出力120kW/最大トルク315Nm)の2種類。燃費はガソリンが13.4km/L、e-POWERが20.6km/Lだ。なおハイブリッドに4WD(E-Four)があるのは3メーカーのうちトヨタのみとなる。
ガソリン車の比較だと、燃費は交通環境や運転方法で、逆転も大いにありうるほど、わずかな差だが、ハイブリッドの比較では、ノア/ヴォクシーの圧勝。実際の燃費も相当に良い。これは、新規モーター、新規リチウムイオンバッテリー、新規パワーコントローラーと、すべての電動モジュールを刷新した成果であり、他社よりも一枚上手。燃費を重視する方には、ノア/ヴォクシーが答えとなるだろう。
逆に新型セレナのe-POWERは、エンジンで発電したうえで、その電気でモーターを動かして走る、という2段階となるためにロスも大きくなり、直結モードのある他社車よりも厳しい状況だ。ステップワゴンe:HEVは、高速道路ではエンジンとタイヤを直結して走行するモードがあり、理屈上は良いのはずなのだが、カタログ値にはさほど成果が表れていない。
ただ、ドライブフィーリングの面では、常時モーター走行となる新型セレナe-POWERのフィーリングが好ましい。高速走行中は、絶えずエンジンが発電を続けるが、エンジン音はかなり抑えられている。ステップワゴンe:HEVも力強い電動フィーリングだ。一方、ノアヴォクのハイブリッドは、モーター走行をするタイミングもあるのだが、加速した時のエンジン音が、「ガーガー」という音質で、ややチープに聞こえる。ハイブリッド車ときくと、走行中は静かなのを期待してしまうが、走行時の静粛性に関しては、2.0Lガソリン車のほうがはるかに静かでジェントルだった。新型セレナとステップワゴンのガソリン車には、パドルシフトが備わっており、遊び心が残されている点も、ポイントが高い。
王道を攻めたノア/ヴォクが光る!!
3モデルを比較すると、ステップワゴンは主要な先進装備を標準搭載、新型セレナも先進装備を引き上げてきたが、ミドルクラスミニバンに求められる「すべて」を磨いて王道を攻めた新型ノア/ヴォクが一台光っている、というのが現時点の結論だ。
ただし、ミドルクラスミニバンを求める方は、大半が、フロントフェイスを見て判断するという報告もある。新型セレナが登場したいま、国内市場がどう動くのか!?? 今後の動向が非常に楽しみだ。
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