整備士不足が顕在化している現在のクルマ界。滋賀トヨペット株式会社(滋賀県大津市)では、7名のベトナム人自動車整備エンジニアが働いており、その採用理由は新車ディーラーでも自動車整備専門学校からの新卒採用が年々難しくなってきたためだとのことだ。
日本人の整備士不足が問題化するなか、ASEAN諸国出身の整備士を増やしていくことが問題解消に向けた一歩となるのか、また日本は技術研修生に対して厳しいという一部報道もあるが、そのあたりはどうなのか、ASEAN事情に詳しい筆者が分析する。
文/川崎大輔、写真/川崎大輔、AdobeStock(トップ写真=IndiaPix@AdobeStock)
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■人材不足の自動車整備業界
自動車整備業界における人材不足の現状は、少子化や若者の車離れの進展などにより、自動車整備士を目指す若者が10年間で半減。さらに整備士の高齢化がすすんでおり(平均年齢43.8歳で、約2割が55歳以上)、将来のクルマ社会の安全、安心に直結する自動車整備を支える人材不足が顕在化している。
日整連の自動車整備白書によると、日本における認定工場としての自動車整備会社は約9万2000社だが、約5割の整備事業会社で整備士が不足しているというのが実態だ。特に専業の整備会社では人手不足は深刻な課題だ。国内で自動車整備人材の不足が深刻化する中、外国人整備人材の採用が広がってきている。
■なぜ自動車整備会社は、外国人を受け入れたのか?(技能実習)
「日本人の整備士の採用が難しくなってきた」。彌生ヂーゼル工業(細田社長、東京都江戸川区)は外国人を受け入れた理由を語る。
2017年3月に現地ベトナムで技能実習生の面接を行った。細田社長は「最初は言葉の壁がある。わかりやすいようにゆっくり話をしても全部はわからないため、より高度な業務を指導できない」というように日本語を習得するには時間がかかる。定期的に日本の作文を書かせて日本語習得の向上を目指す。
2016年4月1日より外国人技能実習生制度において「自動車整備」が職種に追加された。これによって外国人技能実習生が自動車整備の研修生として日本企業で働くことができるようになった。そのため自動車整備会社で最も知られた活用方法となっている。
2017年の年末頃から、ベトナムやフィリピンからの技能実習生が自動車整備の研修生として日本の自動車整備会社で働き始めた。2017年11月の技能実習法の施行によって、外国人技能自習機構が2018年1月に設立され、新しい技能実習制度がスタートした。
優良な団体や企業を認定し、今まで3年だった研修期間を最長5年間へ延長、日本語習得や技術教育への時間の余裕もでき、今後の活用メリットは広がりそうだ。
■外国人労働者政策の大転換(特定技能)
2017年に技能実習生の滞在期間が3年から5年に延長したが、期間延長による効果の検証もすることなく日本政府は、外国人労働者政策の大転換を行った。新たな在留資格「特定技能」を2019年に設けたのだ。
今まで外国人の単純労働者の受け入れができなかった。そのため技能実習制度を使った事実上の就業が広がっていた。しかし、人手不足が深刻な14業種に対して、真正面から単純労働者に対して5年間の就労を認めた。
特定技能は、技能実習生が移行することを基本形として想定されており、技能実習制度の5年と通算すれば、合計10年間働き続けることができる。日本における労働力の不足がそれほど厳しいということを政府も認めたものだと言え、自動車整備分野でも特定技能の活用が可能となった。
この特定技能制度をいち早く取り入れ、上手にベトナム人を活用している企業が株式会社ガレージフィックス(百万社長、石川県金沢市)だ。
日本で一番最初に特定技能(整備)を得たベトナム人はズオンさんだ。もともと、ガレーフィジックスに在籍していた技能実習生であった。外国人整備士の人材紹介を行う株式会社アセアンカービジネスキャリア(東京都中央区)のサポートで特定技能への移行が実現した。
ガレージフィックスでベトナム人対応をしている新(あたらし)氏は、「ベトナム人の国民性は日本人に近いです。勤勉さ、向上心など、昭和時代の日本と同じような感じがして素晴らしいです。
技能実習3年目が終わったベトナム人は、今まで帰国する必要がありました。ベトナム人が帰るということで日本人フタッフは仕事が回るか不安がっていました。特定技能は転職が可能で少し心配ですが、再び働いてもらえるのはいい制度だと思います」と語る。
さらに「初めての技能実習生の受け入れでは、どのように伝えるかが大変でした。しかし、特定技能の人材がいれば楽です。特定技能までいけば、不自由なく日本語でコミュニケーションが取れます。技能実習生たちを全員取りまとめる立場になっています」と語る。
■新車ディーラーでも積極採用(高度人材)
トヨタモビリティ滋賀株式会社(山中社長、滋賀県大津市)では、技術・人文知識・国際業務(通称、技人国:ぎじんこく)の在留資格を取得できたベトナム人自動車整備エンジニアを10名近く採用している。
技人国ビザは外国人技能実習の実習生ビザや特定技能ビザとは異なる在留資格である。
基本的に大卒資格か日本の国家整備士資格が必要で、高度の専門的知識と技術の裏づけをもつ人材のみに与えられる。就業期間や就業人数の制限も特にない専門的・技術的分野の在留資格となる。
採用理由は、自動車整備専門学校からの日本人の新卒採用者の縮小を補うためだ。
総務部長である小澤氏は「基本的に真面目で、周囲の人間とトラブルを起こすようなことはありません。就労姿勢に積極性があり、日本に馴染もうとする前向きな思いが感じられます。これからも継続して採用していけると思います」。
更に、「技術的には機会ある毎に社内研修を継続するのはもちろん、最終的には、お客様のご要望の聞き取り、整備内容や料金の説明など、お客様と接し偏見を持たれることなくご理解いただけるような能力を身に付けてもらいたい。外国人であっても日本人と同様で甘えることはできません」(小澤氏)。
全国自動車大学校・整備専門学校協会(JAMCA)が行ったアンケート調査によれば、7割の学校が留学生を受け入れている。
自動車整備士専門学校に通う若いベトナム人留学生は「ベトナムの整備学校を出て整備の会社で働いていたけれど、日本の自動車整備の技術は高いので、もっと勉強したくて日本にきました」と語る。
さらに「日本の整備士資格に魅力を感じている学生」が全体の半分近くを占めた。今後、日本で整備エンジニアを目指す外国人は増える可能性が高い。
■安い労働者からパートナーへ
このような外国人の活用は、将来のASEAN自動車市場の活性化に向けて大きな意義を持つ可能性が高い。なぜなら、ASEANにおける日本車メーカーの自動車シェアは8割を超え、市場規模は急成長をしている。各日本車メーカーは獲得すべき巨大な市場として捉えている。
外国人労働者は、安い労働力として活用できるというイメージが先行していた。しかし、自動車整備業界のなかでも、外国人を安い労働者としてではなく共存できるパートナーとして考える必要があるだろう。
日本における人材の不足、グローバル化、激変の日本企業。この時代の課題を解決し、生き残り、そして成長を実現するために、自動車整備業界は外国人の活用にもっと真剣に目を向ける時期ではないだろうか。
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●川崎大輔氏プロフィール
20年前よりアセアンのビジネスに携わる。アセアン各国で駐在後、日本に帰国して大手中古車企業にて海外事業部の立上げに従事。現在、アセアンプラスコンサルティングを立ち上げアセアン進出を計画する自動車アフター企業の支援を行う。また、アセアン人材を日本企業に紹介する会社アセアンカービジネスキャリアも立ち上げ、ASEANと日本の架け橋を作ることを目指す。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。
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