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12月23日(金)より開幕する「SoftBank ウインターカップ2022」(令和4年度 第75回全国高等学校バスケットボール選手権大会)。

高校バスケ冬の風物詩である同大会。今年、この大舞台で3年ぶりの優勝を狙うのは、全国大会優勝9回を誇る強豪・福岡第一高校だ。

ウインターカップ福岡県予選決勝での轟琉維選手

なかでも並々ならぬ思いで大会へ臨むのが、3年生の轟琉維選手。

現在ゲームキャプテンを務めエースとして活躍し、普段はあまり表情を出さずにプレーするクールな轟選手だが、昨年のウインターカップでは人目もはばからず号泣した。

◆「あの悔しさを二度と味わないために」

昨年のウインターカップ準決勝。福岡第一は、新潟県の強豪・帝京長岡高校と大接戦を繰り広げていた。

試合残り40秒。福岡第一が2点差を追う場面(63―61)でシュートを託されたのが、当時2年生の轟選手だ。

トップの位置から1on1を仕掛けゴール下へドライブし、身長203cmの相手選手の前からワンハンドシュートを放ったが、ボールはリングの奥に当たり、リバウンドを取られてしまう。

そして、このリバウンドから帝京長岡は豪快なダンクシュートにつなぎ、とどめを刺した。

「あの悔しさを二度と味わないために」――。轟選手は現在もよく、寮の部屋でこの試合の映像を見ながら課題を見つけているという。

リベンジへの気持ちは練習にも表れており、以前はただ打っていたシュート練習だったが、今では特にディフェンスを意識して試合を想定した動きのあるシュート練習をするようになり、練習量も2倍に。

そんな轟選手については、福岡第一の井手口孝コーチも、「正直、技術や練習が変わったことはないが、去年とは気持ちが違う。おれが勝たせるんだ、という気概が違う」とその覚悟に目を見張る。

U18日清食品トップリーグ決勝での轟選手

轟選手が福岡第一に入学したのは、同校の先輩であり、現在日本代表で活躍中の河村勇輝選手(横浜ビー・コルセアーズ)に憧れたから。

轟選手は、河村選手がつけていた“背番号8”を引き継いでいるが、その強い気概からこうも口にしている。「福岡第一の8番といえば、まだ河村勇輝さんと思われているが、もう勇輝さんの8番じゃなく、轟琉維の8番にしたい」。

◆夏のインターハイ、激闘の決勝

そんな轟選手率いる福岡第一は、今年夏のインターハイでまさに“劇的”な優勝を果たしている。

決勝を戦った相手は、開志国際高校(新潟)。第3クォーター終盤までは開志国際がリードしていたが、轟選手がブザービーターの3ポイントを決め、57―57の同点で第3クォーターが終了するまさに大接戦だった。

そして第4クォーター。互いに一歩も引かない展開で、残り4分30秒の時点で65―65の同点。しかしここから開志国際が猛攻し、72―65と7点差まで一気にリードをひろげる。「開始国際の優勝か…」と会場の多くの人が思い始めるが、福岡第一は諦めていなかった。

残り1分37秒。轟選手が3ポイントでファウルももらい、フリースロー3本を決め、74―72の2点差まで迫る。その後、開志国際に4点差までひろげられるも、終了目前(残り21秒)に2点差までつめる。

そして残り17秒。必死のディフェンスからスティールに成功した福岡第一。ボールを持った轟選手は残り7秒、エンドライン付近の3ポイントエリアで待っていた2年生選手にパスを出すことを選択する。

◆残り5秒の大逆転

待っていたのは、崎濱秀斗選手(2年生)。

U18日清食品トップリーグ決勝での崎濱選手

轟選手とは、昨年のウインターカップで敗退した後、2人で号泣し「来年は絶対勝とう」と誓い合った相手だ。

崎濱選手は先輩である轟選手を「琉維さんは僕のヒーローです。いつもチームを助けてくれる。だから今度は、自分が琉維さんを支えたい」と尊敬し、轟選手も「崎濱はおれより上手い」と信頼している。

左、崎濱選手 右、轟選手

この決勝、自らアタックし、リードされていても諦めずに攻め続けた轟選手。ただ、この日はシュートの調子があまりよくなかった。

しかしながら、2ポイントのアテンプトはじつに26本。この数字はまさに、昨年のウインターカップ準決勝での悔しさからくる「自分のシュートでチームを勝たせたい」という轟選手の強い思いを証明している。

そんな轟選手だが、最後の最後に選んだのは崎濱選手へのパスだった。「崎濱がずっと練習してたのを見てたから」と、轟選手はこのときのことを話している。

U16代表の試合から合流したばかりだった崎濱選手は、このインターハイ、なかなか調子が出なかった。しかし、練習では朝、誰よりも早くきて1人でもくもくとシュート練習をしていた。轟選手はその姿を見ていたのだ。

「琉維さんから完璧なパスでした。ずっと迷惑かけてたから…。決めきる自信があった」――。

そう振り返る崎濱選手は、みごと3ポイントシュートを決めてみせた。試合時間残り5秒、終了間近の大逆転(77―76)により、福岡第一は劇的優勝を果たすことになった。

こうして夏を制し、次は3年ぶりとなる冬の制覇を狙う福岡第一。リベンジへ燃える“背番号8”の躍動に期待せずにはいられない。

(取材:青木美詠子)