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「貧乏人の味方」のこの上ない具現化

軽自動車の歴史を考える時、スズキ・アルトは非常に重要な車種である。スズキというメーカーについて考える時にもとりわけ大事な存在ではあるが、アルトの持つ意味はそれだけにはとどまらない。それだけ、初代アルトが与えた衝撃は大きかった。

【画像80枚】当時モノキットの味わいも残しつつ仕上がったアルトとその制作工程を見る!

スズキの軽自動車としては古くからフロンテがあり、1979年5月に4回目のフルモデルチェンジを行ったのだが、この時に全くのニューモデルとして生まれたのが初代アルトである。フロンテとアルトは基本的には同じもので、4ドア(+グラスハッチ)がフロンテ、3ドア・ハッチバックがアルトであったから、それまでのフロンテ2ドアがアルトと名を変えたもの、と捉えることもできる。しかし、この五代目フロンテと初代アルトには大きな違いがあった。分類上、フロンテが乗用車であるのに対し、アルトは商用車(ライトバン)だったのである。

ただし、アルトは商店での使用などを狙って発売された車種ではなく、想定購買層はあくまでオーナードライバーだった。当時、自動車購入の際には、高額な物品税がかかり、これは軽自動車も例外ではなかったのだが、アルトは商用登録とすることによってこれを回避、ユーザーに安価で軽自動車を提供することに成功したのである。バンであるだけにリアシートは折り畳み式の簡素なものであったが、軽自動車のユーザーには、普段の使用においてフロントシートにのみ乗車している層が多いことを、スズキはあらかじめ把握していたのであった。

安価を実現するための方策はそれだけではなかった。エンジンは、4ストロークも用意していたフロンテに対し2ストロークのみ、グレードは単一、リアサスペンションはシンプルなリーフリジッドと、構造その他の面でもシンプルを極めている。助手席ドアには鍵穴なし、シートはヘッドレスト一体、ラジオはオプション、リアシートの背板にはべニア板を使用など、装備も徹底して簡略化されていたのである。

これらの努力により、アルトは車両本体価格47万円という驚異的な数字を実現。この価格はCMなどでも大々的に謳われたのだが、このように全国統一価格を打ち出したのも、国産車ではアルトが初めてだった。こうして発売されたアルトは狙い通りに大ヒット車種となり、他社からも同様の”軽ボンバン(ボンネットバン)”が続々とデビューすることとなる。物品税の代わりに消費税が導入されて商用登録のメリットがなくなるまで、このジャンルは隆盛を極めたのであった。

初代アルトについて、もう少し詳細を述べておこう。先代までのフロンテはリアにエンジンを積むRRだったが、初代アルト/五代目フロンテはFF機構を採用、前述の通りサスペンションはリアがリーフリジッド、フロントがストラットとなる。エンジンは2ストローク・水冷直列3気筒539ccのT5B型で、最高出力は28ps。最大積載量は200kg、4名乗車の場合は100kgであった。のちに4ストローク・エンジン搭載車やAT仕様、4WDモデルなどを加えつつ、1984年まで生産されている。

エルエスとイマイ、あなたならどちらを選ぶ?
初代アルトのプラモデルは当時、2社から発売されていた。ひとつはイマイで、これは金型がアオシマに移り、今も再販が行われている。もうひとつはエルエスで、こちらの金型はアリイ(現マイクロエース)に移り、パトカー仕様としてのパッケージングでリリースされたが、現在はカタログ落ちしているようだ。いずれもスケールは1/20で、日東のレックス・コンビやミラ・クオーレより以前は、軽自動車のプラモデルは1/20が標準的なスケールであった。

イマイ/アオシマのキットは現在も購入可能だが(注:現在はセルボとのカップリングによる2台入りパッケージとなっている)、ここでお目にかけているのは、エルエスのキットを制作したものである。これは、作例制作時点ではアオシマの再販も途絶えており、入手の難易度においては両者にさほど違いがなかったためでもあるが、イマイ/アオシマよりはエルエスの方がプロポーションが優秀のように思われたことにもよる。イマイ金型のアルトは、Bピラー位置のせいかAピラー角度のせいか、前後サイドウィンドウのバランスに違和感が拭い切れないように思われる。

しかし、エルエスもそのままでは何かしっくり来ない。色々と検討してみると、後輪ホイールアーチが上へ大きく、そのせいでボディが薄く見えるようだ。そこで、作例ではこの点を改修するとともに、ホイールなどのノーマル化にも注力した。電池ボックス/リアシートなど、構造的にはエルエスとイマイで共通する点も少なくないので、現在のアオシマのキットを制作する際にも、この作例は参考になるだろう。工作中の写真に添えたキャプションをじっくりお読み頂きたい。

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