コンパクトカーから軽自動車にいたるまで、新型車には当たり前に装備されるようになってきた電動パーキングブレーキ(以下E-PKB)。Pレンジに入れれば自動でパーキングブレーキまでかけてくれるなど利便性が高く、E-PKB付きのクルマでは「パーキングブレーキをほとんど操作しない」という人も多いだろう。
ならばPレンジと連動させて、E-PKBのスイッチはなくしてしまってもよいのでは? とも思える。めったに操作しないのに、それでもスイッチはなぜ存在するのだろう?
文/吉川賢一、写真/Adobestock(トビラ写真=bizoo_n@Adobestock)、トヨタ、ベストカーWeb編集部
■付けない理由が見つからないほどメリットが多い電動パーキングブレーキ
電動パーキングブレーキ(以下E-PKB)のメリットは、冒頭で挙げた操作力が少なくて済むことや、自動でパーキングブレーキをかけてくれることのほか、スイッチ程度のスペースがあればよいので省スペースで済むため、レイアウトしやすいこと、パーキングブレーキの解除し忘れによるブレーキのトラブルを防ぐことができ、また、ACC(アダプティブクルーズコントロール)との組み合わせで渋滞最後尾での自動停止や自動追従走行再開も可能となる。ホールド機能付きであれば、信号待ちでの足への負担も減る。
手引き式や足踏み式に比べて部品点数が多いため、コストは高くなるが、幅広い車種に採用することである程度コストダウンは見込める。もはやつけない理由が見つからないほど、メリットの多い装備なのだ。
■寒冷地では手動でE-PKBの解除が必要
多くの人にとって、普段ほとんど操作する必要のないE-PKBスイッチだが、寒冷地に住む人にとって、E-PKBスイッチはなくてはならないスイッチ。
極寒の中に止められたクルマでは、ブレーキパッド付近に付着した水分が凍ることで、クルマが動かなくなってしまう可能性があるため、極寒の中にクルマを止める際は、エンジンストップで自動作動するE-PKBを、手動で解除しておかなければならないのだ。
クルマのオーナーズマニュアルには、「寒冷地ではE-PKBを解除しておくよう」記載しているメーカーもある。自動で作動するものをわざわざ手動で解除するとは、面倒で忘れがちな動作ではあるが、寒冷地では必須の装備なのだ。
■クリープ走行をしたいときに不便
もうひとつ、手動で解除したいことがあるのが、クリープ走行をしたいときだ。
こちらはオートブレーキホールド機能がついたE-PKBの場合だが、例えば、交差点での右折待ちで、クリープ走行で前走車へついていきたい場合、車間を詰めて停止するたびにオートブレーキホールドが入ってしまうと、再発進する際にワンテンポ遅れてしまう。
アイドリングストップも煩わしいが、アイドリングストップはブレーキから足を離したり、ステアリングを少し動かすとエンジンが再始動して準備できるので、ブレーキホールドよりはまだまし。
また、立体駐車場などに多い、急な下り坂で車列に並んでいるようなシーンでも、アクセルペダルでブレーキホールドを解除・発進すると、急に前へ動き出してしまう。
ブレーキをゆっくり離しつつ、クリープ走行を使いたいのに、勝手にブレーキホールドが効いてしまうのは、非常に使いにくい。こうしたシーンでは、ブレーキホールドをOFFにするスイッチを押す必要がある。E-PKBとセットで搭載されるブレーキホールドも、場合によってはありがた迷惑となってしまうアイテムの一つなのだ。
■重要度は徐々に下がりつつも、今後もE-PKBスイッチがなくなることはない
このように、E-PKBのスイッチは、重要度は徐々に下がりつつも、今後もE-PKBスイッチがなくなることはないと考えられる。ただ、レイアウトされる位置は、徐々に目立たない(使いにくい)位置へと移動していくだろう。
日産の新型「セレナ」でも、先代セレナではシフトノブの真横という「一等地」にあったE-PKBスイッチが、ステアリングホイール下側という「三等地」ともいえる位置に移動している。ボタンの形式も、現在主流の手引き式の名残を残す指を引っかけて操作するタイプのE-PKBスイッチから、将来的には、より簡素なボタン型スイッチに変わっていくだろう。
【画像ギャラリー】昔はごつい棒だったのに。どんどん小さくなるパーキングブレーキ(5枚)画像ギャラリー
投稿 もうパーキングブレーキのスイッチなくてもいいんじゃね? それでも断固としてスイッチが存在するわけ は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。