12月7〜8日に三重県の鈴鹿サーキットで開催された2022年全日本スーパーフォーミュラ選手権合同/ルーキーテストで38号車と39号車を走らせたINGING MOTORSPORT。実は2日目午前のセッション3でリザルトには反映されていない密かなマシン交換が行われていたので、そのわけを聞いた。
2022年シーズンに引き続き、レギュラードライバーの坪井翔が38号車、阪口晴南が39号車というエントリーリストで鈴鹿合同/ルーキーテストに参加したINGING MOTORSPORT。
テスト2日目は9時から午前セッション3が開始となったのだが、そのスタートと同時に立川祐路監督のTwitterが更新され、『あれ? なんかいつもと違う気がするけど…誰かわかります?』という文章とともにドライバーの乗車した38号車と39号車の画像2枚が投稿された。
その画像に写っているドライバーのヘルメットを見ると、38号車には阪口、39号車には坪井が乗っていることが確認できる。そのままコースインした両者はお互いの車両を入れ替えてセッションの序盤40分ほどを走行していた。
この日はTCS NAKAJIMA RACINGも車両の入れ替えを行っていたのだが、そちらは計時モニターやリザルト上に車両番号に加え“B”表記が加えられていた。しかしINGING MOTORSPORTの場合はそういった変更は行われておらず、サーキットで実際にマシンを確認しなければ分からないほど“ひっそりと”車両の交換が行われていたのだ。
この車両交換について立川監督に話を聞くと、今回のテストでの大きな目的のひとつだとしたうえで、チームとして「38号車と39号車の何が良くて何が悪いのか、2台の明確な違いを把握したかったんです」と答えた。
「2022年シーズンはチーム的にも苦しんだ部分がありました。ですので、今回のテストではドライバーを乗り換えて、お互いの車両の良い部分と悪い部分を見つけ、さらに自分のクルマをセットアップするうえでのヒントを見つけられればいいなと思って車両を交換しました」
2022年シーズンのP.MU/CERUMO・INGINGは、38号車の坪井が第6戦で2位表彰台を獲得したものの、それ以外の最上位は5位、入賞回数は名門チーム+実力派ドライバーらしからぬ10戦中5回に留まった。
また、「特に2022年は39号車の方がクルマのセットアップがうまくいきませんでした」と立川監督が続けるとおり、39号車をドライブする阪口に至っては入賞3回、第4戦での8位が最高位という不本意なシーズンになってしまった。
だが、今回のテストでお互いのマシンを交換した結果、詳しくは言えないものの「かなりはっきりと分かったことがありました」と立川監督が言うほどの結果を得られたようだ。
「39号車に関しては、38号車に対して何が足りていないのかなど、そのあたりはかなり明確にわかったことがあるので、今回の取り組みはすごくプラスになりました」
「この入れ替えで得られた情報をもとに、セッション中にもセットアップ変更を行っています。その結果39号車に関してはかなり良くなっています」
■マシン乗り換えにドライバーふたりも好印象「お互いにすごく有意義な時間」
そんなチームと立川監督の狙いから鈴鹿合同/ルーキーテストでマシンの乗り換えを行ったINGING MOTORSPORT。実際に走行を行った坪井と阪口のドライバーふたりも、この取り組みでかなり得られたモノがあるようだ。
まず2022年シーズンに苦戦を強いられた阪口は、「僕が38号車に乗るだけではなく、坪井選手にも39号車に乗っていただき、フィードバックなどをもう一度照らし合わせることができたので、すごく有意義な走行だったと思います」とマシン乗り換えを振り返った。
「もちろん挙動は両マシンで違いましたけど、逆に言えば僕たちが想定していた違いそのままでした。その部分はポジティブに思っていますし、改善点が見つかったのでセッション3はいいポジションで終えることができました」
いいポジションという言葉どおり、セッション3では1分36秒131で6番手、さらに午後のセッション4では順位こそ9番手だったが、タイムを1分35秒799に縮めた阪口。
「これまでは鈴鹿でかなり苦戦していましたけど、そのなかでは今年一番の感触と言えるくらいクルマがよくなりました。朝のセットアップ変更が活きたのですごく良かったです」と語る表情には自信も感じられた。
一方、普段はチームのエースナンバーでもある38号車をドライブする坪井も今回の乗り換えについて、「いろいろとキャラクターが違う部分も感じましたし、それぞれの良いところと悪いところも感じたので、その部分をお互いにフィードバックし合いました」と振り返った。
「(乗り換えは)テストでしかできないメニューなので、実際に乗り換えてみてそれぞれの個性といいますか、エンジニアの考え方やクルマの使い方という部分で、やはり同じ2台ですけどまったく一緒のセットアップで走っているわけではありません」
「そこで、現状のセットアップがお互いにどういったように感じるかという部分を、お互いに乗り換えることで確認できました」
なお、INGING MOTORSPORTが2時間のセッション3で行った車両の乗り換えは開始から40分ほどで終了し、その後の1時間20分は38号車に坪井、39号車に阪口が乗り込んで再び走行を行っていた。そのときにも乗り換えの恩恵があったという。
「乗り換え後は元の車両に戻りましたけど、乗り換えたときに感じた38号車で良かったこと、39号車で良かったことなどをミックスさせながらセットアップを進めることができたので、お互いにとってすごく有意義な時間になりました」
さらに坪井は今後について「セットアップの面で38号車が得意な部分と39号車の方が得意な部分がありました。そのあたりをいい具合にミックスすることができれば、チーム全体のレベルが上がるいい機会になると思います」と、チームを引っ張るエースらしい言葉を残した。
2022年はチームランキング8位に終わったINGING MOTORSPORT。このマシン乗り換えで得られたデータをもとに、チャンピオンシップ争いに絡んでくることができるのだろうか。2023年シーズンの戦いに注目したい。