株式会社ターンアラウンド研究所
西村健(代表取締役社長)
「欧州は今後3000年謝り続けるべき」。
ベスト8に突入したサッカーワールドカップ・カタール大会ですが、大会前、国際サッカー連盟(FIFA)のインファンティノ会長の発言が国際的に波紋を呼びました。
日本は無関心の人権問題
この意味するところは、「欧州の人間だが、欧州の人間は道徳的な教えを説く前に、3000年にわたりやってきたことについて今後3000年謝り続けるべき」という発言です。
日本は全くと言っていいほどメディアでも騒がれず、関心もないようですが、カタールでの外国人労働者や性的少数者の人権問題がクローズアップあれ、欧州ではサッカーのフィールドにまで影響しているほどです。
ドイツ代表は、同性愛者への賛意を示した虹色のキャプテンマーク「One Love」の腕章を着用予定だったのですが、断念。その代わりに抗議の意味を込めて口を覆うポーズでアピールをしました。ドイツ代表は日本戦の直前にチームで1時間議論をし、GKのノイアー派閥とDFのリュデガー・MFのギュンドアンの派閥で熱く激論したとも言われています。
サッカーに集中できなかったのか、試合に影響してしまいました(日本の勝利)が、それにしても真剣さは称賛に価すると思います。
W杯「人権」に揺れた経緯
カタールでは、スタジアム建設や地下鉄などのインフラ整備において、インドやパキスタン、ネパールからの移民労働者が多数死亡しました。インド、パキスタン、ネパール、バングラデシュ、スリランカからの労働者が2010年から2020年の間に6500人以上が死亡したと言われます。しかもフィリピンやアフリカからの移民はこれにはカウントされず、まだまだ膨大な数の人たちが犠牲になったと見られているのです。
とても熱い・暑い中、建設現場で仕事した結果とも言われていますし、労災認定やそもそもの契約に関する労働法制が整っていなく、酷使されたと状況だとされています。LGBTQ+の「人権」についても問題があります。
これに対して、オーストラリア代表は選手がVTRにて批判。デンマーク代表は第3ユニフォームまで用意(普通はホーム・アウェイの2着)。製作したメーカーのヒュンメルはロゴラインを見えにくくし、人権問題に対する抗議や人権についての議論を生み出そうとまでしたようです。
一方、カタール当局は、こうした問題は徐々に改善していると主張しています。
欧州の言い分もわかります。それが普遍的な価値観ですから。そして、カタールの言い分もわかります。人権は「カタール人」にしか認められていないという民主主義的な価値観で言えば未成熟な社会だからです。欧米の民主社会のように、民主主義的価値観も人権意識も受け入れているとは言えません。イスラム教と言う宗教や文化があり、固有の歴史がカタールにはあります。
国際性・普遍性 VS 地域性・特殊性、この衝突。
それは国内だけでなく、国際社会を覆っています。日本ではどうでしょうか。
日本の人権状況は、過去1年間(会計年度)の児童相談所における児童虐待相談の対応件数は205,044、10万人当たりの人身取引の犠牲者の数が38、10万人当たりの人身取引の犠牲者の数(労働搾取)が6となっています(外務省データ)。
このデータの意味はここでは論じませんが、内閣府の調査で、自分の人権が侵害されたと思ったことがあるか聞いたところ、「ある」と答えた者の割合が15.9%、「ない」と答えた者の割合が84.1%であることは理解した方がいいと思います。
人的資本可視化における人権
日本サッカー協会や代表メンバーのように、ビジネスパーソンは静観しているわけにもいかないところです。指針としているSDGsの本質でもあり、人権や人間の尊厳はグローバル社会のルールであるからです。
今回の人的資本可視化では以下のような開示事項が必要になってくる。
人権面で大事なのは、
- 人権レビュー等の対象となった事業(所)の総数・割合
- 深刻な人権問題の件数
- 差別事例の件数・対応措置
- 児童労働・強制労働に関する説明
と言った項目です。
特に自社での人権もですが、サプライチェーンでの人権への配慮もモニターし、説明責任が求められます。
上記のようなサプライチェーンにおける人権侵害を防止しないといけない、そのために関係しているサプライヤーの状況を把握する必要があるというロジックです。
グローバル企業はこうしたことが求められることは意識した方がいいでしょう。世界的スポーツイベントのスポンサーをしたい場合は特に。