ホンダの“タイプR”といえば、クルマ好きなら誰もが知るスポーツグレードの最高峰。Racingの頭文字をとって名付けられたタイプRはサーキットにそのまま持ち込んでもポテンシャルをいかんなく発揮できるレースのベース車として、これまでに数々の名車を世に送り出してきた。そんなタイプRは、2022年11月に誕生30周年の節目を迎えた。そこで、ここではタイプRの系譜を追うとともに、そのスゴさとは何かを今一度振り返ってみる。
文/FK、写真/ホンダ
タイプRシリーズの礎となった“激辛スペック”を確立したNSX タイプR
タイプRシリーズ最初の一台となったNSX タイプRが発売されたのは1992年11月のこと。当時は最高出力を280psに抑える自主規制が敷かれていたものの、各自動車メーカーはこぞって280psのスポーツモデルをリリースし、まさにパワーウォーズと呼ぶに相応しい様相を呈していた。
そんな混沌とした状況のなかでデビューしたのが、自然吸気でありながら280psの最高出力を実現した3.0リッターV型6気筒DOHC24バルブのVTECエンジンを搭載するNSX タイプRだった。
標準グレードのNSXが発売されてから約2年後に登場したNSX タイプRは、NSXで採用した材料置換による軽量化技術をさらに推し進めただけでなく、レーシングカーのチューニング理論を応用したピュアスポーツモデルとして開発。ホンダのレーシングスピリットがそこかしこに溢れるそのスペックは、世界の名立たるスーパースポーツにも引けを取らない純国産スーパーカーとして今もなお語り継がれている。
NSXは標準グレードでも軽量なオールアルミボディを採用して1350kg(5MT車)という車両重量を実現していたが、タイプRはそこからさらに数十項目に及ぶ軽量化を行って120kgもの重量を軽減。
また、高回転域を多用する走りを身上とするタイプRのエンジンは型式こそ標準グレードと同じC30Aではあるものの、クランクシャフトのバランス精度向上、ピストン&コンロッドの重量精度向上などによって、スムーズかつ力強い加速感も実現していた。
これらのスペックに、コーナリングスピードのみを追求するのではなくクルマとの一体感を高めることでスポーツ走行をいっそう楽しめる高いトラクションと操縦性を両立した足回りの専用チューニングが相まって、NSX タイプRは“乗る人に我慢を強いることのないピュアスポーツカー”に昇華。後にフェラーリやポルシェが追随した、まったく新しいスポーツカーのコンセプトを打ち立てたクルマこそ、何を隠そうNSX タイプRなのだ。
“FF世界最速”の称号に相応しいスペックに萌えるインテグラ タイプR
約1000万円の車両本体価格が設定されていたことから、一般庶民にとっては手が出せなかったNSX タイプR。しかし、1995年10月に発売を開始したインテグラ タイプR(DC2)は、今考えるとバーゲンプライスと言っても過言ではない250万円を下回るプライスで登場。
1993年5月にフルモデルチェンジを行った3代目インテグラ。そのマイナーチェンジが行われた1995年10月にラインナップに加わるかたちとなったタイプRシリーズ第2弾のインテグラ タイプR。運動性能を極限まで追求したNSX タイプRと同様の手法を用いることによってレーシングカーのテイストと圧倒的なドライビングプレジャーを獲得するべく、究極のFFスポーツモデルを目指して開発された。
その最たる特長はエンジンにある。高出力、高トルクとともにドライバーの意志に即応する高回転の伸びとピックアップを重視した1.8リッターDOHC16バルブのタイプ R専用エンジンであるB18Cを新たに開発。
高圧縮比を実現するピストンをはじめ、混合気の流量を拡大する吸排気損失低減、追従性を高めたバルブメカニズム、徹底したフリクションロスの低減、パーツの高精度化、徹底した軽量化といった多岐に渡るメニューを遂行し、自然吸気エンジンとして世界最高峰のリッター当たり111ps(最高出力200ps)を達成。
加えて、高回転特性を活かすクロスレシオのトランスミッション、ロール剛性を強化したハードセッティングサスペンション、パフォーマンスロッドの追加などによるボディ剛性強化、トラクション特性を高めるトルク感応式ヘリカルLSD、15.7:1のクイックステアリングギアレシオなどにより、ドライバーの意志に忠実に反応するダイレクトなステアリングフィールも実現した。
その後、2001年7月に行われたフルモデルチェンジで2代目タイプR(DC5)が登場。VTECに吸気バルブタイミングの位相をエンジン負荷に応じて連続的に制御するVTCを組み合わせることで220psの最高出力と21.0kg・mの最大トルクを実現した2.0リッターDOHC i-VTECエンジンのK20Aを新たに開発。
先代モデルに比べて全幅20mm減と重量2.5kg減の軽量コンパクト化を実現した新開発のクロスレシオ6速マニュアルトランスミッションをはじめ、ブレンボ社との共同開発によるフロントブレーキシステム、レカロ社製フロントバケットシート、MOMO本革巻ステアリングホイールなど装備も充実。2代目はその高い走行性能から“世界最速のFFスポーツ”という称号も与えられていた。
最後のタイプRになってしまうのか? シビックは現行モデル唯一のタイプR
1997年8月に行われた6代目シビックのマイナーチェンジで新たにラインナップに加わったのが初代シビック タイプR(EK9)。
使い勝手が良い身近なクルマとして高い評価を得ていたシビックをベースに、走りの楽しさと運動性能を徹底的に追求した開発手法をNSXとインテグラに続いて投入された3ドアのホットハッチは、インテグラ タイプRを超えるリッター当たり116psを実現したタイプR専用のB16B型1.6リッターDOHC16バルブVTECエンジン(最高出力185ps)を搭載。
タイプRならではの動力性能や操縦性能を実現しながら、スパルタンなテイストと洗練された雰囲気を演出するエクステリア&コクピットデザインも採用。心に高揚をもたらす感覚性能も大きな魅力となった。
車両本体価格も約200万円というリーズナブルな設定だったことから多くの若者に人気を博し、約1万6000台のセールスを記録した。
2001年10月、「Dangan Hot Hatch」のコンセプトのもとにフルモデルチェンジを発表。ホンダとして初めて、英国のHonda of the U.K. Manufacturing(HUM)で生産され日本に輸出した逆輸入車として発売された2代目(EP3)がデビューを果たす。
先代モデルに対して大幅に剛性を高めた新骨格ボディ、シャープなステアリングフィールをもたらすVGR(可変ギヤレシオ)やモータを使って直接アシス卜するEPS(電動パワーステアリング)の採用、さらには操作性向上のために形状・ストローク・操作荷重に至るまで細かいチューニングが施されたインパネシフトなども大きなトピックとなった。
その後、2007年3月にシリーズ初の4ドアモデルとなった3代目(FD2)、2009年11月には2代目に続く逆輸入車として発売された4代目(FN2)、2015年10月にシリーズ初のターボチャージャーを採用した5代目(FK2)、2017年9月にはニュルブルクリンク北コースでの走行テストでFFモデルとしては当時最速となる7分43秒80のラップタイムを記録した6代目(FK8)が登場。
そして、2022年9月に現行シビックのタイプR(FL5)がデビュー。先代モデルの2.0リッターVTEC TURBOエンジンの骨格をベースに、ターボチャージャーの刷新などによって最高出力は330ps、最大トルクは42.8kgf・mにまで向上。また、TYPE R専用データロガーのHonda LogRを車載ナビにアプリとして搭載するなど、新たなドライビングプレジャーの提供を目指した究極のピュアスポーツモデルへと正常進化を果たしている。
ここで紹介したNSX、インテグラ、シビックのタイプRは、いずれもその象徴とも言うべきVTECエンジンが搭載されている。そのエンジンがハイカム領域に突入した際、誰でも体感することができるVTEC特有の加速感と耳をつんざくサウンドが忘れられない……という人は今も決して少なくはない。しかし、そんなタイプRも今ではシビックだけとなってしまった。タイプRの行く末は、果たして?
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投稿 うおぉ! ガソリン臭くて最高だぜ!! 世界のクルマ好きの心を震わせ続けるホンダタイプR列伝 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。