オーストリアに拠点を置く、元WRCドライバーのマンフレッド・ストール率いる技術企業STARD(ストール・アドバンスド・リサーチ・アンド・デベロップメント)は、この2023年より完全電動化を表明し新たにBEVシリーズに生まれ変わるSTCCスカンジナビアン・ツーリングカー選手権にて、公式バッテリーサプライヤーに指名された。
独自開発のEVパワートレインを扱ってきた歴史を持つ同社は、ラリークロス競技向けに自社開発した電動キット『REVelution』を搭載した、R5規定ベースの電動マシン『シトロエンC3 ERX』や、驚異の2000PSを達成した電動コンセプトカー『フォード・プロ・エレクトリック・スーパーバン』を2022年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで披露するなど、精力的な活動を続けている。
とくに前車は、今季2022年より完全電動化を果たしたWorldRX世界ラリークロス選手権に投入するべく、当時より『プロジェクトE』の名称を掲げたパイロット・シリーズを戦うなど順調に計画が進行していた。
しかし現在『シトロエンC3 ERX』は選手権を戦う活動の場を得ておらず。150kWを発生する3モーター構成で総合出力は612PS/1002Nmにも達し、前後アクスルに搭載された2速ギヤボックスを介して240km/hの最高速をマークするEV車両は宙に浮いたまま。
同じく4つの電気モーター、50kWhの液冷バッテリー、そして特注の制御システムを組み込むことで、0-100km/h加速2秒未満という印象的なパフォーマンスを示す『フォード・プロ・エレクトリック・スーパーバン』は、コンセプトカーとしての開発協力に留まるなど、散発的プロジェクトが続いてきた。
そのSTARDは現在、スウェーデンの強豪PWRレーシングが運営する研究開発部門であるEPWR社と協力し、電動モデルによる最初のSTCCシーズンに向け設計される550PSのツーリングカーに、新たなバッテリーシステムを統合する計画を推進している。
■「EPWRとSTARDの革新的な技術は、歴史的な前進を可能にする」とSTCCシリーズCEO
「電動化されたモータースポーツと高性能バッテリーの豊富な経験を持つSTARDは、EPWRと2023年のSTCCから始まる地域のツーリングカーレースを電動化する我々のプロジェクトに最適な企業だ」と語るのは、そのEPWR社で技術主任を務めるヤンネ・リュンベリ。
「我々の協力体制は、バッテリーとそれに接続された技術を中心に展開される。持続可能な方法で世界中の地域のモータースポーツのために、刺激的かつ重要な飛躍を遂げるべく、彼らと前向きで生産的な関係が築けることに自信を持っているよ」
同じくSTARDのファウンダーでありCEOを務めるミハウ・サコヴィチは、同社が「新しいコンセプトに取り組むために選ばれたことに興奮している」と、期待感を示した。
「地域を代表するツーリングカー・シリーズのエキサイティングな電動化に関して、彼らEPWRとの広範な協力を開始できることをうれしく思っている。電動レースカーはモータースポーツの未来であり、我々の経験と技術が印象的なEPWRプロジェクトに貢献できることは間違いない」と続けたサコヴィチ。
「来季2023年STCCのレースウイークで緊密に連携し、現場レベルでの技術サポートを提供できることを、今から楽しみにしている」
すでに『テスラ・モデル3』や『BMW i4』などをベースとしたスタディモデルが披露されているが、それらにはEPWR社製の電動パワートレイン・キットが搭載され、最高出力550PS想定のモーターにより0-100km/hは3秒以下、最高速も300km/hをマークする。そのリヤ駆動キットには800Vの高電圧を利用する45kWhのリチウムイオンバッテリーの搭載が予定され、ケーシングも含めたその供給をSTARDが担う。
引き続きシリーズCEOを務めるミュッケ・ベルンは「これは来シーズンに向け、集中的に取り組んでいるパズルの重要なピースだ」と、プロジェクト進捗への手応えとサプライヤー契約締結に歓迎の意を示した。
「EPWRとSTARDの革新的な技術は、2023年のチャンピオンシップ電動化を掲げるSTCCにとって、歴史的な前進を可能にする。STCCの歴史の中で最も重要なシーズンである2023年に向け、彼らと緊密に連携できることを楽しみにしている」