2022年の新たなF1規則により、各チームはシーズンに最低2回、F1昇格を狙うドライバーを金曜プラクティスで起用することを義務付けられた。これは、テストの機会が非常に限られる状況のなかで、若手ドライバーにF1マシンに乗るチャンスを与えるために、F1が導入した規定だ。FP1ドライバーとして選ばれた彼らはどのようなキャリアをたどってきたのか、そしてFP1で実際にどういう走りを見せたのかを、F1ジャーナリストのクリス・メッドランド氏がレポート、各チームが最も期待をかけている若手ドライバーの将来性を探る。シーズン前半に紹介したニック・デ・フリースとユーリ・ビップスに続く第3回は、第19戦アメリカGPと第22戦アブダビGPにフェラーリからFP1に出場したロバート・シュワルツマンに焦点を当てた。
───────────────────────────────────
フェラーリF1は、すべてのドライバーにとって憧れの的であり、いつかはそのマシンに乗りたいと誰もが夢見ている。スクーデリアからFP1走行の機会を与えられたルーキードライバーは、それを大きな特権だと感じるはずだ。だが、ロバート・シュワルツマンは、今のところ、2022年のこの仕事が今後のキャリアの発展につながってはいないという意味で、完全には満足していないはずだ。
23歳のシュワルツマンはイスラエル生まれでロシア国籍を持ち、2021年まではロシア国籍でレース活動を行ってきた。しかし2022年のロシアによるウクライナ侵攻により、FIAがロシア人ドライバーに対し、中立の立場でFIA旗の下で競技に参加することを求めたため、シュワルツマンは、アメリカGPのFP1にはイスラエル国籍で、アブダビGPでは“承認された中立ドライバー”として出場した。
長年にわたり、シュワルツマンは、フェラーリの若手ドライバープログラムにおけるスターのひとりだった。2019年にはFIA F3選手権に参戦してタイトルを獲得。有望な若手ドライバーとしてみなされるようになった。2020年にはFIA F2に昇格し、同じくフェラーリ傘下のミック・シューマッハーと共にプレマ・レーシングで走ることに。この年は、F2参戦2年目のシューマッハーがタイトルを獲得、翌年のハースF1のシートをつかんだ。対するシュワルツマンの2020年の成績はランキング4位だった。
2021年には、新たなチームメイトとしてオスカー・ピアストリを迎えた。シュワルツマンはランキング2位に成績を上げたものの、ルーキーのピアストリに敗れる結果になった。ピアストリは参戦1年目にチャンピオンになったのだ。
F2でポールポジション経験がないことから、シュワルツマンは、F1昇格を狙うライバルたちと比べて、1ラップの速さがわずかながら足りないように思われる。
■フェラーリF1テストドライバーの座を得るも、レースから遠ざかり、アピールの機会が減少
2022年にF1に昇格するチャンスはなかったが、2021年アブダビでのヤングドライバーテストでスクーデリアとハースの両方で走った後、シュワルツマンは、フェラーリの2022年テストドライバーに任命された。
この年、チームはシーズンに2回、ルーキーをFP1で走らせなければならないという規則が導入され、フェラーリはシュワルツマンの起用を希望した。しかし実際に彼が走る機会が与えられるまでには時間がかかった。まず、ロシア国籍のドライバーが走るためにはFIAからの承認が必要だったし、さらに今年のフェラーリはタイトルをかけて重要な戦いに臨んでいたからだ。
レッドブルとメルセデスは、サマーブレイク前にルーキーを1回FP1で走らせたが、フェラーリはシュワルツマンの起用を大幅に遅らせ、最初に彼が走ったのは10月の第19戦アメリカGPだった。シュワルツマンは事前に2021年型マシンに乗る機会はあったものの、実際にオースティンで走った彼は、自分の腕が少し錆びついていたと認めた。
「正直言って、最高の経験だった」とシュワルツマンは語った。
「素晴らしかったけれど、大変でもあった。実際にマシンに乗るのは久しぶりだったんだ。今年の僕の仕事のほとんどがシミュレーターでの作業だから、コース上をマシンで走る感覚を身体が忘れてしまう。本物のバンプやGフォースといったものを経験するのがとても新鮮な感じなんだ」
アメリカGPのFP1では、シュワルツマンのタイムは、チームメイトのカルロス・サインツが記録したセッション最速タイムとは約2秒差だった。ちなみにサインツは翌日、ポールポジションを獲得している。タイムは大きく離れていたものの、シュワルツマンは、最新型マシンについて学習するという意味で、まずまずのFP1デビューを果たした。
約1カ月後のアブダビGPで、シュワルツマンはアメリカでの経験を役立てて、より優れたパフォーマンスを見せた。このセッションで3番手のシャルル・ルクレールとの差は0.6秒。ふたりともソフトタイヤ2セットを使い、シュワルツマンは最初のソフトセットを空力テストのために使った。
この時のパフォーマンスは、シュワルツマンは速いドライバーであると判断する材料になるだろう。ただ、フェラーリが彼のためにどこかのF1チームのシートを積極的に探し始めるかというと、そこまでの説得力はない。さらに、シューマッハーも、ハース残留を果たせず、2023年のレギュラーシートを失ってしまっている。
シュワルツマンはアブダビテストで良いペースを見せて、強い印象を与えた。彼自身、自分の存在をアピールし、自分はチャンスを与える価値があるドライバーであることを人々に思い出してほしかったと語っている。
シュワルツマンは、2023年にもF1レギュラーシートを獲得できなかった。F1参戦という目標において明るい兆しは見えないものの、それでもフェラーリのテストドライバーという立場を得ていることは悪いことではなく、そこからどのようなキャリアを築いていくのか、注目していきたい。