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<p>写実絵画のトップランナーと目されながら、脱却を続ける諏訪敦の個展が府中市美術館にて開催中|Pen Online</p><p>【新着】写実絵画のトップランナーと目されながら、脱却を続ける諏訪敦の個展が府中市美術館にて開催中</p><p>1967年に生まれ、緻密で再現性の高い画風で知られる画家の諏訪敦。「視ること、そして現すこと」を問い続け、絵画制作における認識の意味を拡張しようとする諏訪は、ひとつの作品の制作期間がのべ数年にも及ぶこ…</p><p>諏訪敦『Mimesis』 2022年 作家蔵 模倣を意味する「ミメーシス」。大野一雄の踊りを記録映像などを頼りにコピーするパフォーマーの川口隆夫をモデルにしている。画面では川口の踊るすがたがいくつもの腕にて複層的に描かれ、時間を超えて受け継がれる表現が重なる様子を見ることができる。 1967年に生まれ、緻密で再現性の高い画風で知られる画家の諏訪敦。「視ること、そして現すこと」を問い続け、絵画制作における認識の意味を拡張しようとする諏訪は、ひとつの作品の制作期間がのべ数年にも及ぶことがあるほど、対象をインタビューや文献資料などで丹念に取材。そして眼では捉えきれない題材に肉薄すると、新たな視覚像として絵画に提示してきた。写実絵画のトップランナーと目されながら、「実在する対象を、眼に映るとおりに写す」という写実性から脱却する試みを続けている。 諏訪敦『HARBIN 1945 WINTER』 2015〜16年 広島市現代美術館蔵 第二次世界大戦の終結直後、哈爾浜(ハルビン)の難民収容所にてチフスにより病没した祖母をモデルとしている。まず祖母の年齢や体型に近いモデルによって横たわる裸婦像を制作。その後にチフスの症状に合わせて痩せ細らせ、朽ち衰えたすがたへと描き改めていった。 現在、府中市美術館では、公立美術館としては11年ぶりの個展となる『諏訪敦「眼窩裏の火事」』が開かれている。ここでは終戦直後の満州で病没した祖母をテーマにしたプロジェクト「棄民」をはじめ、コロナ禍の中で取り組んだ静物画、さらには最初期より手がけてきた舞踏家の大野一雄を描いた絵画などが紹介されている。またグラフ用紙に描かれたデッサンや取材資料、そして作家初の立体作品も展示されていて、諏訪の思索や制作のプロセスから新たな取り組みを知ることができる内容だ。静物画が台上に置かれた博物館の標本室を思わせる展示室から、左右に肖像画の並んだ通路を経て、最新作『Mimesis』の展示された白く明るいスペースへと続く、厳かながらもドラマチックに展開する空間構成も魅力といえる。 諏訪敦『目の中の火事』 2020年 東屋蔵 2019年、工芸品の企画や販売などを手がける「東屋」より、現代の自社のガラス器を17〜18世紀のヨーロッパ製のガラス器と描いて欲しいという依頼を受けた諏訪。左側の色のやや濃いグラスが、古いガラス器だ。 タイトルの「眼窩裏(がんかうら)の火事」とは、一体、何を意味するのだろうか。注目したいのが『目の中の火事』と題する一枚の静物画だ。そこにはアンティークと現代のワイングラスなどが描かれているが、ちょうど画面の中央にて白い靄のような光が揺らいでいることが見てとれる。これは閃輝暗点(せんきあんてん)という血流の異常に関係する症状で、近年諏訪は視野の中心が溶けたり、突然現れる脈打つような強烈な光に悩まされてきたという。つまり実在しない光や揺らめきでありながらも、眼窩の裏側の脳内に現れたリアルともいえ、その描写から写実を問い直そうとする諏訪のスタンスも垣間見ることができる。 諏訪敦『Solaris』 2017〜21年 作家蔵 旧ソ連の映画監督タルコフスキーの『惑星ソラリス』に因んで名付けられた作品。映画には主人公の亡き妻が登場するも、惑星を覆う海が人の記憶を読んで再生した幻影として描かれる。その記憶を読み解いて図像として示すエピソードが、諏訪の制作と重なるという。 諏訪敦『大野一雄立像』 1999年 / 2022年 作家蔵 1999年、30歳過ぎの諏訪が、当時90歳を超えていた大野に取材を申し込んで描いた作品。その後も取材や制作を続け、今回の展覧会への出展に際してもさらに筆が加えられた。 膨大で綿密な取材を行い、描こうとするものの把握に努める諏訪は、取材が進展して認識が更新されると、一度発表した作品でも画面を改めていく。そして途切れることなく肖像画の依頼を受けるなかで、制作途上の作品も多く生まれ、ときには像主を死によって失うことも少なくない。そこで諏訪がたどり着いたのは「描き続ける限り、その人が立ち去ることはない。」という確信だった。諏訪の肖像画を見ていると、不在であるはずの像主が召喚されて目の前に現れ、薄いガラス一枚を隔ててあたかも実際に対面している時のような緊張感にとらわれる。「像主がどのように生き、時を過ごしてきたのか?」と物静かに語り出し、人の気高さ、また尊厳までが滲み出す諏訪の渾身の絵画と府中市美術館にてじっくりと向き合いたい。 Photo Gallery</p>