欧州連合(EU)と欧州議会は2022年10月27日、2035年にガソリン車など内燃機関車の販売を事実上禁止することに合意した。2035年に欧州域内で新車販売する乗用車と小型商用車は、EVと燃料電池車(FCV)のみとなり、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車は販売できなくなる。
ここでは、欧州が急速にEV化を推し進めている理由に迫るとともに、このEVシフトに日本メーカーはどのように対応していくのか、モータージャーナリストの桃田健史氏が解説する。
本文/桃田健史、写真/TOYOTA、ベストカーWeb編集部
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■EUは2035年にはEVとFCVのみに
「EUで2035年、EV義務化」。2022年10月中旬、ネットや新聞で大きく取り上げられた。
これは、欧州連合(EU)と欧州議会が、2021年7月に欧州委員会が提案した環境対応法案を合意したことを受けての報道である。
欧州では環境政策として、欧州グリーンディール政策を打ち出しているが、そのなかで産業界のCO2排出量に関する「フィット・フォー・55」と呼ばれる法案がある。
さらに「フィット・フォー・55」の一環で、乗用車と小型商用車のCO2排出規制案があるのだ。
それによると、乗用車は2030年に2021年比で55%減、また小型商用車は同50%減。
さらに2035年には乗用車も小型商用車も2021年比で100%減となっている。
つまり、2035年に欧州域内で新車販売する乗用車と小型商用車は事実上、EVまたは燃料電池車(FCV)のみとなる解釈だ。日本車が得意とするハイブリッド車やプラグインハイブリッド車は含まれないことになる。
ちなみに、欧州委員会によると、2020年の欧州市場でのEVとFCVを合算したシェアは10.5%であるため、2035年までの残り13年間でEVのシェアが急激に上昇することになるのだろうか?
■本当に、EUで2035年EV義務化できる?
ここで、あえて「なるのだろうか?」と筆者が表現した背景には、欧州各国が各々の国内法として環境車に対してどのような決断を下すのかが、まだはっきりと見えていないからだ。
EU内の国や地域では当然、社会事情も大きく違う。所得階層の構成も違うし、充電インフラ整備拡張の速度も違う。それを一律、EUまとめて一気にEVシフトし、現行のガソリン車やハイブリッド車を段階的に大量廃棄することが、「果たして環境にやさしいことなのか?」という疑問も持つ人はEU域内に大勢いるはずだ。
なぜ、そうしたユーザーの立場と法規制とのバランスが大きく崩れているかというと、一連の法規制は株式市場を巻き込んだ投資に係る経済政策がきっかけだからだ。
■EUが一気にEV化を進める理由とは
これをESG投資という。従来の財務情報だけではなく、E(エンバイロンメント:環境)、S(ソーシャル:社会性)、そしてG(ガバナンス:企業統治)を重視した投資を指す。SDGs(国連の持続可能な開発目標)とも深く関係し、2010年代後半からESG投資の大嵐がグローバルで吹き荒れた。
このような環境関連の投資と経済対策が、まさかここまで急激に進むとは、日系メーカーはもとより、欧州メーカーですら正確には予測できなかったはずだ。
そうしたなか、まずは欧州プレミアムブランドの一部がEV専用ブランドへの転身を図ることを表明している。
アウディが2026年までに、そして長らく世界の自動車産業界(及び自動車関連技術)をけん引してきたメルセデスベンツは「市場環境が整えば、2029年までにグローバルで新モデルをすべてEV化する」という事業方針を打ち出しているところだ。
■日本メーカーはどうする?
当然、欧州でのEVシフトの嵐は、日本メーカーの経営にも大きな影響を与えている。
欧州自動車工業会によると、欧州内での日本車シェアはトヨタ6.3%、日産1.8%、マツダ1.3%、三菱0.7%、ホンダ0.4%という状況だ。各社とも、2035年を最終目標とするというより、まずは足元の数年先の対応に苦慮している模様だ。
むろん、EVシフトを含めた電動車対応では、日系メーカー各社にとって欧州市場よりも製造・販売台数が多い中国やアメリカの動向も睨む必要がある。
特にアメリカでは、2021年7月のバイデン大統領による「2035年までに新車50%以上を電動化」という大統領令と、2022年8月に具体案が公表された「IRA」(インフラ抑制策)の影響が極めて大きいと指摘する日系メーカー幹部が少なくない。
こうしたグローバルで複雑に絡み合うEVシフトに対して、日系大手3社の対応を俯瞰(ふかん)してみよう。
■日系大手3社のEVシフトへの対応は?
まず、トヨタは2030年までにトヨタ全販売数の1/3相当となる350万台をEV化するとしている。一部報道では、この動きをトヨタがさらに加速させようとしている、と言われている。
この報道の信用度に関わらず、トヨタとしても世界のEVシフトの変動幅が大きい現状では、EV関連での事実上のトヨタアライアンス(ダイハツ、スバル、マツダ、スズキ)とのEVブランド戦略のすみ分けを模索していると考えるのが自然だろう。
ホンダは、そもそも一匹オオカミだが、唯一の友好的パートナーであるゼネラルモーターズ(GM)との連携で、ホンダ主力市場のアメリカをまずは抑えに入る。また、中国では当面、中国でのNEV(新エネルギー車)政策への対応で中期的な様子見といったところ。その後、2040年にグローバルでEV及びFCV100%を目指すが、その道筋はまだはっきりと見えてきていない。
日産は現時点で、ルノーとの資本関係の変化のなかで中長期的なEV関連投資を模索している状況だ。当面は、e-POWERのグローバル展開で食つなぐが、2010年代のEVシフトを先導した知見をもとに、無理な事業戦略は描かないと見込まれる。
いずれにしても、欧州基点で急加速しているEVシフトの行方は、大筋では先ゆき不透明であり、そのなかで日系メーカー各社が”もがいている”状況である。
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