2022年11月11日、スバルがREX(レックス)の名を復活させた。30年ぶりに小型SUVのOEMモデルとしてREXの名が復活したわけだが、このタイミングでスバルがOEM車を発表してきたことにも驚いている。
OEM(Original Equipment Manufacturing 〈Manufacturer〉)は今や、世界の自動車メーカーの中で、当たり前の施策だ。トヨタ・ダイハツ・スバル、日産と三菱、スズキとマツダなど、国内メーカー同士はもちろん、国境を越えて海外のメーカーとOEMを行うことも珍しくなくなった。
OEM車の存在は当たり前になったが、販売現場(ディーラー)や営業マンにとっては、どのようなメリット・デメリットがあるのだろうか。OEMの開発・販売事情を解説していく。
文/佐々木亘、写真/TOYOTA、SUBARU
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理解が難しい? OEMのメリットとデメリット
OEMとは、簡単に意味を通せば、「他社ブランドの製品を製造すること」となる。クルマに限らず、製品のブランドは違うが、中身はほとんど同じという商品は世の中に多い。私たちは知らず知らずのうちにさまざまなところでOEM製品を使っているのだ。
OEM製品の利点はいくつかあるが、最も大きいのは、開発の手間を省くことができるという点。例えば、トヨタがダイハツに「コンパクトだけど室内が広いクルマが欲しい」と、コンパクトカーの得意なダイハツが商品開発を依頼する。この間、トヨタは別のクルマの開発を行うことができ、商品開発の手間が大幅に減らせるのだ。
加えて、開発した商品は相手先の向上へ製造を依頼する。製造台数が大幅に増えることで、開発側のメーカーには大きな利益が入り、依頼側も自社の設備を稼働させることなく商品ラインナップを増やすことができるのだ。OEMは製造・販売効率を大幅に高めることができる仕組みである。
近年、「OEM」と「共同開発車」という2つの名称が存在する。トヨタでいえば、ルーミーはOEM、ライズは共同開発車と発表されている。スバル・レックスはOEMだ。
単純なOEM供給であれば、そのメリットは、先に挙げた開発・生産コストの低減にほかならない。自社ラインナップの穴を見つけ、新たなクルマを一から作ろうとしたら、膨大なお金がかかってしまうのだ。
しかし、既に完成していて人気が確定しているクルマをOEM供給してもらうことで、自社ラインナップの大きな補強となる。そして補強にかかるコストは、非常に小さなものとなる。いっぽう、共同開発車では、製品提供を受ける側だけでなく、製造を請け負う側のメリットも多い。
OEM(共同開発も含む)受託の場合には、製品の仕様書や資材などが依頼主から受託企業へ提供される。
この仕様書には、依頼主が行っているコストカットの具体的な方法や、製造技術などが書かれており、受託企業側は重要な情報を無償で受け取ることができるのだ。また、技術指導などが行われることもあり、受託側のレベルアップとなるものも多い。
自動車業界のOEMは、協業・傘下の関係で行われることがほとんど。そのため、お金や技術面でのデメリットは、非常に小さく抑えられている。
販売店はOEMで得するのか損するのか
OEMでは、ディーラーが受ける経済的なメリットやデメリットについても考えていかなければならない。
OEM車は、開発元メーカーが販売をスタートしてから、一定期間経過後に他メーカーで販売がスタートする。REXも、ロッキーやライズの登場(2019年11月)から約3年経過後の登場だ。
既に、ダイハツ・トヨタは開発費回収を済ませており、製造元のダイハツ側からスバルがREXを買い受ける際の購入費に、開発費が上乗せされている可能性は低い。ダイハツは純粋に、製造して売り渡すときの利益だけを上乗せし、スバルがREXの仕入れ時にその利益分を支払っているだけだ。
こうして仕入れたREXを、全国のスバルディーラーはスバルから仕入れる。このとき、ダイハツから購入した価格に、スバルの利益を乗せてディーラーへ販売するわけだが、メーカーの連結子会社となるディーラーが多いスバルでは、それほど大きな利益は乗せないだろう。ディーラー販売時の利益は、スバルが開発・生産したクルマとほとんど変わらないはずである。
自社ラインナップの穴を埋めるのがOEMの存在。特に、今回のような大人気車であるロッキー・ライズのOEMを手に入れたことは、スバルディーラーにとって、販売拡大への大きな足掛かりとなる。
多少薄利にはなるが、その分を販売台数でカバーすれば、大きな利益は出る。OEMでも売れば売っただけ儲かるから、メーカー・ディーラーともに大きな損はない。
(編注:販売店にとっては、OEM車だからといってメーカーからの仕入れ価格が高くなるということはなく、自社銘柄車と同等程度の利幅になるという(もちろん利益に関しては、開発元メーカーとの違いはケースバイケースではあるが)。また、販売台数のボリュームは、販売会社とメーカーの年間契約によって、変更される場合もある)
営業マンはOEMにより拡大する販路を上手く使え!
自動車販売現場では一時期、OEMであることを隠しながら販売を行う営業マンが多かったように思う。OEMに対するイメージが悪く、他社で作ったもののバッヂを変えただけのクルマと思われていたからだ。
しかし、現在は他社製造であることを隠す営業マンは減っている。例えばトヨタディーラーへ行くと、ルーミーについて、こんな声が聞こえてきた。
「ルーミーは、ダイハツさんで作っていただいている良いクルマです。こうした良いクルマを、トヨタを長く使っていただいている○○様に紹介できるのは、営業マンとしても嬉しい限りです。」
営業マンがOEMに対して充分な理解を深め、自社製品以上に勉強している証であろう。OEMや共同開発車を上手く使っていけば、ディーラーの販路拡大につながることを理解している。
既にユーザーの取り合いになっている日本の自動車市場。上限の決まったユーザーを出来るだけ多く自社に振り向かせるためには、人気車のOEMほどいい材料はない。OEM車は、利益と客層の広がりをディーラーにもたらすのだ。
近年の人気モデルを上手く使った各社のOEM戦略は、利点が非常に多い。OEMでディーラーも儲かり、営業マンは販売台数を伸ばす。コロナで販売に苦戦するディーラーにとって、OEM車は救世主になるかもしれない。
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投稿 急増中!! でも他メーカー車を売って儲かるの…? 販売店の救世主となるかOEM販売の本音と実情 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。