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ついにN-BOXが敗れる時が来た? タントが売れた理由と弱点とは

 10月、11月の軽自動車販売台数を見ると、10月3日にマイナーチェンジしたタントは、発売1ヵ月の受注台数は5万台を超え、10月は軽販売NO.1のN-BOXの1万6369台に対してタントは1万4981台と1388台差に迫った。11月においても1位のN-BOXが1万7474台に対し、タントは1万4998台と2476台差で2位となった。

 マイナーチェンジによってタントは息を吹き返したといえる。売れた理由は追加したファンクロスやオラオラ顔が増したカスタムの人気によるものなのだろうか、モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。

文/渡辺陽一郎
写真/ベストカーWeb編集部、ダイハツ、ホンダ

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■もうすぐNO.1の座陥落!? 王者N-BOXピンチ!!

近年では販売台数首位が定位置だったホンダ N-BOX。王座陥落の危機を迎えている

 2021年の国内販売1位は、1ヵ月平均で約1万7700台を登録したトヨタヤリスシリーズだった。ただしこの台数は、ヤリス/ヤリスクロス/GRヤリスを合計したものだ。それぞれ異なる車種だから、登録台数を別々に算出すると、1ヵ月平均の売れ行きはヤリス:8200台、ヤリスクロス:8700台、GRヤリス:600台になる。

 そうなるとボディタイプ別に算出した実質的な1位は、1ヵ月平均で約1万5700台を届け出したホンダN-BOXだ。

 ちなみに今は、国内で新車として売られるクルマの40%近くを軽自動車が占める。さらに軽乗用車の内訳を見ると、約半数が全高を1700mm以上に設定したスーパーハイトワゴンで、実質的な国内販売1位のN-BOXはその主力車種だ。

 そこで2021年の軽自動車届け出台数ランキングをチェックすると、1位のN-BOXに続く2位も、スーパーハイトワゴンのスズキスペーシアだ。1ヵ月平均で約1万700台を登録した。3位も同じタイプのダイハツタントで約9700台であった。

 ここで注目されるのは、届け出台数の格差だ。同じスーパーハイトワゴンなのに、N-BOXとタントの間には、1ヵ月平均で約6000台の差が生じた。比率に置き換えると、タントの2021年の売れ行きはN-BOXの約62%で、決定的な格差があった。

 ところが直近となる2022年10月は状況が変わった。1位のN-BOXは1万6369台を届け出して、2位のタントは1万4981台であった。2021年の2位はスペーシアがだったが、2022年10月はタントだ。

 しかも届け出台数は、1位のN-BOXと1388台しか違わない。直近の11月においても1位のN-BOXが1万7474台に対し、タントは1万4998台と2476台差で2位となった。2021年は1ヵ月平均で約6000台の差があったから、2022年10月、11月は大幅に縮まった。

右からタントカスタム、タントファンクロス、タント標準車

■改良で王者N-BOXを追うダイハツ タント

2022年10月の改良のタイミングでラインナップに追加されたダイハツ タントファンクロス

 N-BOXとタントの販売格差が縮まった背景には、複数の理由がある。

 まずは2022年10月に、タントが比較的規模の大きな改良を実施したことだ。従来のタントは、標準ボディとカスタムを用意したが、改良でSUV風のファンクロスも加わった。そのために2022年10月、11月のタントの届け出台数は、前年の3倍以上に増えた。

 タントの届け出台数が急増した直接の理由は改良の実施だが、その数か月前から、受注の停止などで販売が低迷していた事情もある。2022年6月のタントの届け出台数は5761台で、対前年比は64%。7月は6485台で82%、8月は5120台で62%と伸び悩んだ。

 それが9月は、以前の反動もあって9878台が届け出され、前年の1.9倍になった。10月は前述の通り1万4981台に増えて、前年の3倍以上だ。改良の実施と、半導体などの供給状況の変動が相まって、タントの売れ行きを大きく増減させた。

 一方、ライバル車のN-BOXも、月ごとの届け出台数が上下した。10月は前年の同じ月に比べて2倍以上届け出されたが、1万6369台だから、タントの3倍には達しない。その結果、1万4981台を届け出したタントとの差が縮まった。

 この背景には納期の違いもある。改良を受けたタントは、大量に生産されて納期が短く、10月から11月上旬に販売店に尋ねた時は、「以前の納期は約6ヵ月に達したが、今なら2~3か月で納車できる」と返答された。

 この時点でN-BOXの納期は、既に6ヵ月以上に達していたから、届け出台数も伸び悩んでいた。タントの納車は順調で、N-BOXは滞ったから、両車の販売格差が近付いた。いずれにしてもコロナ禍による影響拡大や半導体不足による工場の生産調整で変動があるので、一概にはいえない事情もある。

 それならこのままタントが増え続けてN-BOXを抜くのか? この判断は難しい。ダイハツの販売店によると「タントの納期は、一時期は2ヵ月程度まで縮まったが、直近では再び4ヵ月に延び始めた」という。

 過去の届け出台数を見ると、2018/2020/2021年は、軽自動車販売1位がN-BOXで、2位はスペーシアだった。2019年はタントが2位だったが、2020年と2021年は、スペーシアに負けて3位。

■タント復活の要因は?

フロントマスクを大幅に改良し、オラオラ度を増したことで人気が回復

 現行タントは2019年に発売され、2020年と2021年は絶好調に販売できる時期だったから、スペーシアを下まわったのは痛手だっただろう。そこでタントは、モデル末期に設定するような格安の特別仕様車(セレクションシリーズやXスペシャル)を投入したが、結局は売れ行きを伸ばせなかった。

 ダイハツの商品企画担当者に原因を尋ねると「外観、特にフロントマスクが大人しく、お客様に向けたアピールが弱いようだ」という話が聞かれたという。そこで、今回のマイナーチェンジにあたり、こうした声を取り入れ、販売の55%を占めるメイン車種のタントカスタムのフロントマスクを上質かつ高級感のある押し出し感のあるマスクに変更。

迫力が増したオラオラ顔になったタントカスタム

 さらにタントシリーズ共通となるが、インテリアの使い勝手の向上も支持を集めた要因だろう。

 シートの骨格から変えてほぼフルフラットになることが可能になり、後席背もたれの角度をレバーで調整し、段ボール箱やクーラーボックスなどの四角い荷物がしっかり積めるようになった。

背もたれの角度が垂直に調整できるようになったので四角い荷物もしっかり積めるようになった
2段デッキボードにより、荷物の大きさに応じて調整できるようになった

 また荷物の大きさに応じて高さが2段階で調整できる2段デッキボードを設定するなど、細かいところまで使うユーザーの身になって改良したのだ。

 さらに追加されたファンクロスは、人気のクロスオーバースタイルに加え、隙間市場にピッタリとハマる車種だったことも大きい。現在、軽キャンパー市場は、荷室スペース優先で後席が狭い4ナンバーの軽商用バンが凌ぎを削っており、エブリイバン、N-VAN、アトレーバン、ハイゼットカーゴ、スペーシアベースが販売されている(現在販売NO.1はハイゼットカーゴ)。

「ミラクルオープンドア」はタントの強み。アウトドアではこの特長の「よさ」がさらに際立ちそう

 こうした軽商用バンは、1~2人用の車中泊にはピッタリだが、これが小さいお子さんや小学生を含む家族3~4人となると向かない。後席の座り心地が悪いし、なんといっても狭いからだ。しかも商用バンなので乗り心地や静粛性という面では、やはり5ナンバーの軽乗用ワゴンには敵わない。

4ナンバーの軽商用バン、ハイゼットカーゴの質素なインテリア

 ミラクルオープンドアという飛び道具があり、ちゃんと4人が乗れる普段使いのタントに、家族3~4人用の1dayキャンプ向けに適したクロスオーバースタイルのファンクロスが追加、となれば飛びつく人もいたのではないか。

ほぼフラットになるタントシリーズのインテリア

 もともと後席のチャイルドシートに座る乳幼児を抱いて乗り降りする際やスノーボードやスキーなど後席で着替えたり、後席の荷物の出し入れに便利な解放感抜群のBピラーレス、ミラクルオープンドアを採用していることもあり、アウトドアにもピッタリ、ハマる。

 タントの販売が回復した理由を挙げてきたが、まだマイナーチェンジ後2ヵ月しか経っていない。

 2022年1~11月の届け出台数は、N-BOXが18万5437台で1位、タントが9万5650台で2位、スペーシアが9万923台で3位。このままいけば2020年1~12月の年間販売台数NO.1の座はダントツでN-BOXとなるが、2位と3位が入れ替わり、2位がタント、3位がスペーシアになりそうだ。

 単月の届け出台数ではN-BOXに肉迫しているタントだが、今後も伸び続けて、N-BOXを抜く日が来るのだろうか。今後の動向に注目していきたい。

普段使いから、1dayキャンプ、車中泊、リモートワークの基地など多彩な使い方ができそうだ

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