30年前に発売されたNAロードスターは大ヒットを飛ばし、フォロワーも続々と登場。また同時期に、BMWやロータスも、新世代のライトウェイト・オープン2シーターを模索し、意欲的なクルマをデビューさせていたのだった。中編となる2回目はBMW Z1をピックアップ!
BMWが思い描いた、もう一つの未来
これはきっと、未来を見据えた意欲作であると同時に、BMWのホンネが込められた一台だったのだろう。小さなボディのエンジンコンパートに押し込められた直列6気筒をフワワワワ……ッ! と3000回転辺りまで回した時、自然とそう思えた。
Z1のZがドイツ語で未来を表す「Zukunft」(ツークンフト)だというのは有名な話だ。その言葉通りZ1のボディは外板パネルが脱着可能なプラスチック製となっており(モノコックはスチール製)、全長は3921mmに抑えられている。乾燥重量で1250kgという車重はロードスターを知るボクたちから見ると重量級に思えるかもしれないが、アウトバーンを有する彼の地で超高速域での安定性を確保するためには、これ位の質量をもって剛性を得る必要があるはずだ。そしてこの重さを補うべく325i譲りの6気筒エンジンが選ばれ、前述した軽量化が行われたのだ。
【写真14枚】これがBMWが思い描いた、もう一つの未来。Z1の詳細を写真で見る
実際Z1を走らせると、その極めてドイツ的、いやもっと柔軟な古き良きBMW的走りに頬が緩む。柔らかなサスペンションは足長に路面を捕らえ続け、ステアリングを切り込めば、205と当時にしてはワイドながら40扁平のエアボリュームを有するタイヤを、しなやかに路面へ押しつける。
49:51という細かくてドイツらしい重量配分には笑ってしまうが、その挙動は実に落ち着いており、縦長な6気筒をノーズに積むことはおろか、旋回中心軸よりも後ろに座らされるような感覚も一切ない。今回は街中での試乗だったせいもあるが、ヘンテコなスライドドアを付けてまでサイドシル剛性を高めたボディはねじれる様子もなく、FR車が持つスイートスポットの広い後輪駆動感を満喫させてくれる。ライトウェイトスポーツに想起されるハンドリングゲインは一切ないが、これなら超高速ワインディングでタイヤを滑らせながら走れる気がする! というイメージが湧き上がる。
さらにそこからアクセルをグッと踏み込めば、歓喜の瞬間がじわじわッと訪れる。2.5Lの低中速トルクがもたらすイージードライブも確かにいいが、回すほどに漲るパワー感は格別。これぞ失われた自然吸気ユニットの美酒であり、オープントップごしに聴く動弁系の作動音はシルキーシックスを叫びたくなる瞬間である。ゲトラグ製の5MTはシンクロナイザーの柔らかな当たりが心地良く、Z1で初めて採用されたというマルチリンクがその蹴り出しをまろやかに受け止めてトラクションに変えてくれる。
きっとE36M3が軽くなると、こんな風になるだろうな! そのフィーリングは、次世代へと確かにつながっていた。これで6連スロットルでもつけられた日には、悶絶間違いナシだ。
30年の時を経ても十二分に通用する先進性を持つZ1だが、残念ながらセールスは不調に終わり、生産期間はわずか2年、生産台数は約8000台に終わった。時代を作ることはできなかったけれど太く短く生きたZ1を、いま手に入れて愛するのはBMWマニアにとって最高の愛かもしれない。
【SPECIFICATION】BMW Z1
■全長×全幅×全高:3921×1690×1277mm
■ホイールベース:2447mm
■トレッド(F/R):1456/1470mm
■車両重量:1250kg
■エンジン:直列6気筒SOHC
■総排気量:2494cc
■最高出力:170PS/5800rpm
■最大トルク:22.6kg-m/4300rpm
■サスペンション(F/ R):ストラット/ ダブルウイッシュボーン
■ブレーキ(F/R):Vディスク/ディスク
■タイヤ(F&R):225/45R16
■新車時価格:8万3000ドイツマルク(当時1DM≒80円)
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