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 新型護衛艦として配備が進められる「もがみ」型。凹凸のほとんどない「つるん」とした船体、そしてツノを思わせる高くそびえるメインマスト……。徹底したステルス対策が施されたその外観からは、従来の護衛艦とは大きく違う、未来的な印象を抱かせる。いったい、どこが新しいのか。そして、その特筆すべき推進方式とは?

文・イラスト/坂本 明、写真/海上自衛隊

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■「もがみ」型とはどんな護衛艦か?

 2022年4月末に1番艦が就役した「もがみ」型護衛艦は、海上自衛隊がフリゲートクラスのコンパクトな護衛艦として計画した新しい船である。基準排水量は、3900トン。各種センサーや兵器を装備しており、有事における多種戦(対空・対水上戦、対潜戦、対機雷戦、電子戦)や平時における監視警戒、情報収集などの多用途な任務に対応することが可能だ。その多様な能力から、FFM(多機能護衛艦)の艦種記号が付けられている。

凹凸のない、のっぺりとした船体の「もがみ」型(写真/海上自衛隊)

 艦の外形も単胴船ながら、兵装や艤装類を極力艦内に収容して凹凸を減らし、主船体や上部構造物を傾斜角を付けた面で構成することで、レーダーに探知されにくいステルス性を考慮した艦になっている。そのため従来の護衛艦とは異なり、未来的な印象を与える艦容だ。

 ところで「もがみ」型に付けられた艦種記号FFMは、フリーゲートを表すFF(Fast Frigate)、多用途(Multifunctional)のMと機雷(Mine)の意味を合わせたものである。

 現在、ネームシップの「もがみ」、2番艦の「くまの」、3番艦の「のしろ」が就役しており、2023年3月には4番艦の「みくま」が就役予定、「もがみ」型は2026年3月までに合わせて10隻が建造・就役することになっている。現在までに就役あるいは起工されている艦は8隻で、それ以降の艦は起工日が決まっていない。予定では1年で2隻ずつ建造され、建造費は2隻で約1000億円程度という。

 就役している3隻は護衛艦隊と掃海隊群に所属しており、海上自衛隊としても新しい艦種の艦であるため、運用は未知数の部分があるようだ。そのひとつとして「もがみ」型では、護衛艦としては初の「クルー」制を導入。隻数以上のクルー(乗員チーム)を用意し、クルーが交代で乗艦することにより、船の稼働日数を増やすという新しい試みが導入されている。

 ちなみにフリーゲートとはどのような軍艦かというと、駆逐艦よりも小型で排水量が1500トン~5000トン程度の汎用水上戦闘艦艇で、防空・対潜戦闘能力を持ち、高速で航行し護衛任務を行う艦のこと。とはいえ駆逐艦と変わらない装備や能力を有する艦もあり、定義はあいまいになっている。

新型護衛艦「もがみ」型の特徴

■軍艦のさまざまな推進方式

 「もがみ」型の特徴のなかでも、特筆すべき点は、推進方式だろう。海上自衛隊の護衛艦では初めてCODAG方式を採用している。この推進方式はアメリカ海軍のLCS(沿岸海域戦闘艦)やドイツ海軍のザクセン級フリゲートなどでも使用されている。

 軍艦にはさまざまな推進方式があり、CODAGもそのひとつである。ここでは軍艦に搭載される主機(エンジン)と推進方式について解説してみたい。

 軍艦を動かす主機(エンジン)には、ガスタービン、蒸気タービン、ディーゼル、原子力(これを使用しているのはアメリカのみ)がある。ガスタービンが出現する以前は蒸気タービンとディーゼルが一般的だった。

 蒸気タービンを使った動力機関は、船を動かすための動力として多用されてきた。蒸気タービン機関はボイラーでお湯を沸かして発生した蒸気によりタービンを回転させ、その回転力でスクリュー・プロペラを動かして推進する方式だ。それはディーゼル機関と比べて重量が軽く、大出力が出せるという利点があるからだ。反面、燃料消費が多いという欠点もあるが、高出力が必要とされる大型船、特に軍艦の推進機関に向いている。

 ディーゼル機関は、ディーゼルエンジンのシリンダー内部で燃料を燃焼させたガスでピストンを上下動(往復運動)させ、それを円運動に変え、減速機を介して適切な回転速度にすることで、スクリューを回転させる。

 いっぽう、今日の軍艦ではガスタービン機関(重量に対し出力の高い航空機転用ガスタービンエンジンを使った動力機関)が最も一般的である。ガスタービンエンジンは、圧縮した空気と燃料を混合して燃焼させ、発生したガスでタービンを回転させる。ただし、回転数が高すぎるため減速機を組み合わせ、スクリューを回転させる。

 現代の軍艦の主機としてガスタービンが多いのは高出力が出せるので高速航行が可能になるからだ。足の速さが必要な駆逐艦のような軍艦では重要なことである。また信頼性の高さも軍艦にとっては重要だ。 

■効率と速度を両立する複合推進方式

 いっぽう、異なる主機を組み合わせ、巡航時と高速航行時で使い分けたり、あるいは併用したりすることで、より効率的に軍艦を運用できるようにしたのが複合推進方式である。「もがみ」型は、先にも書いたとおり、海上自衛隊の護衛艦では初めてCODAG方式を採用している。

ディーゼルエンジンとガスタービンエンジンを組み合わせたCODAG方式

船舶用複合推進方式(1)……ディーゼルとガスタービンを組み合わせた機械駆動の推進方式

 軍艦の複合推進方式にはCODAG、COGAGなどの略号が使用されるが、これらは船の推進方式で使用されている主機の組み合わせを示している。複合推進方式は、ディーゼルエンジンやガスタービンエンジンを組み合わせることで効率的な航行を行えるようにしたもの。それらを大まかに解説すると以下のようなものがある。

・CODAD(COmbined Diesel And Diesel)
同種あるいは異なるディーゼルエンジンを組み合わせた方式で、ひとつの推進軸に対して高速航行用のディーゼルと巡航用のディーゼルが接合されている。巡航時は巡航用ディーゼル、高速航行時は巡航用と高速用ディーゼルを併用する。

・CODAG(COmbined Diesel And Gas turbine)
ディーゼルエンジンとガスタービンエンジンを組み合わせた推進方式で、巡航時はディーゼルを使い、急加速や高速航行時にはガスタービンを併用する。航続距離や加速性能と速度性能を向上させることができるが、高速回転のガスタービンと回転数が低いディーゼルを推進軸に接合するための減速機(ギアボックス)が複雑になる。海上自衛隊の「もがみ」型、アメリカ海軍のLCSなどで使用。

・COGAG(COmbined Gas turbine And Gas turbine)
異なるガスタービンを組み合わせた方式で、ひとつの推進軸に対して高速航行用のガスタービンと巡航用のガスタービンが接合されている(同機種を2基接合する場合もある)。巡航時は巡航用ガスタービン、高速航行時は巡航用と高速用ガスタービンを併用する。航続距離や加速性能と速度性能を向上させることができる。海上自衛隊の「こんごう」型や「あたご」型のミサイル搭載護衛艦、「いずも」型ヘリコプター搭載護衛艦などで使用。

・CODOG(COmbined Diesel Or Gas turbine )
ディーゼルエンジンとガスタービンエンジンを組み合わせた推進方式で、低速・巡航時はディーゼル、高速航行時はガスタービンに切り替える方式。エンジンと推進軸を接合する減速機がCODAGよりも簡単な構造で済むという利点がある。海上自衛隊の「ゆうばり」型や「あぶくま」型護衛艦で使用。

・COGOG(COmbined Gas turbine or Gas turbine)
異なる種類のガスタービンを組み合わせた方式で、巡航時には巡航用ガスタービン、急加速や高速航行では高速用ガスタービンに切り替える。CODOGと同様にどちらかのエンジンしか使用しないので一方はデッドウエイトになる。海上自衛隊の「はつゆき」型護衛艦やイギリス海軍の42型駆逐艦などで使用。

■電動モーターを組み合わせた推進方式

 比較的に新しい複合推進方式で、従来のディーゼルやガスタービンと電動モーターを組み合わせたものでハイブリッド推進システムとも呼ばれる。自動車でいうハイブリッド車のようなもの。大まかに分類すると以下のようになる。

●船舶用複合推進方式(2)……電動モーターを組み合わせた推進方式

・CODLAG(COmbined Diesel -eLectric And Gas turbine)
低速および巡航時はディーゼルで発電機を回し発生した電気で推進用の電動モーターを稼動させ(ディーゼル・エレクトリック方式の電気推進)、高速航行時には推進軸に機械的にガスタービンを接合する方式。電気推進により低速および巡航時の燃費効率を上げ、航続距離を伸ばすことができる。イギリス海軍の23型フリゲートやドイツ海軍のバーデン・ヴェルテンベルク級フリゲートなどで使用。

・CODLOG(COmbined Diesel -eLectric or Gas turbine)
低速および巡航時はディーゼル・エレクトリック方式の電気推進だが、高速航行時にはガスタービンによる機械駆動に切り替える方式。アメリカ海軍のアメリカ級強襲揚陸艦やフランス海軍のアキテーヌ級駆逐艦などで使用。

・COGLAG(COmbined Gas turbine-eLectric And Gas turbine)
低速および巡航時はガスタービンで発電機を回し発生した電気で推進用の電動モーターを稼動させ(ターボ・エレクトリック方式の電気推進)、高速航行時には推進軸に機械的に別のガスタービンを接合する方式。CODLAGと同じ長所を持つが、もともと燃費の悪いガスタービンの欠点を補える。海上自衛隊の「まや」型護衛艦や「あさひ」型護衛艦(2代目)などに使用されている。

COGLAG方式を採用する「まや」型(写真/海上自衛隊)

■砕氷艦「しらせ」に使われる電気推進方式

 2000年代に入って使用されるようになっているのが電気推進機関。主機の電動モーター(電動機)を回転させ、スクリュー・プロペラなどの推進器を駆動させる方式である。ガスタービンやディーゼルで発電機を回し、発生させた電力で電動モーターを回す。そのためガスタービンやディーゼルのような内燃機関は船の推進には直接関係しない。電気推進はプロペラの回転方向や回転数を簡単に変えられるため操縦性能が良く(細かい操船が行える)、振動が少ないなどのメリットがあるが、装置自体が大きくなり製造コストや運用コストが高くなるというデメリットがある。

 とはいえ今日の船舶(特に軍艦)は電子装置の塊であり、艦内で消費される電力も膨大なものになる。そのため推進用と艦内の機器用の電力を共有化することができる電気推進方式のメリットは大きい。また内燃機関を使用する機械的な推進システムに比べ燃料を節約でき、艦内スペースに余裕を持たせることができるというメリットもある。将来的には軍艦も民間の船舶も電気推進方式が主流になって行くと思われる。なお、電気推進機関にはIEP、IFEPがある。

●電気推進方式……電動モーターのみ

・IEP(Integrated Electric Propulsion:統合電気推進)
ガスタービンやディーゼルで発電機を回し、発生させた電力で電動モーターを駆動させるもので、推進用と艦内用の電力を発生させる発電機が統合されている。海上自衛隊の「しらせ」型砕氷船やアメリカ海軍のズムウォルト級ミサイル駆逐艦に使用されている。IPS(Integrated Power System)とも呼ばれる。

発電用エンジンと電気モーターの組み合わせとなるIEP

・IFEP(Integrated Full-Electric Propulsion:統合全電気推進) 
CODLAGやCODLOGのように機械駆動の推進装置を併用せず、電気推進のみで推進する方式。イギリス海軍の45型駆逐艦やクイーン・エリザベス級航空母艦などで使用されている。基本的にはIEPのひとつである。

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