2022年9月下旬、青森県北西部の津軽半島で行なわれている消波ブロックの設置工事を取材した。設置場所は小泊岬の南側の下前漁港、施工業者は地元の齋勝建設株式会社(五所川原市)で、設置する消波ブロックは国内最大級の100tクラスだ。知られざる巨大消波ブロック設置工事の実態に迫る!!
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
※2022年12月12日発売「フルロード」第47号より
消波ブロックとは?
消波(しょうは)ブロックとは、港や岸壁に設置されているコンクリート製のブロックのこと。一般的には「テトラポッド」の名称で知られているが、これは大手ブロックメーカー、株式会社不動テトラの商標。一般名称は「消波ブロック」「消波根固(ねがため)ブロック」もしくは「波消しブロック」だ。
消波ブロックには、沿岸部でよく見かける四本脚のものに代表される立体型をはじめ、平型、階段型などさまざまなブロック形状が存在。大きさもさまざまで、小さいものだと500kg程度からあるが、大きいものだと100tに及ぶ。
自然災害の多い日本では、防災や海岸侵食対策として、いたるところにさまざまなタイプのブロックが設置されているが、今回取材したのは国内最大級となる100tクラスの消波ブロックの設置工事。100tクラスは沖縄や北海道で設置例があるものの、本州での設置は初めてという。
なぜ消波ブロックを設置するのか?
下前漁港は小泊岬の南側にある日本海に面した漁港で、港の西側から東側にかけて突き出した巨大な堤防で漁港全体が覆われているのが大きな特徴。この巨大な堤防は日本で3番目の高さを誇るそうだ。
なぜここまで高い堤防が必要なのかというと、それはもちろん波が高いからで、波が高いのは周囲の地形が急深(足元から一気に深くなる地形。波が盛り上がりやすい)なため。特に台風や低気圧が日本海側を通過する際に生じる特有の南西風を食らうと高波が発生しやすく、これまで3度被災を経験している。
この特有の地形がもたらす高波の被害から漁港や周辺の民家を守るために行なわれているのが、今回の消波ブロック設置工事だ。
ちなみに下前漁港は過去に何度も消波ブロックの設置工事を行なっており、それは堤防の外洋側に積み重ねられた無数の消波ブロックからも伺えるが、今回の設置工事は今までと違い、堤防から少し離れた位置に消波ブロックを設置する。これにより波の威力が減衰され、高波が発生しにくくなるのだという。
消波ブロックの作り方
大型消波ブロックは重量や寸法的に工場からの運搬が困難なので、現地でつくるのが基本。どのタイプの消波ブロックを使うのかは事前の計画段階で決められており、その計画に基づいて地元の建設会社が形状の特許を持つブロックメーカーから型枠をレンタルしてきて、自分たちで生産を行なう。
今回生産する消波ブロックは東京のブロックメーカー、三省水工の「シーロックエイト(エイトはラテン数字)100t型」で、完成時の寸法は長さ5.78m×幅5.35m×高さ4.82mで質量は98.90tに及ぶ。使用する型枠の容積は44リューベで、これは大型トラックベースのミキサー車11台分に相当する。
消波ブロックの生産は、組み立てた型枠に原材料となる生コンクリートを流し込んで固めるというもので、型枠に入れて2日で初期硬化し、さらに2日で「持ち上げてもいいぐらい」まで硬化。最終的に28日後に検査を受けて、設計強度を上回っていれば完成となる。
津軽半島は11〜2月の冬季間が豪雪のため、3〜4月が特産品であるイカの産卵期のため海での作業ができなくなり、取材時に生産していたブロックは来年の春用。生産は設置工事がストップする冬季間も行なわれ、設置工事が再開する来年の春にはヤードが一杯になる予定だ。
消波ブロック設置工事の実際
設置工事は輸送パートと設置パートに大別され、輸送パートは「トレーラによる陸上輸送(小泊港内のヤード〜岸壁)」「起重機船による海上輸送(小泊港〜下前漁港)」に分けられる。海上輸送後はそのまま起重機船で設置作業を行なう流れだ。
陸上輸送を担うトレーラは消波ブロック輸送の第一人者として知られる兵庫県西宮市の株式会社ライト建設が齋勝建設にレンタルしているもの。同社が独自に開発した2軸16輪の低床セミトレーラで、トレーラ単体の寸法は全長約12m、全幅3.3mとなっている。
消波ブロックの形状に応じた架台を搭載するのが特徴で、これによりさまざまな形状の消波ブロックを安全かつスピーディに運搬可能。今回は国内最大級の消波ブロックを運搬するため架台を軽量化し、架台をマウントした状態で最大積載量100tを確保。コンプライアンスもしっかり守って輸送可能となっている。
一方、起重機船は100t級ブロックを1度に12個運搬可能。トレーラが運んできた消波ブロックを次々と船体に積み込み、片道1時間半かけて下前漁港に到着後は、速やかに設置工事を行なった。重さ100tの巨大消波ブロックをクレーンで海中に投下するシーンは、ほかではなかなか見られないド迫力なものだ。
ちなみに今回の下前漁港への消波ブロック設置工事は、100t級の消波ブロックを3年で1500個設置する計画。1年あたりの設置数は500個となるが、前述の通り11〜4月中旬までは海での作業=設置作業ができないので、実質的に半年で500個を投入しなくてはならない。
また、取材時は偶然穏やかな天気が続いたが、本来この地域は日本海からの強風で海が荒れやく、海が荒れても作業がストップしてしまうので、スケジュールは意外とタイト。生産技術、運搬技術とともにシビアな工程管理まで求められる消波ブロック設置工事は想像よりはるかに大変そうだ。
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