コロナ禍で増えた「巣ごもり需要」は、感染拡大が一段落しても減ることはなかった。このため右肩上がりで増え続けているのが宅配便の取り扱い個数だ。
いっぽうで、トラックドライバーの働き方改革による「物流の2024年問題」への対応と、脱炭素の取組も求められている。2030年までにおよそ10億トンの輸送力不足に陥るとされる運送業の中でも、宅配トラックは特に影響が大きい分野だ。
このたび、NTTグループの物流コンサル企業が2030年までの宅配便の配送能力に関するレポートを公開した。レポートは不足するドライバーや車両の試算とともに、トラックに代わる代替案も提言している。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、画像/株式会社クニエ・Renault Trucks・フルロード編集部
宅配ドライバー5.8万人が不足するという試算
宅配便の取り扱い個数は増加傾向にあるが、新型コロナウイルスのパンデミック以降、巣ごもり需要の拡大でさらに増加している。
いっぽうでトラックドライバー不足や、働き方改革関連法による「物流の2024年問題」などの影響で、国内の物流においてトラックによる輸送能力は今後、大きく低下すると予想されている。
トラック物流の需要(貨物量)が供給(輸送力)を上回っていることがトラックドライバーの長時間労働を招き、担い手不足にも繋がる。しかし、ドライバーの労働時間を短縮すれば社会インフラである物流が崩壊しかねないという危機的な状況だ。
そんな中、NTTグループの物流コンサルティング企業で、NTTデータの子会社の株式会社クニエは、2030年までの宅配におけるトラックドライバー不足と代替手段の予測に関するレポートを2022年11月30日に公開した。
詳細は後述するが、2030年に宅配のトラックドライバー5.8万人が不足するという試算結果だ。レポートではドライバーとともにトラックも不足することなどから、その代替手段として商用の電動三輪車(「商用EV三輪バイク」)の導入を提言している。
三輪バイクのドライバー8万人を確保することで、トラックドライバー5.8万人の不足を補うことができるとした。
需給が逼迫する宅配便
EC(電子商取引)市場自体が拡大しているが、さらに小口・多頻度化も進むことで宅配便の取り扱い個数の増加が続くと予想されている。
また、仕事があるにも関わらず従事する人がいない状態での求人数を労働者数で割った「欠員率」は、全産業と比較して「運輸業・郵便業」で非常に高くなっており(厚労省・労働経済動向調査、2021年)、ドライバーの仕事はあるのに担い手がいないという状態が続く。
2024年4月には働き方改革関連法によるドライバーへの時間外労働時間の上限規制や、厚労省が改正案を承認した「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)が適用されることから、人員不足はさらに深刻化することが想定される(いわゆる2024年問題)。
こうした背景から、宅配便(「特別積合せ貨物」という輸送分野の一種)は特に物流需給が逼迫する業界になることが想定される。
クニエは、2024年以降、宅配需要に対してトラックの配送能力が不足するほか、2027年以降は人員だけでなく車両(トラック)も需要が供給を上回り不足すると試算した。このためトラックではない代替手段の検討も必要となる。
試算では2030年の宅配便の取り扱い個数を約60億個とした。労働の効率化や、需要減が予想される輸送分野から宅配ドライバーへの転職を前提としても、供給可能なドライバー数は約22万人となり、宅配ドライバーは約5.8万人が不足するという計算だ。
トラックを補う「商用EV三輪バイク」
2024年以降に先行して不足するのはトラックドライバーだが、レポートでは車両の不足も想定されることから、「環境問題」「道路事情」「小型荷物の増加」「トラック運転手数の鈍化」といった観点で配送手段自体を見直す必要があるとした。
トラックを補う手段としてクニエが提言するのは商用EV三輪バイクだ。その定義としては以下の要件を全て満たす車両とする。
●宅配業務などの商用目的で使用する
●エンジンを使用せず、バッテリーの電力だけでモーター駆動する
●3個の車輪が車両中心線に対して左右対称の位置に配置され、カーブ走行時に車輪および車体の一部又は全部を傾斜して旋回する構造を有する
●車両の排気量が50cc以下で 「原付一種」 もしくは 「ミニカー」 で登録されている
なお、直近5年では「原付一種」のホイールとタイヤの変更を通じて「ミニカー」としての登録が増加する傾向にある。ミニカーは原付一種と比較して必要免許が「普通自動車免許」となるほか、法定速度は30km/hから60km/hに、二段階右折が不要となるなど、宅配業務用車両としての利便性が向上する。
他にナンバープレートの色や左右のホイール間の距離などの制限値も異なる。
主に2トントラックを運転している宅配ドライバー5.8万人を、商用EV三輪バイクで代替するには、三輪バイクのドライバーを約8万人追加する必要があると試算した。
ちなみに海外では、フランスの大手トラックメーカー、ルノー・トラックスが今年から電動三輪車(カーゴバイク)の製造・販売を開始している。ラストマイル輸送の需給逼迫と、脱炭素の両立は国外でも課題になっており、フランスではトラックメーカー自らがトラックの代替手段を用意しているのだ。
必要となる運転免許や、急速に普及した宅食(フードデリバリー)事業などを考えると、商用EV三輪バイクの潜在的なドライバー数は、トラックドライバーを目指す人よりは多いだろう。
レポートは、拡大を続けるEC市場と2024年問題への対応、脱炭素の取組を両立しながら、商用EV三輪バイクによって宅配トラックドライバーの不足を解消することが可能とした。
なお試算は、自動運転(配送)などの分野で急激なイノベーションは起こらず、同様に急激なライフスタイルの変化もないという前提だ。
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