GMのビュイックブランドはこのほど、中国上級ミニバン市場でシェア1位を誇っているGL8の改良新型モデルを中国で発表した。現行型は3世代目モデルとなり、2016年10月に中国で発表された。
現行GL8がデビューから約6年を経て、今回初の大幅改良を受けたが、改良新型はフロントマスクを一新してグリルやヘッドライト、バンパーのデザインが見直されており、まるでトヨタのアルファードを思わせる威風堂々の表情を手に入れているのが特徴的。
果たして日本市場でも売れるのかどうか渡辺陽一郎氏が分析する。
文/渡辺陽一郎、写真/GM、ステランティス、TOYOTA
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■日本国内では苦戦が続くアメ車だが……
日本における輸入車の販売状況を見ると、今でもドイツ車が圧倒的に多い。2022年1~8月に国内で登録された海外ブランド車の販売ランキングは、1位:メルセデスベンツ、2位:VW(フォルクスワーゲン)、3位:BMW、4位:アウディ、5位:BMWミニであった。
このトップ5ブランドはすべてドイツ車に分類され、その登録台数を合計すると、正規輸入車全体の63%を占めた。
逆に売れゆきを大幅に下げたのがアメリカンブランドだ。例えばGMの高級ブランドとされるキャデラックは、1998年には4384台を登録したが、2021年は809台だった。以前の20%以下まで落ち込んでいる。メルセデスベンツの5万1678台に比べると、圧倒的に少ない。
GMのシボレーも同様で、1996年には2万3732台が登録された。それが2021年は812台だ。フォードも同じ1996年に2万3273台を登録しながら、今では日本市場から撤退している。このようにアメリカンブランドは、売れ行きの低下が激しい。
■日本で好調に売れていたアメリカ車
それなら1990年代にどのようなアメリカ車が日本で好調に売られていたのか。シボレーでは、当時はミニバンのアストロが売れゆきを伸ばしていた。これに次いで、シボレーではSUVのブレイザーも相応の人気を得ていた。フォードではエクスプローラーが圧倒的に多かった。
当時から、セダン/ステーションワゴン/クーペの輸入車は欧州指向が強かったが、SUVはアメリカンブランドが人気だった。1990年代の欧州ブランドは、高重心のボディによる走行安定性の悪化を敬遠して、SUVをほとんど手がけなかったからだ。
そして当時は国産SUVも、トヨタならハイラックスサーフ、日産はテラノ、三菱はパジェロ、いすゞはビッグホーンという具合に、後輪駆動ベースの4WDを搭載する悪路向けの車種が中心だった。
エクスプローラーも後輪駆動ベースの4WDを搭載した悪路向けのSUVで、アメリカンSUVが憧れのクルマだったから売れゆきを伸ばした。
言い替えると、アメリカンブランドが売れゆきを下げた一番の原因は、SUVやミニバンからの撤退にあった。
その理由をアメリカンブランドの担当者に尋ねると、「日本の市場に真剣に取り組んでいるから、伝統のあるセダンやスポーツカーを主力商品にした」と述べたが、少なくともセダンについては、日本のユーザーはアメリカ車を好まない。
セダンなら、ボディ剛性やステアリングの支持剛性が高く、走行安定性も優れ、操舵感を正確に仕上げたドイツ車を選ぶ。
スポーツクーペについては、アメリカ車にも大胆でクラシックなデザインや運転感覚などの特徴がある。ただし、今は輸入車、日本車を問わずスポーツクーペ需要が減り、好調に売るのは難しい。
■現在でも好調なアメリカンSUV
話をアメリカンブランドのSUVとミニバンに戻すと、後者は2000年代にアストロが終了しており、欧州を含めて、輸入ミニバン自体が大幅に減った。
しかし、SUVは健在だ。特に最近はジープブランドが注目され、2021年には1万4271台を登録している。
正規輸入車の販売ランキングでも、先に挙げた5位のBMWミニ、6位のボルボに続いて、ジープが7位に入った。2010年のジープの登録台数は1877台だったから、約10年間で日本国内の売れゆきを7倍以上に増やした。
ジープブランドのなかでも特に販売の好調な車種が、悪路向けSUVのラングラーだ。2021年の登録台数は、メルセデスベンツAクラスを上まわり、VWポロに迫る勢いだった。
ジープラングラーが人気を得た背景には、ふたつの理由がある。ひとつはSUVの原点回帰だ。最近のSUVでは、ヤリスクロスやハリアーのような前輪駆動をベースにしたシティ派が圧倒的に増えて、SUVの原点となる悪路向けの車種が見直された。そのために日本車でもジムニーやランドクルーザーが人気を高めた。
ふたつ目の理由は、国内市場におけるアメリカンブランドのイメージや魅力が、約50年前から本質的に変わっていないことだ。要は作りが少し粗くても、外観が大胆なデザインで存在感の強いクルマが好まれる。
運転感覚も、低回転域で高い駆動力が沸き上がるエンジンがアメリカンブランドらしさだ。逆に上質で緻密な作り込み、吹き上がりのいいエンジンなどが欲しいならドイツ車を選ぶ。
そのためにキャデラックも、今ではエスカレードを頂点とするSUVが4車種をそろえ、セダンで輸入されるのはCT5のみになった。
■存在感はアメリカン・アルファード!? 中国で人気のビュイック GL8
そうなるとアメリカンブランドの人気を高めるなら、やはりSUVやミニバンを輸入するのがいい。必ずしも北米市場で販売している必要はなく、中国やASEAN市場で売られるアメリカンブランドでも構わない。
例えば、中国で積極的に販売されるGMのビュイックブランドには、SUVやセダンと併せて、GL6とGL8というミニバンもある。この内、GL8はアルファードによく似たフロントマスクを備えるLサイズミニバンで、後席側のドアはスライド式だ。日本のミニバンに近い成り立ちを備える。
GL8のボディサイズは、全長が5119mm、全幅は1878mm、全高は1799mmとされ、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)も3088mmと長い。
アルファードに比べると、全長は約170mm、ホイールベースも約90mm上回る。全幅も約30mmワイドだが、全高は約140mm低い。つまり全高は、かつてホンダが販売していたエリシオンと同程度だ。今でも中国で売られているオデッセイやエリシオンに近い。
GL8のエンジンは直列4気筒2Lターボで、48Vのマイルドハイブリッドを組み合わせる。ATは9速タイプだ。
■もしもGL8が日本で販売されたら……
日本のLサイズミニバンでは外観の見栄えが重視されるから、全高が1800mmを下回ると売れゆきを伸ばすのは難しい。国内版のオデッセイが廃止され、エルグランドが販売を低迷させた背景にも、天井の低さがある。
ちなみに、クルマ本来の機能としては、必要な室内高と最低地上高が確保されるなら、天井と床は低いほど好ましい。乗降性、低重心による走行安定性と乗り心地、空気抵抗の低減に基づく低燃費など、機能が幅広く向上するからだ。
しかし、ミニバンやSUVの場合は、天井を低く抑えたことで外観の存在感や車内の見晴らしが薄れ、売れゆきを下げることもある。ここがミニバン開発の難しさで、アルファードは、機能よりも売ることを優先させたクルマ作りによりヒット商品となった。
この点を考慮すると、GL8をそのまま輸入しても好調に販売するのは難しいが、将来的にミニバンやSUVにより、ビュイックなどのアメリカンブランドが復活したら楽しいだろう。ジープブランドの売れゆきが7倍以上に増えたのだから、不可能ではない。アメリカンブランドが日本の市場を諦めるのはまだ早い。
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