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 インドを訪れたフルロード編集部員による「インドのトラック乗り比べ」、中型トラック前編のバーラトベンツ1415Rに続いて、後編ではインド純国産メーカー・Y社の最新モデルに乗り、両車の比較を試みた。
 
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部

2019年デビューの最新モデル

チェンナイ都心を走る中型カウルトラックベースの水運搬タンクローリ(本文とは関係ありません)

 中型トラック(ICVトラック)前編では、ダイムラー・インディア・コマーシャル・ビークル(DICV)の車両総重量(GVW)14トン級モデル「バーラトベンツ1415R」に乗ったが、今回は比較車として用意された、インド純国産メーカー・Y社のGVW16.2トン級モデル(以下Y社16トン車)の試乗レポートを報告する。

 インドの最新排ガス規制・BS6(バーラトステージ6)の施行では、バーラトベンツ以外のICVトラックメーカー5社のうち4社が、新開発キャブ・新開発エンジンを2019年にいっせいに発売するという状況をもたらした。

 Y社16トン車ももちろんその一つで、登場年次でいえば、バーラトベンツ車よりも新しいことになる。そのため、「純国産メーカーの最新トラック」としても、興味深い1台だった。

 なお、こちらは実際に使われているクルマゆえ、残念ながらその姿をお見せできない。写真はインド・チェンナイで撮影したトラックたちをお楽しみください。

進化したデザインと居住性

チェンナイ郊外の幹線をゆくGVW11トン級の中型トラック(本文とは関係ありません)

 Y社16トン車のキャブは、デビューが新しいだけあって、内外装ともコスト低減のための工夫を採り入れられながら、モダンなスタイリングに仕上げられている。室内容積も広く、先代のキャブと比べれば、その居住性は大幅に改善されているはずだ。ただ、運転席に座ってみると、想像していた以上にメーターパネルは小ぶりで、盤面の文字サイズも小さく、その視認性はあまり評価できないものだった。

 こちらはICVトラックの常として、エアコンは非装着である。空調パネルには、ブロワの送風調整ダイヤルが1個ポツンとあるだけで、送風の寒暖調整機能や顔・足元などの吹出モードもない。インドのトラックはこれが普通である。

 ステアリングコラムのチルト・テレスコ機能は標準装備だが、調節できる範囲・角度は「1415R」よりも限られており、ドライバー体型の違いに対応できる範囲は小さいといえる。

既視感のあるフィーリング?

チェンナイ都心をゆく小型ダンプ。荷台に人が乗っている光景もたびたび見かける(本文とは関係ありません)

 このY社16トン車を含め、中型バーラトベンツ車と競合するBS6適合車のほとんどが排気量3.3~3.8リッターのエンジンを搭載し、最高出力120~160hpクラス・最大トルク400~500Nmクラスという動力性能を確保していて、概ねカタログスペックは拮抗している。これ以外には、3.0リッターや5.0リッターのエンジンを設定する例もあるが、それらは主流ではない。

 Y社16トン車のエンジンも、「1415R」と近いカタログスペックをもっている。やはり転がりだしの重さは、小排気量に深いギア比を組み合わせるためかと思われたが、しかしご当地の作法どおり引っ張ってやっても、エンジン音がやかましくなるばかりで、トルク感はいっこうに薄く、加速は鈍い。

 そのいっぽうで、トップギアで50km/h前後の巡航は、1500rpmあたりの低回転域が利用できるので、決して実力がないというわけでもない。この奇妙なフィーリングは、10数年前の新短期規制~ポスト新長期規制適合車の一部、大量のEGRを使っていたエンジンを思い出させる。
 
 実はY社16トン車のBS6適合エンジンも、電磁弁を備えたEGRシステムと排ガス後処理装置(DPF+尿素SCR)を併用しているのだ。Y社エンジンが、EGRとしてどれだけ排気を筒内へ戻しているのかは、まったく知る由もないが、NOx低減が目的であればそれなりの量だろう。
 
 ほかにも考慮すべき点がある。それは、Y社16トン車が「1415R」に対してひとつ上の車格で、2トンも重く、タイヤサイズがより太いことだ。しかも使用過程車なので、状態が万全かどうかも不明である。とはいえ、GVW14トンモデルであっても、このエンジンのフィーリング、回してもトルク感が薄いという点は、結局のところ変わらないのではないだろうか。

ユルい持ち味

 Y社16トン車のハンドル(ステアリングホイール)を回した感触は、味気なくただただ重いという感じで、ドライビングというよりも単なる運転作業をしている気分になってくる。しかもステアリングセンター付近での微舵に対する応答性や、明確に転舵した際のクルマが向きを変える動きも、どことなくユルい。

 ギアボックスはシンクロメッシュ付きで、シフト操作はやはり重い。いささか入りにくいところもあったが、これは筆者の技量不足のせいもある。

 ブレーキシステムはABS付フルエア式ドラムブレーキ。やはり踏み心地の硬いペダルを踏み圧でコントロールするタイプで、効きは鋭い。補助ブレーキは1段の排気ブレーキのみで、コラムレバー操作となっている。

 使用過程車それもインドの……という前提であえていえば、高年式車ながらすでに内装はやつれた印象で、ドアと接するウェザーストリップは、角の部分がダランと垂れている。この個体がたまたまそうなのかもしれないが、内装材の仕上げもいささかユルい感じだった。

完成度に表れるトラック創造の歴史

軽トラックとセミトレーラ。どちらも鉄筋を運んでいる。インドは全体的にセミトレーラなど連結車の保有台数は少ないとされるが、チェンナイは工業と貿易が盛んゆえに時折みかけた(本文とは関係ありません)

 Y社16トン車は、(インド純国産メーカーすべてにあてはまるが)海外メーカーとの技術協力も得て新規開発しているだけに、筆者の期待値が大きすぎた感もあるのだが、意欲的なデザインだが詰めの甘いインターフェースを含めて、走りも造りも全般的にユルいクルマ、という印象を受けた。

 リアルワールドの道路環境が荒っぽいだけに、良路だとかえってあか抜けないドライバビリティにみえたのかもしれない。しかし、同じ国のほぼ同じクラスで、同じように簡素なトラックである「1415R」と比較すると、そこには大きな違い、隔たりを感じてしまうのが率直なところだ。

 インド純国産メーカーはどこも歴史ある企業で、欧州メーカーや日本メーカーとの技術提携からトラックを国産化したが、それを30~40年以上にわたって生産することで、低価格での供給を可能とし、それを市場も望んでいたといえる。
 
 しかし、排ガス規制の強化やインド経済の発展に伴って、インド純国産メーカーがオリジナル車の開発に乗り出したのは、ここ10数年ほど前からと、つい最近の話である。つまり企業としての歴史は長くとも、トラック創造の歴史は浅いのである。
 
 いっぽうバーラトベンツ車は、欧米や日本向けのトラックと比べれば、はるかに質素で低コスト化が図られているが、ダイムラーが蓄積してきたトラック技術とその研究開発力、生産技術、品質確保に関する膨大な知見から生まれている点では、メルセデス・ベンツ車や三菱ふそう車となんら変わらない。「バーラトベンツ=インドのベンツ」というブランドは、このクルマを実によく言い表している。そして、それはインド市場向けトラックの完成度にも、如実に表れていたように思う。

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