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 レーシングカーという道具を使用して戦うモータースポーツでは、アスリートであるドライバーのパフォーマンスは、レーシングカーの性能に大きく左右される。そのことは、7冠王者のルイス・ハミルトン(メルセデス)でさえ、2022年に1勝もできなかったことでもわかる。

 2022年にコンストラクターズ選手権9位に沈んだアルファタウリのマシンでポイントを獲得するには、巡ってきた運を確実に結果に結びつけることが何よりも重要となる。2022年の第10戦イギリスGPはまさにそんなグランプリだった。1回目のスタートで多重クラッシュが起き、レース再開後、角田裕毅は早々にポイント圏内を走行していた。チャンスが巡ってきたわけだ。

 ところが、角田は前方を走っていたチームメイトのピエール・ガスリーにオーバーテイクを仕掛け、その結果ミスを犯して2台そろってノーポイントに終わった。このグランプリでは予測が難しいブリティッシュ・ウェザーに備えてアルファタウリは2台でセットアップを分け、ガスリーがウエット寄りのセットアップを、角田はドライ寄りのセットアップを施してレースに臨んでいた。

2022年F1第10戦イギリスGP ピエール・ガスリーと角田裕毅(アルファタウリ)がコースオフ
2022年F1第10戦イギリスGP ピエール・ガスリーと角田裕毅(アルファタウリ)がコースオフ

 果たして、レースはドライとなり、角田のほうがガスリーよりペースがよかった。したがって、そのことを知っているチームが2台のポジションを入れ替えてもよかったのではないかと意見もあるが、たとえ入れ替えたとしても、角田がさらにその前を走るフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)をとらえることはマシンの性能を考えると現実的ではない。そうなると、順位を入れ替えたとしてもチームとして獲得できるポイントは同じであるから、チームオーダーを出す必要はない。

 これはアルファタウリに限らず、ほとんどのチームが基本的に共有しているレース哲学である。たとえば、2021年のイタリアGPでマクラーレンが1-2フィニッシュを飾ったときも、2番手だったランド・ノリスがペースの違いを理由にポジションの入れ替えをチームに要求していたが、チームはノリスの要求を聞き入れなかった。ノリスにとっては初優勝のチャンスだったが、その意味を理解し、無理なオーバーテイクを仕掛けることはなかった。もちろん、前を走っているドライバーが何らかのトラブルや、ピットストップ戦略が完全に異なっているなどの例外はあるが、前後を入れ替えるためだけのチームオーダーをチームが行うことはほとんどない。

 2023年、アルファタウリからF1に初めてフル参戦するニック・デ・フリースは2019年のF2王者。2016年のGP2王者であるガスリーにも負けないほどの実力者である。チーム加入1年目とはいえ、予選とレースでデ・フリースが常に角田と近いポジションで戦うことは想像に難しくない。そのとき、角田に必要なことは目の前のチームメートとだけ競うのではなく、状況を俯瞰し、チームにとって最も大切なことは何かを判断する冷静さだ。

 デ・フリースを迎えて新しいシーズンに臨むにあたって、チーム代表のフランツ・トストはこう語っている。

「みんなはピエールがここ2年間、アルファタウリのチームリーダーだったと思っているようだが、そんなことはない。我々はこれまで、ふたりのドライバーに対して、ファースト&セカンドという体制をとってきたことはないし、それはこれからも同様だ」

 角田にはそれができるはずだし、逆にそれができなければ、4年目はない。

【角田裕毅F1密着】
2023年のアルファタウリは3年目となる角田と、メルセデスのリザーブドライバーを務めてきたニック・デ・フリースを起用する

 それよりも気になるのは、アルファタウリが開発して2023年に送り出すAT04だ。というのも、チーフレースエンジニアのジョナサン・エドルズが「2023年は、これまでよりも多くのパーツを自分たちで設計することになるだろう」と語っているからだ。現在のF1では、ギヤボックスやクラッチ、リヤサスペンションやリヤインパクト構造などは「トランスファラブル・コンポーネント(TRC)」として、それらのパーツを他チームから購入することが認められている。アルファタウリはレッドブルからギヤボックスを購入し、レッドブル・パワートレインズからパワーユニットの供給を受けている。にもかかわらず、アルファタウリが内製率を高めるということは、AT04もまたAT03同様、レッドブルとは異なる空力哲学を持つマシンとなることを意味する。

【角田裕毅F1密着】
アルファタウリF1のチーフレースエンジニアを務めるジョナサン・エドルズ

 トストはこう語る。

「2023年の我々にとって大切なことは、チームリーダーを立てることよりも、いいクルマを開発すること。速いマシンがあれば、ドライバーの序列に関係なく、ふたりともポイントを獲れる。逆にいいクルマを作ることができなければ、チームリーダーがいてもポイントは獲れない。いまのF1マシンを開発するにはドライバーとして5、6年の経験が必要だ。だから、2023年はいかにいいクルマを開発し、ユウキとニックのふたりからしっかりとフィードバックを聞くことだ。幸いニックはユウキとドライビングスタイルが近いので、ふたりのフィードバックは我々にとって非常に有意義になるだろう」

 アルファタウリの開発陣にかかる期待は大きい。

【角田裕毅F1密着】
フランツ・トスト代表(アルファタウリ)&ヘルムート・マルコ(レッドブル モータースポーツコンサルタント)