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 スズキの鈴木俊宏社長が、2022年度上半期(4~9月)の決算会見で、クルマの装備について述べたことがニュースになった。「ユーザーの皆さんにも考えていただきたい。何でも付いているということが、本当に自分のクルマに必要なのか」。スズキのクルマがなぜ世界レベルで好調を持続できているのか、その要因を解き明かす。

文/渡辺陽一郎、写真/ベストカー編集部、ベストカーWeb編集部、トヨタ

■スズキの作るクルマはなぜ売れるのか?

バックモニターはユーザーにとってはありがたい装備のひとつではある。ただし、納期遅れの原因となる半導体を多く使うことになると筆者は指摘している

 これは最近の新車に見られる納期の遅延と、価格の上昇に関係する指摘だ。今はクルマの装備が充実して、価格も高くなった。事故を防ぐ安全装備の充実は好ましいが、快適装備も増えた。

 運転席と助手席の電動調節機能、リアゲートの電動開閉機能、光の帯が流れるような方向指示機、大型のディスプレイ、スピーカーの数が多い上級オーディオ……、さまざまな上級装備が幅広い車種に採用されている。

 このような装備の充実により、今のクルマの価格は、15年ほど前の同じ車種の同じグレードと比べて約1.2~1.4倍に上昇した。また、これらの上級装備には、供給量が不足している半導体やワイヤーハーネスも豊富に使われる。装備の充実は価格を高めて、なおかつ納期が遅延する原因にもなっている。

 スズキの販売店では以下のように述べている。

「半導体による納期の遅れは、ディーラーオプションのカーナビやETCユニットにも当てはまる。お客様が早期の納車を希望される場合、カーナビやETCユニットを装着していない状態で納車し、入荷した段階で取り付けることも多い。いろいろと手間を要する」。

 鈴木俊宏社長の「何でも付いているということが、本当に自分のクルマに必要なのか」という問い掛けは、ユーザーから自動車業界まで、今の時代に皆で考えるべき大切なテーマだろう。

■デザイン優先で後方視界のよくないクルマも

新型セレナはモニターに頼らずとも視界がいいことを開発者が目指して作られたモデルだと筆者は主張する

 交通事故を減らす安全装備は、前述のとおりオーディオのような快適装備とは異なるが、見直すべき点もある。例えば、半導体を多く使うといわれるドライバーの死角を補う各種のモニターだ。これらがなかった時代には、後方の見にくいクルマはトラックのような商用車にかぎられていた。

 それが今では、乗用車にも後方がマトモに見えないクルマが増えた。外観を躍動的に感じさせるため、サイドウィンドウの下端を後ろに向けて持ち上げて、後方視界を故意に悪化させている。「モニターがあるから、後ろは見えなくても大丈夫」という発想でデザインされ、日本車、輸入車を問わず、モニターが必要不可欠の装備になった。

 このようなクルマで車庫入れなどを試すと、インパネに装着されたモニターを見ながら後退することになる。左右方向から急速に近付く自転車などを見落としやすく、モニターが万全でないことがわかる。

 つまり、今は危険なカーデザインが増えて、これを補うために、不完全なモニターの装着が必須条件になっている。この商品開発が価格を高め、納期を遅らせる原因にもなっているわけだ。以前のように視界の優れたカーデザインを採用すれば、半導体などを使う高価なモニターを採用する必要も薄れる。

 ちなみに視界に配慮して開発された新型シエンタや新型セレナの開発者は「視界は安全性を高めるうえで、とても大切だ。後方視界についても、ドライバーが自分の目で直接確認できるようにデザインすべきで、モニターに頼ってはならない」という。

 その一方、同じメーカーでも車種が変わると、C-HRやフェアレディZのように、後方の見にくいクルマが開発される。

■バランスの取れた商品開発がスズキの強み

スズキは軽(写真はアルト)だけでなく、小型車の販売にも力を入れており、販売面でのバランスも優れているという

 スズキに話を戻すと、2022年度上半期決算は、前年同期比が32.5%増の2兆2175億円で過去最高になった。純利益も1151億円で14.5%増加している。国内販売についても、最近は増加が続く。2022年9月の国内販売台数は、前年の146%に達した。同10月は128%、同11月は116%となっていた。

 スズキの好調な販売の背景には、バランスの取れた商品開発がある。国内市場で見ると、2022年1~11月におけるスズキの国内販売順位は、トヨタに次ぐ2位であった。以下、ダイハツ、ホンダ、日産と続く。

 国内の売れ筋カテゴリーは、2022年1~11月の場合、軽自動車が39%を占めた。スズキは軽自動車が中心のメーカーだから売れゆきを伸ばしたと思われそうだが、軽自動車の届け出台数にかぎると、スズキよりもダイハツが多い。

 つまり、スズキは、小型/普通車も相応に販売したから、軽自動車がダイハツより少なくても総台数では上回ったのだ。ダイハツの国内販売総数に占める小型/普通車の比率は6%だが、スズキは17%だ。ダイハツはトヨタの完全子会社で、日本では主に軽自動車を担当するが、スズキにこのような役割はない。

 スズキによると、「軽自動車が今後も高い人気を保てる保証はなく、小型/普通車にも力を入れている」とのことで、販売面のバランスもいい。

 そして2022年1~11月におけるスズキの小型/普通車の登録台数は、スバルや三菱よりも多かった。スズキの小型/普通車の販売比率は17%でも、相当な販売規模に達しているわけだ。

■スズキの「軽くてシンプル」なクルマ作りこそが好調な販売を支える

2021年12月に実施された現行型アルトの公道試乗会に参加した筆者

 この好調な売れゆきを支えるのが、スズキのクルマ作りだ。軽自動車の場合、スペーシアなどは装備をかなり充実させているが、アルトのように100万円以下の価格帯に買い得グレードを設定した車種もある。

 アルトはマイルドハイブリッドも用意するが、ベーシックなFFのAやLなら、車両重量は680kgに収まる。そのために電動機能を採用しなくても、2WDのWLTCモード燃費は25.2km/Lと良好だ。価格は100万円以下に収まる。

 アルトのように機能をシンプルにして車両重量を軽くすれば、自ずから燃料消費量も減り、複雑で高価なメカニズムも不要になる。半導体などの部品点数も減り、納期も短く抑えられる。

 つまり、軽くてシンプルな商品開発は価格が高まったり、納期の延びたりする今の課題を解決する有効な手段だ。アルトなどのスズキ車は、特別なクルマ作りは何もやっていないが、商品開発の本質を突いている。

 スズキ車は納期も短く、販売店では「ジムニーなどの例外を除くと、大半の車種の納期が4か月以内に収まる」という。スズキのクルマ作りは、地味で話題になりにくいが、参考になるところが多いと思う。

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