インドを訪れたフルロード編集部員による「インドのトラック乗り比べ」、今回は中型トラックを前後編に分けてお届けする。乗り比べる中型トラックは、2台ともキャブ・エンジン・シャシーが新開発というモデル同士。最新モデルから見えたその違いとは?
文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/トラックマガジン「フルロード」編集部、ぽると出版、DICV
インドの中型トラックとは?
トラックの車格を便宜的に示す言葉として「小型」「中型」「大型」があるが、法規の上では車両総重量(GVW)で区分される。インドの運転免許の区分では、中型車(Medium goods vehicle)免許はGVW7.5~12トンまで、大型車(Heavy goods vehicle)免許はGVW12トン超とされている。日本の中型免許はGVW7.5~11トン未満、大型免許はGVW11トン超だから、割と近いところがある。
いっぽう、インドの純国産メーカーは、中型トラックのことを「ICVトラック」(ICV=Intermediate Commercial Vehicle)と呼んでいるようで、これらはGVW7.5~18.5トンまでカバーしている。ICVトラックは、2018年7月の基準緩和により、それまでのGVW上限の16.2トンから拡大されたが、日本の中型モデルはGVW7.5~20トンをカバーしているので、これも近いといえる。もちろんクルマのつくりはまるで違うのだが…
ICVトラックは、GVW9トン・10トン・12トン・14トン・16.2トン・18.5トンと、だいたい6つのGVWクラスごとに車型が設定されている。日本の中型トラックは、GVW8トン車以外はマイナー車型の扱いだが、インドではそれぞれ売れているようで、配送、運搬、給水、建設などの地場系から、州をまたがっての長距離輸送まで、さまざまな用途で活躍している。
そしてICVトラックは、トラックメーカー6社が供給している。安価なカウルトラックの新車販売比率は約2割(DICVによる)で、大型トラックよりまだ多いのだが、最新排ガス規制・BS6(バーラトステージ6)適合モデルでは、上級キャブ仕様の設定・新開発エンジンの搭載など、質的向上を指向するメーカーが相次ぎ、市場は明らかに変わりつつある。
バーラトベンツvs純国産Y社16トン車
さて、中型トラック(ICVトラック)編の2台は、ダイムラー・インディア・コマーシャル・ビークル(DICV)のGVW14トン級モデル「バーラトベンツ1415R」と、Y社のGVW16.2トン級モデル(以下Y社16t車)である。今回はバーラトベンツ車から報告しよう。
バーラトベンツのICVトラックは、今回の「1415R」のほかに、GVW10トン級「1015R」、GVW12トン級「1215R」、GVW16.2トン級「1617R」、GVW18.5トン級「1917R」、ダンプ専用GVW12トンモデル「1217C」が設定されている。
大型バーラトベンツ車と同じく、キャブとシャシーは、DICVがインド市場向けとして新たに開発したもの。キャブのプラットフォームが、三菱ふそうの「キャンター(TEモデル)」ベースなので、どうしてもキャンター派生車にみえてしまうが、シャシーは完全な別物で、そのキャブさえ過酷な使用環境に応じて構造が強化されており、実態はなにもかも違うクルマだ。
キャブの室内やインパネのデザインは、どことなくTEキャンターの面影が残るものの、やはり違っている。そこかしこが簡素化されてはいるが、それほど貧相にもみえない。大型バーラトベンツ車と同様にエアコンを装備するが、メーカーオプションのパワーウィンドゥともどもICVトラックでは珍しい装備で、バーラトベンツが目指すインド市場でのポジショニングを端的に表している。
ちなみに、長距離運行で用いられることの多い「1617R」「1917R」では、このTEキャンターベースのキャブの後部を延長、ベッドスペースを新設した、独自の「スリーパーキャブ」も開発されている。
エンジンの源流はふそう
「1415R」に乗り込むと、キャブのパッケージングや窓の形は同じなので、運転席に収まった時のムードは、これまたキャンターを思い起こさせずにはいられない。しかしシフトレバーは、TE/TFキャンターのインパネシフト式ではなくオーソドックスなフロアシフト式、ステアリングホイール(ハンドル)も一世代前のメルセデス・ベンツの大型トラック・バスと似た4本スポーク型で、この辺りの「触感」はガラッと違うものだ。
エンジンは「4D34i」。詳しい方はこの型式でピンとくるかもしれないが、ルーツは三菱ふそう4D34型で、それをDICVが大幅改良した、3.9リッター直4ターボエンジンである。電子制御コモンレール高圧燃料噴射装置(CRS)を搭載し、最高出力148hp・最大トルク460Nmを発生する(「1617R」「1917R」「1217C」用は167hp・520Nm)。
大型編では触れなかったが、BS6適合バーラトベンツ車のエンジンは、ダイムラーや三菱ふそうが、Euro-Ⅵやポストポスト新長期で用いている排ガス対策とは異なるアプローチが採られている。それは、従来のBS4適合エンジンをベースに、新開発のDPF+尿素SCRなどで構成される排ガス後処理装置を組み合わせたもので、つまり大量のEGR(排気再循環)を用いていないピュアSCR方式なのである。
トランスミッションは、ダイムラー/メルセデス・ベンツが開発したシンクロメッシュ付マニュアル6速トランスミッション「G85-6」型で、ふそう系エンジンのパワーを、ベンツ系マニュアルTMで伝達しているわけだ。もとはドイツで生産されていたTMだが、いまはDICVへ移管され、欧州向けを含めて全量がインドで組み立てられている。
引っ張って使えるエンジン
この排気量(シリンダ容積)からGVW14トンを発進・加速させるため、やはりギア比は低めの設定で、ガーーーッと引っ張ってシフトアップを繰り返すことになる。グリーンゾーンは1200~2200rpmと広いが、それを超えた2400~2800rpmあたり(レッドゾーンは3000rpmから)も、ごく当たり前に使う常用域である。
そのため、排ガス後処理装置は、日本の3~4リッター級エンジン搭載車(つまり小型トラック)とは比べ物にならないほど容量が大きく、大型トラックのようなサイズである。小排気量でも、仕事量が増えれば、NOx(窒素酸化物)とPM(微粒子物質)の排出量も増えるのである。
ということで、決して静かなドライビングにはならないのだが、4D34iは回したなりにパワーが付いてくるエンジンだった。例えば、30km/h巡航からタコメーターいっぱいまで回してシフトアップ、という増速操作を試してみると、300mほどのストレートをフルに使うことなくトップ6速・約60km/hに達し、その間にパワーが頭打ちになるようなこともなかったのである。
ギアが入りにくいということはないものの、高負荷な環境で用いられるトランスミッションのマニュアルシフト操作は、やはり手ごたえ感がある。パワーステアリングも重めの味付けで、ステアフィールはビジネスライクな印象だが、しっかりしたつくりを感じさせるものだった。
フットブレーキ(サービスブレーキ)はABS付フルエア式ドラムブレーキで、ペダルにちょんと圧をかけただけで、鋭く制動が効くタイプ。定積状態では、制動力にかなり余裕をもたせている感触だったので、ご当地の積載条件が考慮されているのだろう。補助制動装置はコラムレバー操作の排気ブレーキ(1段)だが、インパネスイッチ操作の大型バーラトベンツ車に対して、ごくオーソドックスなインターフェースとなっている。
ちなみに標準装備のエアコンのおかげで、蒸し熱い南インドでも、涼しく試乗できたことを付け加えておこう。(後編へ続く)
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