米航空宇宙局(NASA)が今週初め、国防高等研究計画局(DARPA)と提携して原子力ロケット・エンジンの開発を発表したのに続き、イギリスの航空宇宙企業Rolls-Royceもここに加わる姿勢を見せている。Rolls-Royceは世界有数の航空・エンジンメーカーで、その製品は軍用機と民間機、さらには潜水艦やその他の機械に搭載されている。
同社は宇宙分野にも進出しており、今回、Twitterにて、同社が開発中の超小型原子炉を紹介するティーザーを公開した。最近の原子力推進、特に民生・平和利用では、高純度低濃縮ウラン(HALEU)の利用を目指しており、Rolls-Royceのエンジンもこの燃料を利用するようだ。
NASAとDARPAの先日の発表は、原子力エンジンの利用のための安全な燃料についてが話題の焦点となっていたが、使われるエンジン自体は既存の物で、既に米軍によって空母や潜水艦に使用されている。しかし、このエンジンで使われる燃料は放射性物質が多く、兵器の製造にも使われる可能性がある。当然ながら、航空宇宙分野での使用は、より高い確率で問題が発生する可能性があり、また、任務も遠く離れていることが多いため、複雑なものとなっている。
Rolls-Royceは、新たな原子炉の製造も目指している。同社は2015年から小型モジュール炉(SMR)に取り組んでおり、2029年までにオンライン化することを目指している。この原子炉は、2030年までに低炭素エネルギー源への転換を目指す英国の「エネルギー安全保障戦略」の一環である。ロシアのウクライナ侵攻は、こうした動きに決定的な役割を果たしている。
SMRは1基あたり少なくとも470メガワットの電力を発電する予定で、初期費用は30億ドル(約4,000億円)だ。Rolls-RoyceのSMRは、現在発売されている、あるいはライセンス供与されているSMRの中で最も強力なものとなる。ちなみに国際原子力機関(IAEA)によると、SMR自体はすでに3基が生産を終えて稼働している。そのうち2基はロシアで、3基目は中国で稼働している。
Rolls-Royceのティーザーは、SMRの延長線上にある可能性のあるものを示している。同社はこれを「Rolls-Royce Micro Reactor」と呼んでおり、この発電所は月面に人類が進出するための同社の潜在的な製品ポートフォリオの一部となるだろう。Rolls-Royceは、ラムジェットエンジンや自然崩壊する放射性物質を利用して発電することを目的とした発電所にも取り組んでいるため、マイクロリアクターだけが同社の製品ポートフォリオにあるわけではない。
さらに、Rolls-Royceは、打ち上げ用の2段式ロケット用の原子力ロケットエンジンにも取り組んでいると、同社のイノベーション責任者であるJake Thompson氏は説明する。
現在、ここRolls-Royceでは、60人以上のエンジニアと科学者が、宇宙探査のための素晴らしい技術に取り組んでいます。現在、私たちは、軌道上2段式システムと核システムの初期概念設計開発および試験段階を進めています。私たちはすでに宇宙用原子炉の小規模なプロトタイプ実証機を製作し、2029年までに月へ送るための原子炉を完成させる予定です。
同社はまた、英国宇宙庁と協力して、宇宙探査における原子力の役割を探っている。ロールス・ロイス社では現在、10個のヒーター(ヒートパイプの可能性)とその温度に対する発電の影響に焦点を当てるとともに、エンジンヘッド全体の温度への影響も調査している。また、エンジン電圧の評価や、それに伴うエンジン出力やシステム負荷の評価も行っている。
原子力エンジンというと、今となっては斬新なコンセプトのように聞こえるが、NASAではこれまでに6回の実験を成功させている。これらはすべて1960年代に行われたもので、火星と太陽系を探査する計画の一部だった。これらのテストでは、Kiwiエンジンのプロトタイプを使用し、核エンジンロケット車両応用(NERVA)プログラムに適用した。NERVAの試験では、比推力701秒を達成し、真空中の理論推力は900秒を超えると推定された。また、テストは非常に成功し、問題なく浮上することができた。
比推力は、宇宙航行において、エンジンの設計や性能を決定する重要な要素である。比推力とは、単位質量が単位時間あたりに発生させる推力(パワー)のことである。そのため、より少ない質量でより大きな推力を発生させるエンジンが効率的であり、ロケット全体の重量を減らすことができるため、効率を表す単位となる。NERVAエンジンとの比較のために、スペースシャトルやNASAの宇宙発射システム(SLS)ロケットの動力を担うRS-25は、世界で最も効率の良いロケットエンジンの一つだが、比推力はNERVAの半分近く、462秒という数値が出されている。一方、SpaceX社のRaptor 2は、382秒を目指している。
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