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お茶の事業を通じて日本文化を世界に伝えるスタートアップ「TeaRoom」代表、岩本涼さんに迫るインタビュー。後編は「オワコン」と言われがちな日本復活への思い、今年から本格化する世界展開について伺います。(聞き手は新田哲史編集長)

岩本涼(いわもと・りょう)1997年生まれ、早稲田大在学中に株式会社TeaRoomを創業。静岡で日本茶工場を承継し、衰退が続く茶業界の変革に取り組む。裏千家の茶道家として「岩本宗涼」の名前を持つなど「茶の湯文化× 日本茶産業」で多方面で活躍(撮影・武藤裕也)

お茶で世界の対立をなくす

--お茶で世の中の課題を解決する自負がおありですよね。世界平和にも貢献したいとの思いだとか。

【岩本】はい、「対立をなくしたい」一心です。僕はダボス会議の下部組織に入っていて、その席でも言うのですが、「インド人と中国人のけんかを止められるのは日本人しかいない」と。

--興味深いですね。その心は?

【岩本】日本人はなんでも「いいね」と取り込めます。インド人にも中国人にも「君のいうこともわかる」と言えてとりあえず真ん中で行こうとする。ポジションをあえて取らないからこそ世界に平和をもたらせられるのかなと感じています。

室町時代に活躍した侘び茶の祖、村田珠光が「和漢の境を紛らわすことが肝要」という言葉を残しているのですが、色々なものをごちゃ混ぜにしてでもいいものを作りなさいということだと解釈しています。だから僕らが世界で地域に入って対立をなくしていきたい。

--具体的な海外展開は?

【岩本】日本語、英語、スペイン語の3言語でウェブサイトを準備予定です。それぞれの言語によって、立ち位置やアピールする側面を変えていこうと考えています。

17世紀、イギリスやオランダがアジアとの交易のために設立した東インド会社は、香辛料の流通も手掛け、いわば「食のインフラ」とも言える役回りでした。そして21世紀、私たちの会社もフードとカルチャー、エコシステムを日本で培ってきたフードテックカンパニーだと知っていただけるようになりたいです。

--進出先の国の飲食事業者と組んで商品企画などをするのですか?

【岩本】それもやると思いますが、場所を持ちに行きたいと考えています。日本の禅寺ではないですが、現地ローカルの文化と融合させ何ができるのか検討して出していきます。

--アメリカはやはりニューヨークで展開されるのですか?

【岩本】フードテックの拠点や研究施設は将来的にニューヨークに持つかもしれませんが、NYは、エリートの人たちが多く洗練された印象です。それよりも対立やカオスが生まれそうなエリアにこそ自分たちの提供価値があると考えています。そこで選んだのが黒人やヒスパニック系が数多いサンフランシスコ。お茶を体験できる場所を作る構想を進めています。

世界展開の構想を熱く語る岩本さん

日本をオワコンにしないために

--岩本さんは1997年生まれだから、「Z世代」(90年代中盤〜00年代終盤生まれ)に入ると思うのですが、生まれてこの方、日本の経済は成長しない状態が続いています。そういう中でも、起業家として日本がまだまだ勝負できるぞという思いがあれば伺いたいのですが。

【岩本】確かにこのまま行くと日本は“オワコン”です。大学の講義で話をしたら、学生が「いいところに就職したところで、好きなことをしないと幸せになれない時代」なんて話してきます。また、ある人に「日本に投資した瞬間に負け」という寂しいことを言われたこともありました。ただその彼の言葉には“追伸”がありました。

--どんな“追伸”ですか。

【岩本】「日本から世界に出ていく企業には投資をしたい」と。これは私も高校時代に留学してから、TeaRoomで輸出の仕事輸出に関わる仕事をやっている今でも実感しているのですが、いまだに日本ブランドって意外とまだまだ使えるんですよ。台湾やタイの人たちは日本産というだけで重宝します。

ただし、これ以上、国が衰退していくなら日本のブランドが使えるのは最後の局面だとも思います。今はまだぎりぎり耐えているんですね。だからこそ私たちの世代が必死に日本の価値を上げる活動をしていかないとならないと考えています。

--日本の長所と短所をどう見ていますか。

【岩本】日本は文化や風土は豊かなので、そこは日本の強みです。一方で「引き算の文化」だから「足し算の文化」が多い世界において損をしているところもありますね。

--「引き算の文化」とは?

【岩本】以前、イギリス王室が国賓を接遇しているシーンを見たときに思ったのですが、絵画や骨董品など背景にたくさん置いていました。これはその場の価値が高いことを証明する「足し算の文化」なのですね。

2019年6月、訪英したトランプ大統領(当時)に王室のコレクションを案内するエリザベス女王(写真:ロイター/アフロ)

一方、日本では天皇陛下が皇居で、大統領を迎えて歓談している応接間などは余計な装飾はしていないのです。でもその気になれば能舞台をそばに置いたり、お茶碗を置けば茶室に設えたりできるのに、あえてやらない。これが「引き算の文化」だと考えています。

2019年5月、トランプ大統領夫妻(当時)と歓談する天皇皇后両陛下(宮内庁サイト)

--(取材中)いま画像検索しているのですが、確かに日本はシンプル、イギリスはゴージャスですね。

【岩本】でも引き算をしているからといって何もしていないわけではないのです。その裏方にはたくさんの方がおられます。

先日、京都で私たちが茶会をした際、16人のお客様をお迎えしたのですが、茶室でお茶を一杯立てている裏には、何かあった時の対応を含めて十数人のスタッフがいるのです。だからこそそれなりの運営費がかかるのですが、そうした表には見えないことも含めて価値を感じていただくには文化と教養が求められてしまう面もあります。

これからウェルビーイングの時代になると、欧米でも「無形の資産を評価していこう」とか「東洋のこれはよく分からないけれども、何か価値がありそうだ」というように考え方が変わっていくかもしれません。そうしていく中で、日本の「引き算の文化」にも世界の関心が向いてくれるようにしたいですね。プロダクトだけではない、精神的な側面も含めた付加価値。世界の見方を変えることが日本のアセットを強くするのではないでしょうか。

お茶の精神文化をまとめた独自編纂の「稽古本」を前に取材に答える岩本さん(左は新田編集長)

文化と産業はOSが違う

--ただ、引き算の文化を理解してもらうのは容易ではないですよね。

【岩本】僕も当事者なのでよくわかるのですが、変にテコ入れをしようとするとうまくいきません。文化と産業はOSが違いすぎます。茶人にいきなり経理を任せたり、上場基準がどうだとか言ってみたところで、資本主義とは異なる世界にいるわけなのでうまくいきません。資本主義のOSを無理に文化に当て込んでもアプリは作動しません(笑)。

お茶も温泉も文化や精神は変わる必要はないのですが、送客など経営環境を整えることは資本主義側でもできます。

--確かに日本の強みや良さを無理に変えるのではなくて、どう結びつけて、世界の人に知ってもらうかが重要ですね。

【岩本】それこそが、社会のインフラである「ティーカンパニー」の使命です。日本の全産業が儲かるようにしたい!

--素晴らしいです。今年が飛躍の年になることをお祈りしています。本日はありがとうございました。