2022年シーズンのFIA F2参戦にあたり、佐藤万璃音は2021年チームランキング2位を獲得したビルトゥジ・レーシングへと移籍。上位チームの一角からの参戦となり、その走りに注目が集まった。しかし、全28レースを終えて入賞は3回、ドライバーズランキング22位という結果に終わった。FIA F2フル参戦3年目を終えた万璃音に2022年シーズンの戦い、そして2023年シーズンのレース活動について聞いた。
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──2022年シーズンのFIA F2を振り返るにあたり、まずは2021年シーズン最終大会後にアブダビで実施されたポストシーズンテストに、ビルトゥジ・レーシングから参加したあたりからお話しをうかがえますか?
「はい。まず、それまで乗っていたトライデントのクルマとはけっこう違う印象を受けました。同じクルマに2シーズン乗り続けて、いざ新しいクルマに乗ったので、すぐに良い方向へ出る部分もあった一方、自分が修正しなくてはいけない部分もありました」
「2022年シーズン開幕大会前にはバーレーンのプレシーズンテストに参加して、アブダビ同様そこでもけっこう良い印象を受けました。ビルトゥジ・レーシングというチームの仕事の進め方はもちろん、クルマに関しても違和感や不満はありませんでした。本番では上位を争えるだろうと楽観的でした」
「開幕大会のバーレーンは練習走行よりも気温が下がった予選となり、最初のセクターで非常に苦労しました。とはいえ、コースの後ろ半分はチームメイトよりも僕のほうが速く、失敗はあったけれど不安はありませんでした。もっとも、テスト段階でロングランのペースは良かったとはいえ、予選で後方へ沈むとやはり難しい週末になりますね」
「サウジアラビアでは予選で赤旗が出たのがアタックラップの終盤とタイミングが悪くて、結果的にガソリンが足りなくなりました。バーレーンでもサウジアラビアでも速さは確実にあったと思いますし、それをしっかりとかたちとしてまとめられれば前方のグリッドを得られる手応えは、2022年シーズンに入る前からずっとありました」
──エンジンのトラブルなどはあったにせよ、クルマに関して言えばそれほど深刻な問題を抱えているようには見えませんでした。しかし、結果を得られないままシーズンが終了してしまった印象を受けました。
「そうですね。クルマのバランスや好みに関しては、予選の一周のペースを出しきれないとき、速いけれどうまくまとめられなかったとき、自分としては乗りにくいと感じている部分が小さいけれどあったのかな? それはシーズン序盤からトラックエンジニアと話して、ベースセットからもう少し自分好みへ寄せたものを試しました」
「ただ、なかなか決まらず、ようやく自分好みになりかけたのは夏休み明けのスパ・フランコルシャンやザントフォールトあたりでした。もう少しこうしたいという部分はいつもありましたが、シーズン序盤からぜんぜんダメというクルマではなかった。結局のところ流れにうまく乗れないまま、2022年シーズンが終わってしまった感じです」
──あらためての確認となりますが、ご自身は2021年シーズンにフェリペ・ドルゴビッチが走った際のシャシーとトラックエンジニアを2022年シーズンで引き継いだわけですよね?
「はい、そのままです。自分のドライビング面においては、チームメイトのジャック・ドゥーハンはもちろん、その前の周冠宇やドルゴビッチとぜんぜん違うという部分はありませんでした。シーズン序盤について言えば、ジャックがミスやクラッシュであまり走り込めていなかった部分もけっこうあって、タイヤを労わる走りでは自分のほうが長けていたと思います」
「たしかに2021年シーズンとはタイヤのコンパウンドの違いもあり一概には言えないところもありますが、トラックエンジニアによるとドルゴビッチのセットアップに関する要望の傾向は僕と似ていたと聞いています。ドルゴビッチの求めていたものと僕の求めていたものはほぼ同じで、どうやってそれを実現するかという話でした」
「いずれにしても、もう少し早くその状態へクルマを持って行けていれば……。自分のミスが原因ではないのにタイムや結果を残せなかったケースはシーズン半ばまでけっこう多かったので、もう少し早く正解に近づけていれば状況は大きく変わっていたと思います」
──予選で一発の速さを見せられなかった原因をどう考えていますか? 一方、プライムタイヤで引っ張って上位へ進出するとか、レース終盤にオプションタイヤで追い上げるとか、決勝でのレース巧者ぶりは目を引きました。
「予選では最適の温度域にタイヤを温めるまでにあたり、トラフィックのためできなかったセッションも多くありました。また、バルセロナではアタックラップ中に自分がコースをはみ出してしまいました。うまくセクターベストを記録しながらも、アタックラップを赤旗や黄旗に遮られるケースもありました。一概に何が原因とは考えていません」
「タイヤに関しての理解はそれなりに深められたと思います。ただ、ドライバーのドライビングよりもクルマのセットップのほうがタイヤのデグラデーション進み方への影響が大きい。また、タイヤ/ホイールが13インチのときよりもタイヤのデグラデーションが激しく進むわけでも無くなったので、ドライバーの腕がどうこうという要因は少なくなったと思います」
「ドライバーの腕の差が出なくなったぶん、後ろから追い上げて前のクルマを抜くにもタイヤを余計に使う必要があって、そうなるとどんどん抜いていくのは難しい。しかも、2022シーズンはけっこう“DRS渋滞”にハマるケースが多くて、誰も彼も抜くに抜けないレースも多かった。極端にペースが速くない限りは抜けません」
──2022年シーズンを戦い終えて、ご自身の弱みと強み、弱みというか課題でしょうけれど、何が見えましたか?
「自分が技術的に足りない部分は特に見当たりませんでした。FIA F2を戦ってきた先の3シーズンは、そのため自信を無くす場面もけっこう多かった。2022年シーズンはレースで勝てるクルマを用意してもらい、自分がそれに乗りました。シーズン序盤から、結果を残せるはずのレースは少なくなかったと思いますし、きっかけとなるレースもけっこうあったと思います」
「たとえば、ポールポジションが現実的だったのに黄旗に邪魔されたモンツァもそうですし、イモラの決勝もセーフティカーがあと3秒早く出ていれば表彰台が見えていました。サウジアラビアの予選も普通にアタックできていれば、もっとも前からスタートできていました。最終セクターが速かったので、ポールポジションもあったと思います。まあ、挙げたらキリがないですね(苦笑)」
──不服かもしれませんが、ランキングや成績でチームメイトのドゥーハンとは嫌でも成績で比較されてしまいます。これをご自身はどうやって納得しているのでしょうか?
「予選一発をまとめてくる彼の能力は高いと思います。技術的な面もあるでしょうが、精神的な面が大きいのかな? と」
──2019シーズンのユーロフォーミュラ・オープン(EFO)では、たしかにライバルよりも旧F3のクルマでのレース経験が豊富だったとはいえ、角田裕毅、リアム・ローソン、ドゥーハンを寄せ付けずにドライバーズ・チャンピオンに輝きました。16レースで6ポールポジション、6レース連続優勝を含む9勝でした。
「2015年~2016年シーズンにヴィンチェンツォ・ソスピリ・レーシングでイタリアFIA-F4を戦っていたとき、チーム代表のヴィンチェから言われていたことを思い起こしますね。“もし、予選が1時間あって好きなだけ走れていたら、絶対に万璃音は毎回ポールポジションを取れるだろうな”と。やはり、いまのFIA F2は練習走行時間が少なく、予選でもタイヤ1セットで1、2周しかアタックの機会がありません。その部分で自分は下手なのかな? と」
「EFOでは毎大会、良い形で週末へ入れていました。というのも予選前の金曜日、それなりの時間が練習走行として割かれていたので、自分のスタイルに合っていたのかなと思います。FIA F2は短い練習走行で予選と決勝のセットアップを決めて、僅か45分間の予選で2周×2回のアタックラップを決める必要があります。自分としてはもう少しじっくりと予選と決勝へ向けた準備を整えたかったですね」
「そうしたFIA F2フォーマットへの対応が自分の足りないところかも知れません。F1みたいに3回も練習走行があったら、それは自分にとってすごくアドバンテージになると思っています。EFO開幕大会も最初の練習走行ではまったく良くなかったけれど、走行時間に余裕があっため自分の伸び代はライバルより大きく、結果的に優勝できました」
「FIA F2のクルマの特殊性も自分にはハンデキャップになっているかも知れません。レーシングカーという意味では、過去に乗ってきた旧F3規格のクルマとFIA F2はまったく異なります。クルマの重量や運動性能あるいはタイヤの性能は、トラディショナルなフォーミュラカーとは程遠いと言えます。車両重量に見合ったダウンフォースや運動性能を得られるわけでもありません」
「旧F3規格のクルマを3シーズンにわたり乗ってきた経験は、意識しないようにしていても自分の中で潜在的に残っていて、FIA F2に対する苦手意識がぬぐい切れなかったのかも知れません。実際のところ、2020年12月にアルファタウリの最新型F1マシンをテストする機会に恵まれたときのほうが、自分にはクルマに馴染んでいると感じましたね。しっくりくる印象でした。FIA F2よりも旧F3のほうがF1に近いですね」
──最後に、2023年シーズンのレース活動を話せる範囲で尋ねします。
「FIA F2のトップチームはすでにすべて埋まっていて僕が入り込む余地はありません。フォーミュラカーに乗れれば良いですが、そこにこだわらなくてもチャンスはあるかなと最近は思っています。たとえばLMP2。ニック・デ・フリースはFIA F2でタイトルを獲ってからの参戦で、僕とは状況が同じではないけれどそういうパターンもあるかなと考えています」
「他人と同じアプローチを取るよりもチャンスはありそうですし、もちろん2024年シーズンのFIA F2再参戦も考えています。年内には2023年シーズンのレース活動がちゃんと決められるように頑張っています。米国や日本でのレース活動も検討しましたが、欧州へ戻って来られる可能性は低くなると思いましたし、カテゴリーはともかくいまは欧州メインで考えています」