2013年以来、9年ぶりに2冠を達成したレッドブル。彼らが両タイトルを防衛するためには、ハードとソフトの両面でこのオフシーズン中に取り組まなければならないことがある。
まずハード面だ。2022年にコンストラクターズ選手権を制したということは、車体とパワーユニットの双方で最も高いパフォーマンスを披露していたと言っていいだろう。車体に関してはシーズン序盤に最低重量をオーバーしてフェラーリに対して約コンマ3秒のラップタイムを失っていたが、2022年に導入された新たな空力レギュレーションに対して的確に対処し、ライバルたちをリードしていたあたりは、さすがエイドリアン・ニューウェイ(チーフテクニカルオフィサー)である。
ただし、2022年にチャンピオンシップ争いで敗れたフェラーリは、シーズン後半は早々に開発を翌年へシフトしていた。また2022年に王座から転落したメルセデスも失敗した空力にメスを入れ、2023年は大きく前進してくることは間違いない。
すでに2022年に成功しているレッドブルは正常進化させればいいという意味ではアドバンテージがあるが、レギュレーションによって、2022年コンストラクターズ選手権7位のアストンマーティンの70%の時間しか空力開発の時間を使用できない。
また2021年の予算制限に違反したと認めたことで、さらに10%削減され、63%しか風洞やCFDを動かすことができなくなった。2023年のマシン開発は2022年中に始まっているため、2023年の空力開発時間制限による影響を直接受けるのは2024年のマシンとなる。したがって、2023年は例年以上に2024年のマシン開発に空力開発時間を割くことが考えられ、2023年のマシンを2022年のように進化させることができなくなるかもしれない。いかに効率よくマシンをアップデートするかが、いつも以上に重要となることだろう。
パワーユニットに関しては、2022年の3月1日にホモロゲーションされ、2025年末まで開発が凍結されているため、勢力図が大きく変化することはないだろう。ただし、慢心は禁物だ。ひとつは凍結されることを見越して、2022年は信頼性よりも性能を優先させてきたライバル勢が、2023年は間違いなく信頼性を向上させてくるからだ。
ホンダ・レーシング(HRC)が開発したパワーユニットは2022年シーズン、性能面と信頼面でライバルより優れていた。それでも、2022年に新しくテクニカルディレクターに就任してHRCのスタッフたちをまとめていた本橋正充は「完璧だったかと言われれば、まだまだやるべきことはある」と振り返る。
では、開発が凍結されているなかで何ができるのか。レッドブルでパワーユニット側のチーフメカニックとして仕事している吉野誠もこう語る。
「まず、信頼性の向上です。凍結されている部分でも信頼性向上のためなら、変更は可能。グリッドペナルティも減らすことができれば、それだけポイントを獲れるチャンスが増える」
2022年にレッドブルが投入した内燃機関(ICE)は5基だった。もちろん、これは3基目までのICEにトラブルが出て、年間3基で賄えなかったためではなく、4基目と5基目は戦略的な交換だった。ただし、信頼性に不安があったことは事実。メルセデスが4基で乗り切ったことを考えると、信頼面でHRCがやるべきことはまだある。
信頼性を向上させること以外にもやらなければならないことはあると吉野は言う。
「じつはホモロゲーションされていても、凍結されていない部分は変更できます。もちろん、このエリアの改良は、直接的にパワーユニットの性能向上にはつながらない。でも、そのエリアの配置や形状を変えることでボディワークの形状を変更することができます。結果的に空力に寄与してラップタイムを上げることができるわけです」
そして、最後にこう語って、勝って兜の緒を占めた。
「2023年はメルセデスが間違いなく脅威になるでしょう。トップ3がより接近し、いままで以上に慎重に1戦1戦を大事に戦わないといけない。レギュレーションは変わらなくても、どのチームも来年は大きく変えてくるので安心はしていません」
レッドブルが2023年もチャンピオンシップ争いをすることは間違いないだろうが、最終的にどのポジションとなるのかは、このオフシーズンの仕事次第となる。