<p><特報>対馬の仏像 日韓関係と韓国司法に10年振り回された</p><p><特報>対馬の仏像 日韓関係と韓国司法に10年振り回された 仏像問題は日本の対韓感情悪化の一因になった経緯があり、今後の尹政権の対応も注目される。</p><p>韓国人窃盗団が長崎県対馬市の観音寺から韓国に持ち込んだ仏像をめぐり、韓国の大田(テジョン)高裁が1審判決を破棄し、観音寺の所有権を認めた。返還を訴えてきた前住…</p><p>反応 韓国人窃盗団が長崎県対馬市の観音寺から韓国に持ち込んだ仏像をめぐり、韓国の大田(テジョン)高裁が1審判決を破棄し、観音寺の所有権を認めた。返還を訴えてきた前住職の田中節孝氏は産経新聞の取材に「(返還実現に向け)安心はできないが、光明が見えただけでもよかった」と語った。韓国で仏像が回収されてから10年。この間、観音寺や地元関係者は、日韓関係や韓国の司法に振り回されてきた。 韓国国内で窃盗団が摘発され、仏像が回収されたのは平成25年1月。田中氏は「仏像はすぐに返ってくると思った」というが、韓国中部・瑞山市の浮石寺(プソクサ)が「倭寇に略奪されたものだ」と所有権を主張し、韓国世論も同調した。結局返還されず、韓国政府の管理下に置かれた。前年の24年8月、支持率低迷に悩む当時の李明博大統領が竹島(島根県岐の島町)に上陸し、日韓関係は悪化していた。 朝鮮半島では、14世紀末に成立した李氏朝鮮が儒教を国教としたため、仏像破壊が起きた。惨状を見かねた人が廃棄された仏像を日本に持ち込んだと伝えられる。浮石寺は李氏朝鮮時代に一時廃寺になったといい、観音寺の仏像もこの時期に対馬に持ち込まれたとみられている。 田中氏らは返還運動を展開し、「信者の心が休まることはない」として韓国政府などに仏像の早期返還を求める手紙も送った。ただ、返還の是非は韓国の司法判断に委ねられ、平成29年1月の韓国の地裁判決は浮石寺の所有権を認めた。浮石寺に引き渡されれば、本来の所有者である観音寺に永久に返還されない公算が大きい。 昨年6月には、現住職の田中節竜氏が高裁での控訴審に出廷し、「10年前に窃盗団に盗まれて不法に韓国に持ち込まれたという事件の本質に立ち返るべきだ」と訴えた。 日韓関係は文在寅(ムン・ジェイン)政権下でも、韓国の司法判断に起因するいわゆる徴用工訴訟問題などを巡り悪化した。ただ、昨年5月に発足した韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は北朝鮮の核・ミサイルの脅威が高まる中で日本との関係改善を掲げ、雪解けムードが生まれた。 尹政権は徴用工訴訟問題の解決に向けた具体策な検討に着手し、11月には3年ぶりに日韓首脳会談が実現した。 こうした中、高裁が地裁判決を破棄し、観音寺の所有権を認定した。ただ、田中氏は「この10年で『生きている間に返ってきてほしい』と言いながら亡くなってしまった住民も多い」と語る。「窃盗事件なのだから、盗まれる前の持ち主に早く返してほしい」と強調する。 仏像問題は日本の対韓感情悪化の一因になった経緯があり、今後の尹政権の対応も注目される。松野博一官房長官は1日の記者会見で「早期に日本に返還されるよう、韓国政府に働きかけるとともに、関係者と連絡を取りつつ適切に対応していく」と述べた。(田中一世)</p>