アウトランダーPHEVにeKクロスEVと、スマッシュヒットが続く三菱。業績も回復したとなれば、気になるのはこの先の未来。三菱自動車工業 加藤隆雄社長に、ひとりのクルマ好きとして話を伺った。
※本稿は2022年11月のものです
聞き手・文/ベストカー編集部、写真/三菱、ベストカー編集部 ほか、撮影/茂呂幸正
初出:『ベストカー』2022年12月26日号
■復調著しい三菱自動車
2020年度は950億円を超える赤字となったが、2021年度は870億円超の営業利益となり、2022年度は1700億円の営業利益を見込んでいる。
この好調は為替要因もあるものの、販売の質的改善といったものに精力的に取り組んだことが大きい。
主力マーケットであるASEAN地域の市況が回復傾向を示し、フィリピン・ベトナムでは新型モデルが予想を上回る受注を獲得。日本市場でもアウトランダーPHEVが2022年度上半期におけるPHEVカテゴリー販売1位となり、2位にはエクリプスクロスPHEVが入るなど、存在感を増している。
そんな好調の波に乗る三菱自動車・加藤隆雄社長に、「これから」を聞いた。主力となるパワーユニット、モータースポーツ。読者の方が気になるであろう内容に注力したので、楽しみにページをめくっていただきたい。
■この先10年を支えるパワーユニットとは?
ベストカー(以下BC)/日本もそうですが、それ以上に欧州、米国で電動化が叫ばれるようになりました。このような状況で御社としては、この先10年を支えるパワーユニットは何であるとお考えでしょうか。
加藤社長/難しいですよね、今から10年というとEVとPHEV、ハイブリッドと内燃機関が混在している状況でしょう。そのなかで電動車の比率が上がっていき、徐々にEVの比率も上がってくるということになるのだと思います。
BC/タイでも2024年以降、すべての乗用車を電動車にするという話がありましたが、そのなかで御社のこの先の主力となると、やはりPHEVになるのでしょうか。
加藤社長/そうですね、PHEVは我々にとって非常に重要な技術です。現在アウトランダー、エクリプスクロスの2モデルを持っていますが、この2台は非常に成功しているというか、お客様にかなり受け入れていただいております。さらに、このPHEVの技術があれば、プラグイン機能をなくしてストロングハイブリッドにすることもできますし、エンジンをおろしてBEVとすることもできる。
PHEVをコア技術とすることで、販売する地域や世の中の動向にも合わせた、いろんな選択ができると思います。
BC/今、ハイブリッドの話が出ましたが、ハイブリッドで進められているものはあるんでしょうか。
加藤社長/ASEANのほうになりますが、ストロングハイブリッドのものを、この先、出す予定です。
■今後のスポーツモデル登場の可能性はどうか
BC/ランエボの終了以来、御社のラインナップからスポーツカーがない状況が続いておりますが、これからそういうクルマが出てくる可能性はありますでしょうか。
加藤社長/ファンの方も多いですし、我々も中では「なんとか出せるといいよね」という話はけっこうあるんですけども、我々の規模の会社ですと、ああいった純粋に走りを追求したクルマというのを考えるのは、まだ少し早いのかなと思っていますね。充分な収益が上がるようになってくれば、という感じです。
ただ、アジアクロスカントリーラリーに出ることを決めたことからもわかっていただけると思いますが、そういったスピリットを持ったクルマは手掛けていきたいと思っておりますし、S-AWCのような4輪制御技術も息づいておりますので、環境化技術とも合わせ、お客様に運転を楽しんでいただけるクルマを作っていきたいと考えています。
BC/アジアクロスカントリーラリーでは、三菱自動車が技術支援するチームにラリーアートの名を冠し、復活を印象づけられましたが、今後ラリーアートはどういう方向に成長していくのでしょう。
加藤社長/これはお客さまから非常に多くのご期待の声をいただいておりまして、大変ありがたく思っております。
「WRCには出ないのか」というような声も耳にするんですけども、我々の規模の会社が一気にWRCとかダカールラリーに出て、というようなことができるかというと、それは難しいところがありますので、まずはアジアクロスカントリーラリーに出て実績を残す、ということですね。
大事に育てていきたいと考えておりますし、すぐにやめたりする気もありませんので、温かく長い目で見守っていただきたいですね。
BC/かつてはスポーティなモデルに、ラリーアートの名を冠したグレードが用意されていましたが、今後そういうグレードが設定される可能性はありますでしょうか。
加藤社長/あると思います。ただ、ラリーアートを名乗る以上、ドレスアップしただけのクルマを出しても仕方がありませんので、アジアクロスカントリーラリーでしっかりやって、そのノウハウをいかして走行性能を高めるところまでやれればいいなと思います。
■グローバル化の中での「これから」の三菱車
BC/先日、そのアジアクロスカントリーラリー出場に向けた試験車であるトライトンを取材させていただきましたが、御社のコアマーケットであるASEAN市場には、トライトンをはじめ強力な個性と魅力を持ったクルマがたくさんあります。それらが日本に導入されることはありますか。
加藤社長/今の時点でASEANで販売しているクルマを日本に持ってくる予定はないんですが、将来的にはそういうことを考えてもいいのかなとは思っています。
というのもASEAN地域のお客さまが求められているものが、先進国のそれに近づいてきているんですね。それこそADAS(先進運転支援システム)の機能なんかも、けっこうついていますし、日本で出しているクルマとASEANで出しているクルマの差がなくなってきています。
そのような状態ならばASEANで出しているクルマを日本でも出すということも、将来的には「あり」なのかなと考えています。
BC/評論家陣のなかからもエクスパンダークロスを日本に入れれば面白いのに、という声が多く上がっています。
加藤社長/そうですね。私もチョコチョコそういうコメントを見ます。出ればいいなとは思いますよね(笑)。
BC/現時点では難しい、と。
加藤社長/やはり日本に出すためには日本の規制に適合させていく必要があるんですが、それに必要なコストがどの程度かというと、けっこうな額になりまして。じゃあそれで何台売れるんだという事業性を考えていくと、なかなか難しいよなぁという感じですね。
BC/エクスパンダーにもPHEVの技術を応用したハイブリッドが2023年度以降に設定されるという話を聞いたことがあるのですが、そうなると環境性能に関するハードルは低くなるのかな、などと考えてしまうのですが。
加藤社長/そうですね。ハイブリッドの採用でいろいろなことがやりやすくなりますが、衝突安全性能なども求められるものが若干違いますので、そういうことも考える必要があると思います。
ですが先ほども言いましたように、将来的にはASEAN市場のクルマを日本に入れることも視野に入れておりますので、もう少々お待ちいただきたいと思います。
BC/なるほどです。本日はありがとうございました!
●加藤隆雄 三菱自動車工業 取締役 代表執行役社長 兼 最高経営責任者……1984年三菱自動車入社。名古屋製作所、ロシア組立事業推進室勤務を経て、2014年名古屋製作所副所長に就任。2015年ミツビシ・モーターズ・クラマ・ユダ・インドネシア(MMKI)取締役社長、2019年三菱自動車取締役 代表執行役CEOとなり、2021年4月、取締役 代表執行役社長 兼 最高経営責任者に就任。現在の愛車はエクリプスクロスPHEVとeKワゴン
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